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クリスマスプレゼント



 クリスマスツリーセットの箱を、何年かぶりに取り出した。
 我が家から子供が居なくなって、ずっと物置にしまっておいたものだ。

 もう使うこともないだろうし邪魔だなあ、と、それを見るたび気になってはいたのだが、いざ捨てるとなるとそれも億劫で、その内その内と忘れたふりをしていた。
 
 けれども今年、病いを患い、自分に残された時間が無限にあるわけではないのを痛感して、考えを変えた。それからは努めて不要なものは捨てることにしたのだ。いわゆる生前整理だ。

 クリスマスツリーセットも、当然、捨てるものの一つだったが、ゴミに出す前にせめて一回飾ろう、という妻の提案があり、私はそれを受けて、12月の今までそれを残していた。

 飾り始めるきっかけが掴めず、クリスマスイブ当日になってしまったが、それでも今日飾り付けを済ませれば、一応約束を守ったことになるだろう。

 箱は薄っすらと埃をかぶっていて、何本かの紐で縛ってあった。売っていた時と同じように収納することができなかったのか、蓋が浮き上がっていたので、そのためにした処置なのだろう。

 固く結ばれた紐を解き、蓋をあけると、一番上に思いもよらないものが入っていた。
 2つに折られた画用紙だった。
 開くとクレヨンで描いた絵があった。
 息子のものだ。

 不意を突かれた私は、手を止めてしばらくその絵を見ていた。
 真ん中にクリスマスツリーがあり、その周りに三つの人らしい姿。そばにぼく、ぱぱ、まま、とかろうじて読める字が書いてある。

 私の様子がおかしいのを感じて、妻が寄ってきた。それに気付いて、慌ててその絵を隠そうとしたが、時既に遅く、はっきりと妻に絵を見られた。私は黙って妻にそれを渡した。

 妻もまた固まったようにして、その絵を見ている。
 無言の妻が心配になり、私は声を掛けた。
「大丈夫か?」

 一人息子を突然失って、はや二十年。
 当初、妻は完全に壊れた。
 あらゆるところに息子の面影を見、泣き叫び、食事も取らなくなった。

 そこで医者の勧めもあり、妻をしばらく実家に預け、その間、私は我が家から息子に関わる一切のものを封印した。

 三年ほどで妻は落ち着き、以来、私たちは息子は前から存在しなかったように暮らしてきた。冷たいようだが、妻も私も息子の話は一度もしなかった。墓参りには私だけが行っていた。

 妻は絵を見たまま長い溜息をついた。それから、涙をこぼした。しかし以前のような絶叫はなかった。

 涙をこぼしながら妻が言った。
「素敵なプレゼント。ありがとう」

 その夜、私は封印していたものをすべて開け、息子の思い出を妻と語り合った。
 
   - end -


 以上のようなお話が父から送られてきました。
 父が以前から趣味で小説を書いているのは知っていましたが、これはどういう意味だと思いますか?
 私は死んでいませんよ。ちゃんと生きています。
 まあ、手術で息子ではなくなっているんですけどね。
 許してくれるって意味なのかなあ。だったら素晴らしいクリスマスプレゼントなんだけどなあ。


 終わり

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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夢に周公を見ず




「これを飲めば、思った通りの夢が見れるのね?」
 私は期待に胸を膨らませて、渡された錠剤シートを見た。

「いや、絶対というわけじゃないから。あくまで見やすくなる、ってだけで」と、薬をくれた友人のメイは水を差した。
「自分が見たいと思う夢を見ることができるようになるには、まずは明晰夢を見る必要があるの。で、その薬を飲むと、必ず明晰夢が見られるようになるってわけ」と、言ってきた。

「明晰夢?」
 私は聞いた。
「ああ、これは夢なんだ、自分は今、夢を見てるんだなあ、ってわかる夢のことよ」
 相手が答えた。

「ああ、たまにそんなことあるかも」
 私は過去に見た夢の幾つかを思い出した。
 
「夢の中で、今、自分は夢を見ているって自覚できたら、そこから見たい夢に持っていくの。最初は上手く行かなくて目が覚めてしまうかもしれないけど、そこをうまくコントロールして、目が覚めない、けれど夢も見なくなるほど深く眠らないという状態を持続して、見たいもののことを考える。多分、一週間もしたらできると思うわ」

