FC2ブログ
コンテントヘッダー

11人いる


「おとぼけを、教授」

 教授と呼ばれた老年の男は相手をにらんだ。
「とぼけてなどいないよ。私はそんなものは知らん」
「しかし多くの子供達があなたから話を聞いた、と言っていますが?」
 相手は、ん?というような顔をした。
「子供たちの言うことをいちいち真に受けるのはどうかと思うがね」
 教授は反論した。しかし、表情にはやや焦りが見える。
「もちろん、子供たちは面白おかしく嘘を並べ立てるもんですが、それならちゃんと、嘘を言ってると検査に出ますからね。こちらも嘘だと分かります。検査の結果では、子供たちの証言は嘘じゃありませんでした」
 どうですか?と、やや誇らしげな顔だ。
「君、君は子供たちを嘘発見器にかけたのか?」
 教授は驚いた。なぜそんな大げさなことに?
「ええ、掛けました。ことは地球外生命体に関わるかもしれないんですから」

 その言葉を聞いて、教授はしばしの沈黙の後、高らかに笑った。
「そうか、そういうことか」笑いは続いている。「なるほど、地球外生命体ね。君たち上の者はかなりロマンチストなんだね」
 馬鹿にされたと思い、相手は顔を赤らめて抗議した。
「何が可笑しいんですか。それほど突拍子もない発想ですか?」
 コロニーの最高司令官であるナクリーは教授に詰め寄り言った。

 数カ月前、小惑星第567コロニー、通称ハーロンの6~7歳児託児所で小さな騒ぎがあった。人数分用意したお菓子が足りない、と子供たちが口々に訴えたのだ。その時の子供たちの数は10人のはずであったが、子供たちはもう一人新参の子がいる、と言った。今日不意に現われ、みんなと遊んだのだという。係りの者は一応調べてみたがそのような子供は見当たらなかった。他のクラスの子が紛れ込んだのかと、ほかの係りの者に尋ねてみてもそのようなことはなかった。
 子供特有の思い込みだろうと、その時は特に問題にしなかったが、似たようなことがその後たびたび起こった。6~7歳児の子供たちが、見慣れぬ子が現れ一緒に遊んだ、と何度も報告するようになったのである。あまりに頻繁のため、子供たちは嘘発見器に掛けられた。その結果、見知らぬ誰かと遊んだか、もしくはそう思い込んでいることは確かだった。
 託児所の防犯カメラには11人目の子供は映しだされていなかったが、子供たちの遊技場全てのエリアをカバーしていなかったため、何も確実なことは言えず、そこで子供たちの遊び場全てを映し出すようカメラが設置された。しかし不思議なことに、カメラはたびたび故障し、その時を狙ったように子供たちは11人目の来訪を報告するのだった。

 訝しんだ担当者は最高司令官にことの報告を行い、これを重く見た司令官ナクリーは、真相を究明すべく調査を開始した。住人が千人にも満たないハーロンでは最高司令官という肩書はさほど重みもなく、調査は一人であたらざる得なかった。
 現場をつぶさに調べた後、ナクリーは子供たちの話を聞いた。その時、子供たちはその11人目の子どもを不思議な名前で呼んでいた。聞いてみると、この教授に教えてもらったという。
 そこでナクリーはこのコロニーの最も経験豊富で最も優秀な教授のもとを尋ねたのだった。

