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ある任務

「今度の派遣先はここ最近編入されたところだ。うまく頼むぞ。テンビン」
 操縦室の正面のモニターに映しだされている中年の男がそう言った。
「了解しました。未開地でのやり方はよく分かっているつもりです。ご期待に添えるよう頑張ります」
 テンビンと呼ばれた若い男は、モニターに向かって直立不動の姿勢を取り答えた。それを聞き、モニターに映った男は満足そうに笑みを浮かべ、別れの挨拶を言うと、画面は暗くなった。
 テンビンはほんの少しの間だけ何も映さなくなった画面を見ていたが、直ぐに行動に出た。
「よし、早速次の仕事にかかるか。アイ、目的地まではどのくらいだ?」
 彼が顔を上げて操縦室の天井に話しかけると、部屋の四隅にあるスピーカーから女性の声で答えが返ってきた。
「船内時間でほぼ45日です」
 アイというのは人間ではなく、テンビンが乗っている宇宙船を管理するコンピュータの名前であり、女性の声であるのは彼の趣味による。実際にはテンビンの乗っている宇宙船に乗組員は彼一人しかおらず、コンピュータのアイが船の運行に関するすべてのことを受け持っていた。
「よし、では目的の星系の最外惑星の軌道に到達したら知らせてくれ。それまで眠る」
「了解しました。良い夢を」
アイの返事を背にテンビンはコールドスリープのための部屋へ向かった。

「キャプテン、テンビン。時間です」
 アイの声で男は目を覚ました。
「ああ、ご苦労。俺が寝ている間になにか変わったことはなかったか?」
 テンビンは起きると即座にそう聞いた。
「特にご報告するようなことはございません」
 アイが答えた。
「目的地までの到着時間は?」
「この速度ですと船内時間で三日です」
「相手が気づいたような気配はあるか?」
「そのように推測できる事項は起こっておりません」
 テンビンは少し考えてから、アイに言った。
「相手の文明度は二だったな。まあまず大丈夫とは思うが、偶然われわれのことを捉えないとも限らない。擬似船デコイを展開しよう」
「承知しました」

 アイの返事と同時に、船体から無数の棘がついた球状の機械が射出された。それらはテンビンの船を大きく取り囲むように配置され、船に付き従っている。
「これで相手には相当数の船団に見えるはずだ。この装置なら文明度五以上の奴らだってだまされるからな」テンビンはニヤリと笑い「とにかくこういうことは最初が肝心だ。ガツンといこう。なめられては駄目だ」拳を握り、自分の手のひらにぶつけて自分を奮い立たせるように言った。

 その日、目的である惑星の住人がようやく近づきつつあるテンビンの船団を見つけた。もちろん、最初は宇宙船の集団とは気づかず、小惑星群が自分たちが住む星と衝突する可能性のあるコースを高速で動いていると考えた。その星の多くの天文学者がその報告に注目し、対象の小惑星群を競って観測した結果、衝突の可能性がかなりの確率であることが分かり、世界中が仰天した。
 けれども、その驚きも小惑星群の正体が、巨大な宇宙船団であることがわかると今度は困惑に変わった。すぐに相手にコンタクトを取ることが試みられたが、返事は一向に無く、船は黙々とこちらに近づいてくる。一体どこの誰が何しにこの星を訪れようとしているのだろう。人々はあらゆる可能性を頭に浮かべ、最悪の事態を想像して悲嘆にくれた。

「どうやらむこうでもこちらに気付いたようです」
 アイがテンビンに報告した。
「そうか。連中は慌てているか?」
「はい、かなり混乱している様子がこちらに発している通信内容から伺えます」
「不意打ちだからな」
 テンビンは低く笑った。
「しかし、キャプテン、テンビン。デコイの使用のことですが、これは少しやり過ぎではないでしょうか?向こうが訴える可能性もあるのでは」
「その点は心配ないさ。むこうは田舎者だ。野蛮人と思われても仕方のない連中だ。こちらの自衛のためにしたということで問題あるまい」
「しかし連邦内の常識を知らないとなると、いきなりこちらに攻撃してくる可能性もありますが」
「その時はうまくかわして、こちらには攻撃が無効だということを見せつけてやれ。文明度二の奴らの攻撃などたかが知れてるだろ」
「了解しました」

 惑星の住人たちは船を攻撃することは選ばず、呼びかけを続けたが、多くの人はただ成り行きを見守った。ついに船団は星の間近まで近づき、その全貌がはっきりと映し出されるようになった。惑星の住人にはテンビンが仕掛けたデコイのお陰で、大船団が星を取り囲んだように映った。そして全ての船の動きが止まる。

「どうだ、見つかったか?」
 テンビンがアイに聞いた。
「はい、この星や月の表面に巨大なパラボラアンテナを多数確認しました」
「よし、では連中に呼びかけよう。連邦共通語でいいだろう」

 固唾を飲んで見守る惑星の人々に、船団の中の一隻から通信が来た。
「こちらは銀河放送株式会社のものです。受信料を徴収しに参りました。放送を受信可能な機械をお持ちの場合、番組を見る見ないにかかわらず、銀河放送株式会社に対し、受信料を支払うよう連邦法で定められております。どうか規定の料金をお支払い下さい」

終わり
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まとめ【ある任務】

「今度の派遣先はここ最近編入されたところだ。うまく頼むぞ。テンビン」 操縦室の正面のモニターに映し

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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