「ありがとう、やってみる」
 私はメイにお礼を言った。

「でも、薬まで飲もうとしていることは、バレないようにしなさいよ。旦那さんには言ってないんでしょう?夢でどうしても逢いたい人のこと」
 私はうなずいた。

「まあ、知り合った中学の頃から、ずっとあの俳優のファンだったもんね。だから気持ちは分かるけど。えーと、なんたらタケシって人だっけ?」
「イジュウイン タカシ!」
 相手の失礼な物言いに、私は強く訂正した。

「考えてみれば、あのイジュウインって、あんたの旦那さんに似てるよね。いや、旦那さんがイジュウインに似てるのか」
 そうだ。旦那と付き合おうと思ったきっかけは、顔がイジュウイン タカシに似ていたからだ。でも、やっぱり、彼じゃないと……。

「あなたの熱愛している俳優に自分が似ていることを、旦那さんは知ってるの?」
「いや、言ったことない。ショックを受けられたら嫌だし……」

 私が中学の頃から、イジュウイン タカシのファンだということは旦那には秘密だ。
 まして、イジュウイン タカシが好きなのではなく、彼がやった役のマジマ セイギに惹かれたのだということは、家族の一部しか知らない。

 更に本当は、マジマ セイギが気に入ったのではなくて、彼が変身した姿のライドレンジャーに心を奪われたということは誰にも言ってない。
 そして、彼のそばにいる女性キャラに激しく嫉妬したことも……。

 今宵、この薬を飲んで、ライドレンジャーに会おう。そして私は悪の女幹部として、ライドレンジャーをいたぶるのだ。
 私は、逸る胸を抑え、家路についた。


終わり

最後までお読み下さり、ありがとうございました。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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イワナガヒメ



「コノハナサクヤヒメの話って、ちょっとおかしいよね?」
 
 富士の浅間大社がテレビに出てきたのを見て、相手が言った。
 コノハナサクヤヒメは日本神話に出てくる女神で、富士山本宮浅間大社の主神である。
 私は大学でそのあたりのことを勉強していたので、相手は話題にしてきたのだろう。

「えっ?どこかおかしいですか?」
 私は何の気なしに応えた。
 
「うん、とても腑に落ちないんだよね、私には。コノハナサクヤヒメの嫁入りの話は」
 私を見つめて、やや熱を帯びた調子で言う。

「嫁入りというと、婿のニニギがコノハナサクヤヒメだけを望んだのに、義父が姉のイワナガヒメも一緒に嫁に寄越してきて、そのイワナガヒメがひどく醜いので、彼女だけ送り返した、という辺りの話ですか?
 まあ、それは、人に寿命があることを説明するために、作られたからで……」

「知ってるよ」
 私が言うと、直ぐに相手が返した。
「そういうのバナナ型神話と言うらしいね。人間に神がバナナか石かを選ばせたら、食べられるバナナを選んだんで、人は死ぬようになった、石を選んでたら、死なないようになっていたのに、ってやつだよね」

「そうです。それに類似した話は世界中にあって、コノハナサクヤヒメの嫁入りもその変形なんですね。花はきれいだけど、儚い。岩は醜いけれど、永遠に存在する。ニニギはコノハナサクヤヒメだけを選び、イワナガヒメを返したので、私たち人間は死ぬようになったという訳です」
 私はそう解説した。

「確かにそういう事なんだろうけど、だったら普通にニニギの前にイワナガヒメとコノハナサクヤヒメを並べて、どっちか選べ、とやったって良かったんじゃない。
 それでなければ、姉妹が送られてきたけれど、ニニギは姉には触れなかった。彼女はそれに耐えられず、自ら実家に帰ってしまった、ということでも良かったんじゃないかと思うんだよ。
 何で、わざわざイワナガヒメが一緒に嫁入りし、その後彼女を送り返すという話になったのか?
 嫁の実家の意向、舅の気持ちを逆なでするような行為をあえてするなんて、どう考えても不思議でねえ」

 なるほど。言われてみれば。

「そこで思ったんだよ。実はイワナガヒメはさほど醜くはなかったんではないか、たしかに妹のコノハナサクヤヒメのように可憐ではなかったのかもしれないけれど、それなりの魅力的な容貌をしていたんではないか、ってね」

 はあ?

