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女房を質に入れてでも

「えっ?一千万?一千万円も融資していただけるんですか?」
 男が驚いて叫んだ。

「まあ、モノがモノですから、そのくらいが相場になります」
 裏の世界に通じているという噂のある、質屋が答えた。

「一千万!それだけあれば……」
 男は目を輝かせた。

「ただし、流質期限は最短の三ヶ月です。しかも、利子の支払いによる、質の契約更新はできません」
 質屋の言葉に、男は少し考え込んだ。

「もしその気になられましたら、もちろん、弁済された暁にはお返ししますが、お二人の署名捺印済みの離婚届と、夫の欄は空白で、奥さんの方だけ署名捺印された婚姻届を携えて、奥さんと共に、ここにお越し下さい。そうしたら、一千万、耳を揃えてご融資します」

「女房をここに連れてきたとして、その後、女房は、その、どうなるんですか?」
 不安な表情で男が聞いた。

「手荒な真似はいたしませんから安心してください」
 質屋が答えた。
「質草に手を付けるような真似は、商売の倫理に反しますし。ただし、逃亡されてはかないませんから、弁済していただけるまでは、某所に軟禁させていただきます」

「よそに軟禁……」
 男は考え込んだ。
「あの、その、女房を軟禁していただいても結構なんですが、その、子供も一緒って訳にはいかないでしょうか?」

「子供?」
 質屋が言った。
「子供がいらっしゃるんで?」

「はい、一人」
 男が答えた。
「娘でまだ三つでして、女房は片親で、義理の母親だけなんですが、彼女は体が弱くて、実家には預けづらいんです」

「あなたの方の実家は?」
 質屋が聞いた。
「私の方の実家は、私が両親から縁切りされてまして……。それに遠いですしね」

 男の言葉に質屋がため息を付いた。
「いいでしょう。子供が一緒でも結構です。ただし、それなら、弁済できず離婚する時は、あなたは子供の親権は放棄する旨を、一筆書いてください」

 質屋の話を聞き終わり、男は希望に満ちた顔で、店を出ていった。

「たまに、本気で女房を質に入れようとしてくる馬鹿がいるが」
 質屋はさっき男から渡された、男の女房の写真を見つめ、言った。
「男運が悪いのは、お母さんからの遺伝か」

 そこには、昔、捨てた女が産んだ、自分の娘の顔があった。
「彼女は私からの援助は頑なに拒んだが、これなら文句ないだろう。一千万円で娘の悪縁を断ってやろう。それにしても、いつの間にか孫までいたとは」

 質屋は男が女房を連れてくるのが、待ち遠しくてたまらなかった。

終わり

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お触れ


「どうしてトマスを連れてっちゃうの?何も悪いことをしてないのに。ねえ、どうして?」
 幼い少女が母親にすがり、涙目で訴えていた。

「それはね。今度、新しく変わった領主様から、そういう命令が来たからなんだよ」
 母親は少し困った顔をして、娘に答えた。

「すぐに帰ってくるんだよね?もう会えなくなることなんてないよね?」
 母親は娘を抱きしめ、背中をさすった。

「ああ、大丈夫。きっと大丈夫だよ」
 そう言いながらも、母親にも確信は持てなかった。

 似たような光景が、あちこちで見られ、その後、しばらくして、城の中で領主が言った。
「お前の望み通り、我が領地のすべてにお触れを出し、これらを集めた。それで、こいつらをみんな始末すればいいのだな?これで満足か?」

「これはこれはありがとうございます」
 相手は深々と礼をした。
「かなり無理なお願いかとは思いましたが、考えて見るに、私があなたにしてさしあげた数々のことを思えば、これでもまだ足りない気もしますが」

「とにかく、これで、この界隈にいる雄猫は私だけになりますので、思う存分、子作りに励みたいと思います。つきましては、私が気に入ったものには、ハイヒールを作ってやっていただけませんか?私と釣り合いが取れるように」
 長靴をはいた猫は、そう言って笑った。

