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素敵な旦那様

皆様こんにちは。わたくしメモリアルロボットサービス、通称MRSのカヤマと申します。今回、わたくしどもMRSが日頃より皆様にご提供させていただいております、メモリアルロボットについて、より深くより詳しく知っていただくため、この動画を作成させていただきました。皆様方がどの様なサービスをMRSから受けることができるのか、具体的な事例を通して、ぜひ知っていただきたいと思っております。
 では、早速説明をさせていただきます。

 さて、ここに映し出されたのは我社の受付窓口です。今ここに妙齢のご婦人がいらっしゃいました。当社の受付嬢が迅速に応対いたします。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」

「あの、亡くなった主人のロボットをお願いしたいんですが」
 最もよくあるご依頼です。今は亡き人を再現したい。残された遺族の共通の希望ではないでしょうか。わたくしたちは残されたご遺族が少しでもその悲しみが癒されますよう、誠心誠意、力を尽くさせていただきます。

「では、お亡くなりになられた方のデータを出来るだけ詳しくおねがいします。それから、その方の公共のデータにアクセスするための委任状にサインをお願いします」
 ご家族、ご親戚が保存なされているお亡くなりになられた方のデータ、画像、音声、動画、など、できる限りお持ちいただければ幸いです。データの量が多ければ多いほど、亡くなられた方により近い、ほぼ同じといっていいロボットが作成できます。もちろん、公共の物を含め、プライバシーは絶対にお守りいたします。

「それではそちらに待合室がございますので、データ入力の間、少々お待ちください。入力が終わり次第呼びに参ります」
 ここで申し訳ありませんが、多少のお時間を取らせてしまうことになります。皆様がゆったりとおくつろぎになれる、豪華な待合室を御用意させていただいております。
 お持ちいただいたデータの量や形式によって、多少変わりますが、数十分ほどお待ちいただければ、集められたデータを元に、作成されるロボットの3次元映像、ホログラフィーが作成されます。それを拝見していただき、家族の方の意見を元にさらに修正を施します。

「できました。これがサカオ ヨシフミ様のメモリアルロボットのホログラフィーです」
 今3次元映写室の中央に恰幅の良い紳士が映し出されました。亡くなられる直前の姿を再現しております。服装はいただいたデータの中で一番多かったお姿であった、背広姿としました。

「キョウコ」
 ホログラフィーが笑い、奥様に声をおかけになりました。
「あなた」
 奥様は感極まって、涙ぐまれているようです。

「それでは、このお姿でメモリアルロボットを作成してもよろしいでしょうか」
 係りの者がお伺いすると、奥様は口ごもりながらもおっしゃいました。
「服を脱いだらどうなっているのでしょうか」
 確かに、多くの方がロボットと聞くと疑問に思われます。服の下はネジや歯車が出ているのでは、と。しかし、ご安心ください。当MRSでは生前のお姿を余すところ無く再現することをモットーとしております。当然、衣服の下もごく自然な、人間と同じ作りでございます。

「これが服を取った時の映像です」
 ホログラフィーの人物は背広を取り、肌があらわになりました。
「あら、こんなところまで再現しているんですか」
 奥様がホログラフィーの腹部を指して、係りの者に訴えました。そこには手術の後が、はっきりとあります。
「はい、一応、お亡くなりになられる直前のデータを元に再現いたしましたので、そのような術創などもついております。お気に召さないのであればお取りできますが」
「じゃ、そうしてくださる」
「かしこまりました」
 係りの者が制御室に連絡をするとすぐに腹部の傷が消えました。
 
 奥様はホログラフィーの周りを一周してから、さらに希望をおっしゃいました。
「同じお腹のことなんですけど、主人がこんなに太ったのはここ最近なんですよ。本当はどちらかというの痩せていて。無理ならいいんですけど、そんな風にできるかしら」
「もちろん、可能でございます。おっしゃっていただければどのようにでも御希望に沿うよう変更させていただきます」

 すぐに希望が反映され、ホログラフィーの体はスマートになりました。
「それで、髪の毛なんですけど、以前のようにもっとフサフサにしてもらえたら」
「かしこまりました」
 髪の量が増えます。
「シワも取ってっくださる」「目をもっと大きく出来るかしら」「鼻が・・・」「あそこも・・・」

 次々に希望が出て参ります。当然です。正直に言って、メモリアルロボットはけしてお安い買い物ではございません。少しでも不満がないように、けして後悔のないように、どしどし希望をおっしゃってください。できるかぎり、御希望に沿うよう、MRSは持てる技術をすべて捧げる所存です。

「これでよろしいでしょうか」
 どうやらご要望も出尽くしたようで、お部屋の中央にはそれはそれは素敵な旦那様が立っております。
「ええ、とっても素敵。でも・・・」
「まだご不満な点がございますか?」
「いえ、ただこれだと主人とはちょっと違って見えてしまうかもしれないと思って」
「その点でしたらご心配なく。いただいたデータは全てこの姿に改変が可能です。過去の記録の中でもご主人、サカオ ヨシフミ様はこの姿になります」
「でも、それだけでは。親戚や友人にあったら何と言われるか」
「その点でも大丈夫です。この機能は当社だけの自慢のものなのですが、我社のメモリアルロボットは催眠術を使うことができまして、お会いになられた方が違和感を持った場合、すぐにそれを取り去るようになっています。奥様の御親戚や御友人の方たちも最初は少し戸惑うかもしれませんが、すぐにサカオ ヨシフミ様に生き写しだと納得されること請け合いです」
「まあ、そう。便利なのね。それならこの姿でお願いしようかしら」

 こうして最愛の夫を亡くされた奥様も当社のメモリアルロボットを購入することを決断なさってくださいました。
 
 いつかは味わうであろう愛するものとの別れ。そのつらさは何ものにも変えがたいと思います。その悲しみを癒し、亡き人とのかけがえのない思い出を守るため、MRSは技術の粋を結集し、皆様方にメモリアルロボットを提供することで、全力でサポートいたします。
 どうかMRS,MRSをよろしくお願い致します。


終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この記事で ブログ村 第3回読み切り短編小説トーナメント 予選敗退でした。投票ありがとうございました。
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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