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羨望



「こんばんは」
 私は玄関の戸を開け、奥に向かってあいさつをした。
 その声を聞きつけて出てきた彼女は、案の定、私を見て、何の用?という顔をした。

「この度は、うちの人のせいで、そちらの旦那様が大変な目に会われた、と聞きまして」
 私は深々と頭を下げた。
「それでお詫びと言っては何ですけど、せめてもの償いとして、つまらないものですが、これをどうぞ」
 と言って、私は菓子包みを差し出した。

「あ~ら、わざわざ、まあ」
 彼女は私を見下ろしながら、包みに手を掛けた。
 しかし、「でも、これは受け取れませんわよ」と言って、包みを押しかえしてきた。

 私はそんなこと言わずに、と再び包みを相手に差し出すと、彼女は突然高笑いしだした。
「あなたの魂胆は分かってるんですよ。これを届けにわざわざ来た訳じゃないんでしょう?本当は、夫がどんなふうになったのか見に来たのよね、そうでしょう?」

 意地悪い笑顔を崩さず、彼女は続けた。
「否定したって駄目。ええ、ええ。あなたの気持ちは、私には痛いほどわかるのよ。あなたと私はお仲間ですものね。それじゃ、見せてあげるわ。あなた、あなた!ちょっとこっちに来て」

 彼女が奥に声をかけると、しばらくして、彼女の旦那さんが渋々とした調子でやってきた。
 見るとやっぱりある。立派なコブが。両方の頬に。

「前は一個だったから、どんなに立派でも、やっぱりなんとなく、不満があったんだけど、これでもう完璧。どう?うらやましい?」
 そう言って、彼女は旦那さんのコブを両方の手に一つずつ愛しそうに載せ、プルプルとし出した。

 両方の手で!
 なんて羨ましい!

 つい先日までは、一つだけだったけど、私もあんな風にできてたのに。
 うちの亭主は馬鹿だ!私がコブをどんなに好きだったか知ってたくせに!

 私は悔し涙を流しながら、彼女の家を後にした。
 
 こうなったら、亭主と彼女を亡き者にし、後釜を狙ってやる!覚悟しとけよ!


終わり
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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