終わり

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喫茶去


 あれは私が中学一年生の時だった。
 
 夜、居間でテレビを見ているとテーブルに置いてあった母の携帯が鳴った。メールが届いたようだった。
 母はちょうどお風呂に入っていたので、私は何の気なしに、携帯を手に取り覗いてみると、父からのメールだった。

 そこで私は、何の用事か、急ぎならドア越しにでも母に伝えようと思い、中身を見た。
 すると、そこにはこう書かれていた。
「紅茶を飲みませんか?」

 は?なにこれ?紅茶?
 多分、探せばどこかにティーバッグはあるだろうけど、我が家ではめったに紅茶は飲まない。普段はコーヒー、たまに日本茶だ。

 それに父が母にこんな丁寧な言葉を使うのを聞いたことが無い。多分、母に言うとすれば、「紅茶飲まないか?」だと思うんだけど。

 私は強い違和感を覚え、風呂から上がった母に、「お母さんとお父さんって二人で紅茶を飲んだりしてるの?」と、たずねた。
 母は何のことか分からないような顔をしたので、断りもなくメールを見たことを詫びるとともに、父からのメールを見せた。

「あら、何のことかしら?」
 母は本当に何のことか分からないようで、
「お父さん、誰かと間違ってメールしてきたんじゃない」と、
 おっとりとした顔で、そう言った。

 そうか、間違いメールか!
 なら、うちでは飲まない紅茶のことを書いてるのも、丁寧な言葉づかいも納得がいく。でも、そうだとしたら?

「間違いって、お父さん、こんな文面、誰にメールするの?変だよ。
 ねえ、お母さん。ひょっとして、お父さん、誰かと浮気してるんじゃない?毎晩帰ってくるの、ずっと遅いし」

 それを聞き、母は笑いだした。
「お父さんに限ってそんなこと絶対ないわ。あなたの考えすぎよ」と、てんで相手にしない。母は父のことを根っから信用しているようだった。でも、私はそうは思えなかった。どう考えてもこのメールは怪しい。

 それから暫くの間、私は父の携帯を盗み見ることに専念した。
 父は仕事の関係上、常に携帯をそばにおいていたので、チャンスは父が風呂に入っているときしかなく、しかもロックがかかっていて、4桁の暗証番号を解くのにかなりの時間を要した。

 それでも努力は実り、ロックの解除に成功し、父のメールを覗いてみると……。

 父が浮気していたというのは誤解だった。

 今では2児の母親である私は、我が家の伝統に則り、あれは暗号で呼んでいる。
 
 今日、夫から「ワインを飲みませんか」と、メールが届いた。
 私は「もちろん」と返事を出した。

終わり

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名探偵の見解




「君は本当のところ、どう思ってるんだい?」
 探偵にその友人が尋ねた。
「遠慮せずに、君の正直な考えを聞かせてくれないだろうか?」

 それを聞き、探偵は軽くため息を付いた。
「君がどうしても知りたいというのなら、僕が今回の件で考えていること話してもいいんだが……。本当に聞きたいかい?」

「ぜひ、聞かせてくれ」
 友人はうなずいた。

 友人の決意を見て取り、探偵が言った。
「今回、君はずっと原因を探していたね。どうして?なぜ?ってね。
 その気持は分かるけれど、でも、僕から言わせてもらえば、その問い自体、不毛な行為だったと思うんだ」

「どうしてこうなってしまったのか、考えちゃ駄目なのか?」
 友人は驚いて反論した。
 それを聞き、探偵は即座に否定した。

「いや、あらゆることは因果に支配されているから、あることが起こった原因は必ずあるのだろうけど、相手が家事や育児を一切手伝わず、ろくに稼ぎもせず、自分を冷たくあしらい、あるいは暴力を振るったとしても、ほとんどの人は不倫に走ったりはしない。離婚は考えるだろうけど。
 君の奥さんが間男を作ったのは、君のせいではない。君が結婚生活で奥さんに対してしたことを悔やんでいるのは的はずれだと思う。実際、君は良き夫で良き父親だった。僕が断言するよ」