「つまり、ニニギの側にいて、親しくなれば、関係を持ってしまってもおかしくないくらいの顔立ちは、イワナガヒメも持っていたんではないかってこと」

「はあ?だとしたらどうだと言うんですか?」
 私は相手の言うことの真意がわからず、素直にたずねた。

「コノハナサクヤヒメはニニギと姉が関係を持ってしまうと、自分のほうが捨てられると考えたんではないだろうか?妹は姉に何某かの劣等感を抱いていたんだよ。
 だから妹はニニギに姉を追い出すように迫ったって考えられない?私と姉、どっちを取るのか、ってな具合に。
 そう考えると、ニニギが舅の意向を無視し、イワナガヒメを送り返すのも納得がいくと思うんだ。わざわざ舅に逆らう気はないけれど、嫁の頼みなら、それもしょうがないよね?」

 ああ、なるほど。
 私は相手がなぜこんな話を熱心にしているのか、やっとその訳が分かった。

 お義父さん。多分、トウジさんからお聞きになったんでしょうけど、たしかに私の妹は私より可愛いいです。そして、私のほうが最初に紹介されたのに、相手のその男性は妹と結婚しました。
 その時、少しショックを受けたのは確かですけど、今はあなたの素敵な息子さんであるトウジさんと結ばれ、幸せいっぱいで、あの時のことはもうすっかり過去のことになってるんですよ。

「でも、正直に理由を言えないから、イワナガヒメがとてつもなく醜いので、返しました、ということにしたんじゃないかな。大体、岩って、必ずしも醜いわけじゃないよね。美しい岩だって探せばあるだろうし……」

 未だ熱心に自説を披露している義父に、どう言葉をかけるべきか……。
 私は大変困った。


終わり


最後までお読み下さり、ありがとうございました。

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ジャンル : 小説・文学

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生前整理



「今度から生前整理を始めるよ」
 どこから聞いてきたのか、夫がそんなことを突然言い出した。

 夫も私もともに五十代。息子も娘も既に社会人となり、家を出ているので、一戸建てに二人暮らしだ。さほど広くもない我が家ではあるが、二人が使い切る程に狭くはない。
 そのため、余った部屋は徐々に乱雑とした物置と化していて、確かに、このまま放置しておくのは得策ではないかもしれない。

 しかし、私は片付けは根本的に苦手だ。基本的に物が捨てられないのだ。つい、いつかは使うかもと、種々雑多なものを取っておく癖があり、お陰で家のあらゆる場所が雑然としていた。

 それでも、「ん~、私はいいや。あなたの分だけやって」と、私は逃げた。
 だってめんどくさいじゃないですか。すぐすぐどちらかがどうこうなることはないだろうし。

「じゃあ、まず、僕の私物だけを整理するね。それが終わったら、家のもの。それから二人の共通のものとやっていこう。あとは気が向いたら、君が自分のものをやりなよ」
 夫はそう言って、どこからか大量の段ボール箱を調達してきた。

 それから夫は玄関とか洗面所とか、場所を決めては自分のものを全部出し、いらないと思うものを段ボール箱に詰め込んだ。
 しかし、それをすぐに捨てることはしないらしい。

「ここに中身と、今日の日付を書いて、物置に置いておくんだよ。そして一年間はそのままにしておく。一年の間に使う事態が発生したら、それはいらないものじゃなかったってことで、箱から取り出して使えばいい。一年間、出番がなかったのなら、それは本当にいらないものだから捨てる、という訳」

