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続、泣いた赤鬼




「鬼さん、どうして泣いてるの?」
 
 青鬼の置き手紙を読んで、泣きに泣いている赤鬼に、いつの間にか住処の洞窟に入って来ていた娘が、声をかけました。
 それはこの前親しくなった村の娘でした。

 最早青鬼とのヤラセが、村の皆にバレても構わない、という気持ちになっていた赤鬼は、正直に事と次第を娘に打ち明けました。
「まあ、そんなことが」
 娘は驚きながらも、赤鬼の話を親身になって聞きました。

 しかし、実は赤鬼が村の人々と仲良くなるために考えた、二匹の鬼たちの計画を、娘は知っていました。
 赤鬼たちは気付いていませんでしたが、娘は随分前から二匹の様子を伺っていてたのです。それで、鬼たちが皆が言うよな乱暴者ではないことも、村人たちから恐れられているのを赤鬼が残念に思っていたことも、それを青鬼がなんとかしてやりたいと思っていたことも、見聞きしていたのでした。

 さらに、赤鬼に置き手紙を書いた後、青鬼がどこに行ったのかも、彼の後をつけた娘は知ってました。

「それで、赤鬼さんはどうしたいんですか?」
 娘が聞きました。
 赤鬼は鼻をぐずらせながら、「青鬼を探す。そして、戻ってきてもらう」と答えました。

「そうですか」
 娘はうなずきました。
「けれど、たとえ青鬼さんを見つけられたとして、青鬼さんは素直にここに戻って来てくれるでしょうか?」

 娘の言葉を聞いて、赤鬼はハッとしました。赤鬼は青鬼の性格をよく分かっていました。確かに、青鬼が簡単に戻ってきてくれるとは思えません。自分(赤鬼)の為を思って、ここに戻ってくることは、きっと、頑なに拒みそうです。

 赤鬼が困った顔をして黙り込むと、娘が赤鬼に聞きました。
「赤鬼さんは青鬼さんのことをどう思ってるんですか?」
「どうって……、いい友達だと思っているよ」
 赤鬼は答えました。

「それだけですか?」
 娘が重ねて尋ねました。
「それだけって……、どういう意味?」
 赤鬼は訳がわからずに、娘に聞き返しました。

 すると娘は大きくため息を付くと、「青鬼さん、可哀そう」と小さくつぶやきました。そして、「今のままなら、青鬼さんは多分、赤鬼さんがいくら頼んでも、ここには戻ってこないと思いますよ」と、赤鬼に言いました。

「なんで?なんでそんなことが君にわかるの?」
 赤鬼がいくらかムッとして聞きました。
 それに対し、娘はまた、軽くため息をつき、言いました。

「青鬼さんは、あなたが村の人達から怖がられていることを悲しんでいるのを知って、”自分が村で暴れるから、それを止めに来て、自分をやっつけろ。それで、君はは村の人達と仲良くなれるはず”、と言ってくれたんですよね」
「そうだよ、青鬼くんは言うだけじゃなく、本当に僕のためにそうしてくれたんだ」
 赤鬼が答えました。

「つまり、自分が悪者になっても、自分を貶めてでもあなたの望みを叶えてあげようとしたんですよね、青鬼さんは」
 娘が言いました。
「そうだよ、青鬼くんは自分が村の人に嫌われることは覚悟の上で、僕のためにしてくれたんだ」
 赤鬼は涙ぐみました。

「それほどの自己犠牲、単なる友情でできるもんでしょうか?」
 娘が言いました。
「えっ?」
 赤鬼が驚いて言いました。
「単なる友情じゃないって?じゃあ、なんだっていうんだい?」

「愛だと思います。青鬼さんはあなたを愛しているんですよ」
 娘は答えました。
「まさか!」
 赤鬼はしばらく言葉が出ませんでした。
「だって、僕たちは男同士だよ。そんな……」

 混乱した様子の赤鬼に、娘が言いました。
「赤鬼さんがそんな風に普通の感覚だったから、青鬼さんは今回の計画を立てたんだと思うんです。彼にとっては、ここを離れるのにいい機会だと思ったんでしょう。思いを伝えられない相手のそばにずっといるよりは、その人のために我が身を犠牲にして去っていくほうが幸せだと」

「本当に、青鬼くんは、その、僕とそういう関係になりたい、と思っていたの?」
 赤鬼は半信半疑で、娘に聞きました。
「はい、わたしは青鬼さんから聞きました」
 娘はきっぱりと言いました。

「じゃあ、僕が青鬼くんを探し当てたとして、その時、僕が青鬼くんの気持ちを受け入れたなら、青鬼くんはここに戻ってきてくれるだろうか?」
 赤鬼が尋ねました。
「ええ、青鬼さんが赤鬼さんと両思いだと知っなら、きっと戻ってきてくれると思いますよ。だって、誰だって、愛し、愛される人のそばにいたい、と思わずにはいられないじゃあないですか」

 娘の確信に満ちた言葉に、赤鬼は勇気を貰ったようです。
「青鬼くん」
 そうつぶやくと、急いで旅の支度をはじめました。

「青鬼さんは北の山を超えて、東の谷の洞窟に向かったようですよ」
 娘が言いました。
「ありがとう。色々世話になったね」
 赤鬼が頭を下げました。

「いいえ、わたしはこういうおせっかいが好きなんです。礼なんて」
 娘はニコニコ笑っています。

 北の山に向かった赤鬼の後ろ姿を見送りながら、こんなにうまくいくなんて、と娘は思いました。
 青鬼が赤鬼のことを愛していると本人からは一言も聞いていません。なので、二人が再開した後、どんな関係になるかはわかりませんが、とりあえず、自分の、男性同士をカップルにする、という趣味がまた一つ達成されたことに、娘は心底愉悦を感じるのでした。

終わり
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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