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お食事会



「どうかなさったんですか?課長」
 昼休み、何度目かの深い溜め息をついた上司に対し、私はたずねた。

「えっ?いや、別に?」
 予想通りの答えが返ってきたが、私はひるまずに押した。
「でも、今朝から何か、ご様子が変ですが?お休みに何かあったんですか?」

 今は、特に差し迫った仕事も抱えてはおらず、課長が急に意気消沈した原因があるとすれば、週末、家庭で何か起こったとしか考えられない。
「良かったら、お話ししてくださいませんか?私でも何かお役に立てるかも」

 課長は私の顔をしばらくじっと見て、それから、意を決したように言った。
「そうだね。ここは若い女性の意見を聞いてみたほうがいいかもしれない。
 実は息子の結婚のことなんだけど……」

「ご結婚?!課長の息子さんが?それはおめでとうございます」
 私は頭を下げた。
 課長はありがとうと返したが、浮かぬ顔で続けた。

「息子と相手のお嬢さんは大学生の頃からの付き合いで、交際期間はもうかなり長いらしい。それで、いよいよ、結婚しようという話に二人でなって、そこで、両方の親の顔合わせをするべく、息子たちが向こうのご両親と私たち夫婦を招いてくれて、昨日食事会をしたんだ」

「それは素敵なですね」
 私は言った。

「うん、とても良かった。お店は洗練されて、落ち着いた感じだったし、料理も申し分なかった。
 僕は初めて会ったんだけど、相手のお嬢さんもご両親も、見るからにいい人そうで、息子にはもったいないと感じたよ。
 それでかなあ。急に罪悪感が生まれてね。黙っていられなくなったんだ。我が家の遺伝のことを」

 ”遺伝?!”
 私は一瞬息を呑んだ。課長の家系には何か悪い病が伝わっているのだろうか?だとしたら重い話だ。

 私が掛ける言葉を探していると、課長が話を続けた。
「我が家ではそれに誰一人免れたものはいなくてね。そして、残念なことに、妻の方もその要素を持っていたんだ」

 課長が悲しそうな顔をした。大変そうだ。
 私が黙っていると、課長は頭に手を掛けた。
 
「今まで君たちにも隠していたけれど、実は僕のこの髪はかつらだったんだよ。一族、みんな、若くしてこうなっているんだ」
 課長はかつらを取って頭を見せた。
 
 は?遺伝ってそれ?つまりハゲ?
 しかも課長、今の今までみんなにバレてないと思っていたわけ?うっそ~!
 あんないかにもかつらです、っていう姿、分からないほうがおかしいと思うんですけど。

 私が引いているのが分からないのか、課長は続けた。
「食事会でもこうやって相手に頭を見せて、それでも息子と結婚してくれるかどうか聞いたんだ。そしたら、はっきり返事はもらえなくてね。その晩、息子に電話で怒られたよ。余計なことはするなって。
 
 で、どうだろう?今時の若い娘さんとしては、黙っていてもらってたほうが良かったんだろうか?正直に話したことで、好感をもってくれたりしないのかな?」

「えっ?え~と~っ、それは……」

 さて、なんて答える?
 相手の人は課長と初めて会ったんだろうけど、多分、一発でかつらだとわかったはず。それをカミングアウトされ、伴侶も将来そうなると告げられて……。

 しかし、私は息子さんの相手ではない。課長とは当分うまくやっていきたい。だとすれば……。

「相手のお嬢さんのことはわかりませんが、私だったら、課長のそんな態度に好感を持ったと思います。それにしても、課長、かつらだったんですね。全然気づきませんでした」

 相手のお嬢さんのことを少し気の毒に思いながら、私は課長に笑顔で答えた。

終わり
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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