「物たちに執行猶予を与えてるわけね」
「まあ、そういうこと」
 夫は答えた。

 それから、夫の若い頃の服や靴、独身時代趣味だった登山用品、本やCDなどが次々と箱詰めされていった。
 それに伴い、徐々に我が家の風通しが良くなった感じもしたが、家にあるのは大半が私のものなので、目立った変化はない。
 
 休日を1日使って、夫は私物の整理をやり遂げたようだった。次は家のものか。
 ダンボールでいっぱいになった物置を眺め、私はある箱に目が行った。そこには”その他”と書いてある。
 他の箱にはきちんと専門書とか靴とか、中身が表記されているのに、それだけが曖昧になっていることに私は違和感を覚え、その箱を手にとって見た。異様に軽い。

 好奇心には勝てず、悪いと思いながらも、私は夫に無断でその箱を開けてみた。
 中には書類があった。

 ああ、夫は知っていたんだ。
 それは私と元カレとの浮気を報告している興信所の書類だった。

 私はなかなかものを捨てられなくて、結婚後もズルズルと元カレと付き合っていた。あちらが転勤して終わったけれど、二十年くらい前のことだけど。

 夫は一年経ったら捨てる箱にこれを入れていた。私を許してくれているのだろうか?それとも、この一年で何らかの答えを出すために、ここに入れたのか?

 果たして私はどうしたらいいのだろう。
 洗いざらい告白する?何も見なかったことにして、平静を装う?
 それとも、前よりはいくらか優しくしてみる?

 自分が整理されるまえに、自分で整理するべき時なのだろうか。

終わり

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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女房を質に入れてでも

「えっ?一千万?一千万円も融資していただけるんですか?」
 男が驚いて叫んだ。

「まあ、モノがモノですから、そのくらいが相場になります」
 裏の世界に通じているという噂のある、質屋が答えた。

「一千万!それだけあれば……」
 男は目を輝かせた。

「ただし、流質期限は最短の三ヶ月です。しかも、利子の支払いによる、質の契約更新はできません」
 質屋の言葉に、男は少し考え込んだ。

「もしその気になられましたら、もちろん、弁済された暁にはお返ししますが、お二人の署名捺印済みの離婚届と、夫の欄は空白で、奥さんの方だけ署名捺印された婚姻届を携えて、奥さんと共に、ここにお越し下さい。そうしたら、一千万、耳を揃えてご融資します」

「女房をここに連れてきたとして、その後、女房は、その、どうなるんですか?」
 不安な表情で男が聞いた。

「手荒な真似はいたしませんから安心してください」
 質屋が答えた。
「質草に手を付けるような真似は、商売の倫理に反しますし。ただし、逃亡されてはかないませんから、弁済していただけるまでは、某所に軟禁させていただきます」

「よそに軟禁……」
 男は考え込んだ。
「あの、その、女房を軟禁していただいても結構なんですが、その、子供も一緒って訳にはいかないでしょうか?」

「子供?」
 質屋が言った。
「子供がいらっしゃるんで?」

「はい、一人」
 男が答えた。
「娘でまだ三つでして、女房は片親で、義理の母親だけなんですが、彼女は体が弱くて、実家には預けづらいんです」

「あなたの方の実家は?」
 質屋が聞いた。
「私の方の実家は、私が両親から縁切りされてまして……。それに遠いですしね」

 男の言葉に質屋がため息を付いた。
「いいでしょう。子供が一緒でも結構です。ただし、それなら、弁済できず離婚する時は、あなたは子供の親権は放棄する旨を、一筆書いてください」

 質屋の話を聞き終わり、男は希望に満ちた顔で、店を出ていった。

「たまに、本気で女房を質に入れようとしてくる馬鹿がいるが」
 質屋はさっき男から渡された、男の女房の写真を見つめ、言った。
「男運が悪いのは、お母さんからの遺伝か」

 そこには、昔、捨てた女が産んだ、自分の娘の顔があった。
「彼女は私からの援助は頑なに拒んだが、これなら文句ないだろう。一千万円で娘の悪縁を断ってやろう。それにしても、いつの間にか孫までいたとは」

 質屋は男が女房を連れてくるのが、待ち遠しくてたまらなかった。

終わり

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火消茶腕

Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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