「あなたが謎の子供は”ザシキワラシ”という名前だと言ってたと聞いて一応調べてみました。古い伝説上の妖怪でしたね。極東の。そんな与太話よりは地球外生命体のほうがまだ信じられると思うんですけど。子供になら通用するかもしれませんが、まさか教授はそれを信じてはいませんよね。それなのにどういった訳でそんな話を子供たちに吹き込んだんです?子供が一人増える事件も教授がなにかトリックを使って、起こしたんじゃないんですか?」
 ナクリーの問に教授は答えて言った。
「妖怪とはひどいな。精霊、もしくは妖精と言ってくれ」
 その言葉にナクリーは呆れ返った。
「精霊でも妖精でも幽霊でもなんでも構いませんが、どうなんです?なぜ子供たちにそんなデタラメを吹き込んだんですか?」
 相手の剣幕に少しも動じず、教授が言った。
「いや、それがでたらめではないからさ。”ザシキワラシ”は本当にいるらしいんだよ」
 ナクリーが驚いて何か言う前に教授が続けた。
「私は数えきれないほどのコロニーを回ったが、そのほとんどのコロニーで同じような話を聞いた。いつの間にか子供が増えている、と子どもたちが騒ぎ出すんだそうだ。その様子が似ているから、誰言うとうもなく、いつしか”ザシキワラシ”ということになったらしい」
「そんな話、私は聞いてません。コロニーの最高司令官である私の耳に入らないのは可笑しいじゃないですか」
 ナクリーは異議を唱えた。
「そんなに可笑しいことじゃないだろう。ただの噂話、宇宙伝説だ。いちいち、上の方まで報告されないだろう。もしされたとしても各コロニーに伝達されるほど重要な話でもあるまい」

 一応理にかなっている。ナクリーはそれでも矛を収める気はなく、教授に聞いた。
「本当にあなたは”ザシキワラシ”という謎の何かが実在すると思っているんですか?」
 その問に、教授は一呼吸置いてからしゃべりだした。
「実在してるわけではないだろうが、多くのコロニーで見られる現象であることから、何らかの理屈があるとは思う。私の考えではそれは集団幻覚の一種で、それが多くのコロニーに起こったのはある悲劇のせいだと考えている」
「悲劇?」
 ナクリーは聞いた。
「君は知っているか知らんが、本家”座敷わらし”というのはその国の貧しい地方で伝えられていた話で、そこの地方では頻繁に間引きがあったのだ。その代償として、子供の神が祀られ、それが変形して座敷わらしという形になったと言われている」

「まびき」
 ナクリーはそれを聞き顔を凍らせた。
 20年前、惑星間紛争が勃発し、各コロニーへの物資の供給が極端に減少した。多くのコロニーは自給自足を迫られる事態に陥り、生命維持のための資源の極端な不足が、各所に生じた。緊急避難特別法が発布され、多くの胎児、新生児は安楽死させられ、医薬品の不足から、病人、老人も多数死んだ。最終的に、児童、幼児までが安楽死させられたところもあったという。
 紛争が終結するまでの5年間、小惑星コロニーはどこも地獄を見たのである。

「今でも我々はあの頃のことを忘れてはいない。今の子供達にどのように伝えられているか知らないが、われわれ大人は以前のような目で子供たちをみられない。それが無意識に子供たちに伝わって、”ザシキワラシ”が現れるのだと思う。悲しい記憶の産物ではあるが、かえってその存在は小惑星コロニー全体にとって良い影響を与えていると思うんだ。座敷わらしがいる家は繁栄するという。なら、”ザシキワラシ”が出るコロニーも繁栄が約束されていると思わないか。そう思えれば自然子どもを大切にするだろう。二度と悲劇を起こさない、とみんなが強く意識できるのではないだろうか」
 ナクリーは教授の言葉を半ば上の空で聞いていた。暗い、封印していた記憶が蘇る。それを懸命に振り払い、彼女は言った。
「どうも納得がいきません。誰かが意図的に誘導しない限り、子供たちがそんなに頻繁に幻覚を見るもんでしょうか?それより!」
 そう言って、ナクリーは一旦部屋を退出し、すぐに戻ってきた。一緒に幼い子供がついてきている。
「この子を使って子供たちをだました、と考える方が理にかなってます」

 教授は驚きの目で彼女を見た。
「どうして?どこから?」
「もちろんあなたの部屋から押収したんです。このアンドロイドを」
「そんな、馬鹿な!」
「いいえ、本当です。司令官権限であなたのスペースを捜索させていただきました。この子が部屋の隅に立っていました。許可無くしてアンドロイドを持ち込むのは違法です。まさかアダルトな目的で持ち込んだとはいいませんよね。もしそうなら、さらに極刑が待ってますが。
 なぜ、訳もなく教授のところに子供のアンドロイドがいるんですか?」

 質問には答えず、教授は混乱して言った。
「いったい、どうやってその姿になった?私がきちんと命令を出さない限り、クリーニングロボットのままなはずなのに」
 教授の混乱ぶりにナクリーはそばのアンドロイドを見た。クリーニングロボット?いいえ、確かに最初からこの格好で教授の個人スペースにいた。故障したわけ?

