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誤解



「君のお姉さんって A さんの彼女だったの?」
 彼女から兄弟の話を聞き、俺は驚いて言った。

「あっ、やっぱり知ってる? Aさん。同じ会社だから、そうじゃないかな、とは思ってたんだけど」
 彼女が言った。

「まあ、知っているといえば知っているけど、それほど親しいわけじゃないよ。部署が違うので、顔見知りって程度かな」
 俺は答えた。

「そうなんだ。でも、世の中って狭いよね」
 彼女はごく普通に言った。
 あまり辛そうには見えなかったが、それでも俺は一応謝った。

「ごめんよ、嫌なことを思い出させて」
 それを聞き、彼女が意外な顔をした。

「何?どういうこと?」

「いや、だって……」
 俺は躊躇しながら言った。
「君のお姉さんは亡くなっているんだろう?」

「はあ~?」
 彼女はなにそれという顔をした。
「うちの姉はピンピンしてるけど」

「えっ、違うの?え~っ! だったらあれはどういうことだったんだ?」
 俺は訳が分からず、そう口走った。

 あれは確か去年の今頃のこと。A がえらく落ち込んでいる様子で、同僚たちがそれを慰めているような場面に出会ったことがあるのだ。

 聞くともなしに聞こえたその内容は、 A の恋人が事故に遭い、病院に駆けつけたが、恋人は変わり果てた姿になっていた、ということだった。

 とすれば、考えられるのは、死んだAの恋人は彼女の姉ではない別人だったということだろうか?

 俺がその話を彼女にすると、彼女はしばらく考えた後に言った。
「それ多分、姉のことだと思う。確かに姉は去年の今頃、車に跳ねられて入院したから」
 
 それを聞き、俺は尋ねた。
「でもお姉さんは入院はしててもピンピンしてたんだよね? あの時の A の様子はとてもそんなふうには見えなかったんだがなあ」

「いや、入院した直後は意識不明の重体で、 正直心配はしたんだよ。 もう目を覚まさないんじゃないかって。でも、3日ほどで意識は戻ったんだけれどね」

「なるほど、それで A はあんな風に意気消沈してたのか」
 俺は納得した。

「ん~、ちょっと違うかも」
 彼女が言った。
「違うって?」
 俺は尋ねた。

「姉が入院してる間に、二人は別れちゃったのね。実は姉の化粧スキルってものすごいの。はっきり言って、素顔は全く別人。そして A さんは多分、姉が入院するまで、姉の素顔を見たことがなかったんだと思う」

「はあ~? じゃあ変わり果てた姿って言うのは………」
「姉の化粧を落とした姿のことなんだろうねえ」

「え~っ!それはちょっとひどいんじゃない」
 俺は A に対して怒りを感じた。いくら化粧した顔と素顔のギャップがあったとしても、相手が入院して弱っているのに、別れ話を切り出すなんて。

 俺が怒るのを見て、彼女が言った。
「あなたは優しいのね。そんなあなただからこそ打ち明けるんだけど、実は姉の化粧のテクニック、私全部教わっているの。だから多分、私がすっぴんの時に会っても、あなたは私だってわかんないんじゃないかなあ」

 彼女がニコニコと笑った。
 
 確かにまだ付き合いは浅く、彼女の化粧を落とした姿を見たことはない。
 彼女は俺にはとても美人に見える。
 俺は試されている?

 いやいや、確かに顔は好みだけれど、それだけで好きになったわけではない……はず。
 顔なんて所詮皮一枚の話。美人は三日で飽きるとも言うし。
 でも、素顔を見たとき全く別人だったら、驚きを隠せないでいられるだろうか?それに彼女が気づいて、傷つけてしまったりしたら……。

 俺は覚悟を決めて彼女に言った。
「もし君が入院したら、僕はお見舞いには行かないかもしれないけれど、それでよかったら付き合ってくれない?」

 彼女の答えは、保留ということだった。
 

終わり

 
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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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