「じゃあ、どうして」
「それは君の奥さんがそういう人だったからだよ。多分、君が相手でなくても、同じような状況になれば、やっぱり不倫したと僕は思うね」

「つまり、僕に見る目がなかった?」
 探偵はかぶりを振った。
「いいや、それ以前の話じゃないかな。君は君の奥さんと一緒になる時、そういう目で見たことなど一度もなかったろう?結婚したらよその男に目もくれないでいてくれるだろうか、とか考えたこともなかったはずだ。
 二人の馴れ初めは僕も知っているが、君が一目ボレして、押しに押してつきあい始めたんだよね。つまり、君の奥さんは美人であり、押しに弱いんだ。自分から誰かを好きになることはなくて、好意を示してきた人を自分も好きになる、そういう心理が強いのだろう。間男もだいぶ強引にアプローチを掛けてたらしいから」

「妻はもともと、浮気をする人だったということか?ぼくがどう振る舞おうと?」
「言い寄ってくる男が現れればね」

「では、しょうが無いことだったということなのか?」
「そういうことになるのかな。君たちが結婚したのがある意味間違いだったのさ」

「じゃあ、間男が死んだのもしょうが無いことだよな。妻を寝取られても、ほとんどの人は間男を殺すようなことはしない。でも、どうしても許せなくて、自分に疑いがかからぬよう、計画的に間男を殺害してしまうような、そんな人間もいる。そして、多分、それを見抜いてる長年の友人を手にかけてしまう者も」

 友人が立ち上がり、探偵の方に近づいた。
「確かに、そういう人を友人にしてしまう者もいるだろうけど、探偵は違うんだ。探偵は誰一人信用していない。たとえ友人でも。警部!」

 隣室に控えていた警部が現れ、友人は連行されて行った。

終わり


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似た者同士



「彼女と一緒になろうと決めたってことは、あれ使ったんだな?」
 報告しに来た相手が母親と台所に行き、二人っきりになったのを見計らって、息子に父親が聞いた。

「うん」
 息子が言った。
「悪いとは思ったんだけど、どうしても不安で」

「分かる、父さんもそうだった」
 父親はうなづいた。
「自分に不相応な美人がパートナーになってくれると思うとな。何か裏があるんじゃないかと思って、どうしてもな」

「このことは絶対、内緒ににした方がいい」
 父親は少し悲しげに息子を見つめ、息子に強く言った。
「ああ、分かってるよ」
 息子が応じた。


「あれ、やっぱりありました」
 台所で、未来の義母に彼女が告げた。
 
 何のことか、すぐにピンときた母親は苦笑した。
「あら~、そう!本当に?まったく、親子して。本当、あんな息子でごめんなさいね。なんなら婚約、考え直してもいいのよ」

「いいえ、これで彼が私のことを信用してくれるなら、かえって良かったかと」
 彼女は穏やかに微笑んだ。
「そう?」
 彼女の言葉に、母親はホッとした。

「前もって、味など教えていただいていたので、薬が盛られたのはすぐわかりましたし、効果を消すものも譲られていましたので、実害はありませんでしたから。
 彼は過去の私の男性との付き合いを知りたがっていただけのようでしたから、素直に自白剤の効果に身を任せても良かったんですけど。他の答えにくいことを聞かれたら、やっぱり嫌だったので」

 彼女の言葉に母親は言った。
「それは当然ですよ。誰だって、たとえ好きな人にだって、いえ、好きな人だからこそ、秘密にしておきたいことは必ずあるものですものね」

 彼氏の母親が物分りの良いに安心し、彼女が聞いた。
「ところで、自白剤とその効果を消す薬をどうして持ってらっしゃたんですか?どちらも簡単に手に入るとは思えないんですけど」

「それは私と旦那様に、薬学の研究所に勤めてるすごい友人がいて、その方が作ってくれたの。結婚する前、旦那様には自白剤を。そして私にはその効果を消す薬をね」
 少し夢見るような表情で、母親が言った。

「その友人という方は男性ですか?」
 彼女が聞いた。
「ええ、とっても素敵な、いい方よ。そのうち、ぜひ、あなたにも紹介してあげたいわね。あなたもお礼を言いたいでしょう?」

 母親が意味深に笑い、彼女も同じように意味深に笑い返した。

終わり
 

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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