 その時、アンドロイドがしゃべりだした。
「おとうさん、ありがとう。私たちのことを考えて、色々やってくれたんだよね。でも、もういいよ。私たちはしあわせだったんだよ。なにもしてくれなくても、私たちはしあわせだったんだよ」
「えっ、一体何を言っている!」
 教授はアンドロイドを見つめた。
「ありがとう、おとうさん。さようなら。げんきでね。長生きしてね」

 教授はあまりのことに何も言えず、その場に固まった。それを見ていたナクリーにアンドロイドは顔を向け言った。
「ママ、ママ。辛いのはわかるけど、どうかわたしのことを思い出して。わたしのことを忘れたふりをして頑張るママを見ているのはわたし悲しい」

 前とは違う声色で、別の子どものようだった。
 何を始める気!怒りとともにナクリーは教授を見た。しかし、その表情から教授が自分をはめようとしてる気配は微塵もなかった。

「ママ、どうかわたしを思い出して。ママが思い出してくれなければわたしは本当にいなくなってしまう。悲しみに負けないで。わたしはママが好き。だからお願い、ママ」

 ジリジリと寄ってくるアンドロイドにナクリーは恐れをなし後退した。
「うあっ、あっ」
 右手を前に出し、相手を制止しようとしている。
「ママ、ナクリーママ!」
 その言葉でナクリーは崩れ、何か名前を叫んだ。
 後は号泣するだけだった。
 かたわらで教授も泣いていた。
 
 その後アンドロイドは二度と動くことはなかった。宇宙では今も11人目の伝説がささやかれている。

終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この記事で ブログ村 第2回読み切り短編小説トーナメント 5位でした。投票ありがとうございました。
スポンサーサイト



テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

このページのトップへ
コンテントヘッダー
コンテントヘッダー

コメントの投稿

非公開コメント

No title

これは素晴らしいです。二転三転する展開、そして心を打つ結末。

傑作です。今からでも秘密裏に徹底的に推敲を重ね、来年度の星新一文学賞に送りましょう。

わたしはマジでいってます。

Re: ポール・ブリッツ様

いつもコメント有難うございます。

この作品を高く買ってもらって恐縮です。

なぜ”秘密裏に”推敲を重ねなければならないのかよく分かりませんが、賞に遊びで応募してみるのもありかもしれませんね。考えてみます。

うちの地元の寺には江戸期に書かれた絵が伝わっているんですが、それが間引きは地獄に落ちるからやめましょうという説教の絵なんです。人々が赤子を始末している場面が書かれています。そんな絵が必要とされていたような暮らしぶりだったようです。わたしの地元の江戸期は。

 それと「アステロイド・マイナーズ」という漫画を読んでこの話になりました。実際こんなことは起きないだろう、と予測しての話です。

No title

「秘密裏に」と書いたのは、たまに「ネットに発表した作品はお断りします」などという注意書きがある新人賞があるからです。完全未発表にこだわりすぎることもないですが、リスクは冒さないにこしたことはありません。

星新一賞、ネットからでも応募できますので、来年は武者修行と思ってぜひ。

Re: ポール・ブリッツ様

なるほど、賞の応募にはそんな事情があったりするんですね。納得しました。
わざわざ返答いただきありがとうございました。

No title

自分も応募されるのは面白いと思います。
sfでこれだけ裏切られる展開火消茶碗さんにしかかけないと思います。

Re: 青井るい様

いつもコメント有難うございます。

裏切られる展開、というかどんでん返しがショートショートの肝なのかなあ、と思っています。抒情的な話もいいですけどね。書けないし。
このページのトップへ
このページのトップへ
プロフィール

火消茶腕

Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR