コンテントヘッダー

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
このページのトップへ
コンテントヘッダー

依頼人




「この仕事で、最も印象に残ったやつかい?」
 少し考える仕草をした後、博士は言った。
「今までいろいろな人に会って、いろいろな依頼を受けたけど、そういえば、こんな人がいたよ」
 おもむろに博士は語りだした。

「その人から依頼された品は人を好きにさせる薬、いわゆる惚れ薬といういうやつだった。
 まあ、それ自身はさほど珍しい願い事ではなかったけれど、こういうものを欲しがるのは、たいてい若い女性で、たまに若い男、というのが相場だったんだが、その女性はどう見ても四十絡まりで、そんな歳になってもそういう薬を欲しがるものなのか、と思った。

 それでも、特にこちらからは聞きもしなかったのだが、その人はそれが必要な理由を自分から語ってくれた。

 それによると、彼女が若い時、ある男と付き合い、その男の子供を身ごもったにもかかわらず、男から捨てられてしまったらしい。
 その当時、彼女には頼れる身内は一人もおらず、大きいお腹を抱え、途方に暮れていたんだそうだ。

 その彼女に弱みに付け込む形で、前々から彼女に目をつけていた、彼女より一回りも年上の男が、彼女に面倒を見て上げようと持ちかけてきた。
 彼女は他にどうしようもなく、その男の希望を受け入れ、一緒になった。
 
 すぐに娘が生まれ、その男は自分と血の繋がらない子供をないがしろにすることはなかったが、それでも、彼女はそれを恐れ、その男と自分との間に子供ができないよう、懸命に立ち回ったんだそうだ。

 彼女の努力は実を結び、二人に子供は授かることなく、一人娘は成人を迎えた。これで子供に対して責任は果たした、と彼女がほっとしていたある日、昔付き合っていた男、つまり娘の実の父親に、街で偶然会ってしまったそうだ。

 二十年ぶりに見た男の姿は、多少変わってはいたが、彼女の心に昔の思いが強烈に蘇った。それで、いてもたってもいられず、僕のところに来たそうだ」

「なるほど、もう、子供は手が離れたので、今の夫と別れ、今度は博士の薬の力で、昔の男をつなぎとめようと考えたんですね。しかしそうだとすると、特に博士の印象に残るような内容とは思えないのですが?」
 私は疑問を口にした。

「まあ、薬をその男に使ったというならね。でも違うんだ。僕の作った惚れ薬を彼女は自分に使ったんだ。今の夫を好きになれるようにと」
 博士が答えた。

「自分に使った!?」
 私は驚いて言った。

「どうだい?結構面白い話だろう?でも、僕が彼女のことをよく覚えているわけは、彼女が最も薬が効いた人だからなんだ。僕が作る惚れ薬は、他では評判はかんばしくなくてね。彼女だけなんだよ。とても良く効いたのは」

 博士は嬉しそうに笑った。

終わり
スポンサーサイト

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

このページのトップへ
コンテントヘッダー
コンテントヘッダー

コメントの投稿

非公開コメント

このページのトップへ
このページのトップへ
プロフィール

火消茶腕

Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。