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白いサプライズ



 彼は慎重に玄関の鍵をまわした。
”ガチャン”とかなりの音がし、彼は一瞬自分の当初の計画を諦めかけた。しかし、中から足音が近づいてくる気配がなかった。彼は安堵するとゆっくりとドアを開けた。
 
 そこで玄関を見て、彼に驚きが走った。見慣れぬ男物の靴が三人分並んでいる。
”なんだ、なにがあった?”
 耳を澄ますと、寝室の方から、複数の男の声と、妻の嬌声が聞こえてくる。彼の頭に急速に血が登っていくのが分かった。

 
 ここ数ヶ月、彼の務めている会社は多忙を極め、彼自身、その間に休日は一日としてなかった。帰宅も常時、深夜を過ぎ、家には寝に帰るだけの毎日だった。
 
 そんな生活に彼の妻は不満を溜め込んでいる様子だった。二人にまだ子供はなく、妻は家にひとりきりですごしていた。

 そんな中、突然、ポッカリと彼の仕事に空きができた。受注のミスによるスケジュールの変更が原因だった。
 特に急ぐようなの業務はなくなり、そこで上司が気を利かせて、彼の部署全員に半日の休暇を与えたのだ。
 彼は妻を驚かし、喜ばせてやろうと、連絡を入れずにケーキを手土産に帰ってきたのだった。

 
 寝室に近づくにつれ、事態は疑いようもなくなっていた。男が複数、妻と寝室にいる。妻のあられもない声が聞こえてくる。

 彼は寝室のドアを勢い良く開け、怒鳴った。
「何をしている!」
 
 三人の男が一斉に彼の方を向いた。皆、裸だった。

 一瞬、三人ともきょとんとした顔をしたが、すぐに平静な表情になり、「誰?」とベッドで横になっていた妻に聞く。

 妻も顔を上げ、ややぼんやりとした風に彼を見つめ、それからゆっくりと笑って言った。
「あら、あなた」

「ああ、旦那さんか。なに?帰りは遅いはずじゃなかったの?」
 まるで何事も起こっていないかのように、男の一人が妻にたずねた。
「私はそう聞いてたんだけど、なに?なんで今日に限ってこんなに早いの?」
 身体を隠そうともせず、妻は夫にたずねた。そのあまりに悪びれしない様子に、彼は虚を突かれ、無言のままで固まってしまった。
 その様子を見ていた男の一人がにやにやしながら言った。
「あれ、旦那さん、ショックで、口が聞けなくなってしまったようだよ」
「ああ、そうか~。いや~、済みませんね。こんなトコロお見せしてしまって」
 別の男が、夫に声をかけた。
「でも、誤解して欲しくないんですが、われわれは無理やり、奥さんをどうこうしようとした訳じゃないんです。これが商売なもんで」

「商売?」
 夫は青ざめた顔をしながら、乾いた声で聞いた。
「ええ、われわれ三人は奥さんにまあ、雇われたわけでして。それで、奥さんにご奉仕しているところだったんですわ」
 そうだ、そうだ、とほかの二人もうなずいた。妻はよそを向きながら、すましている。

”商売?”
”ご奉仕?”
 彼の頭の中をその単語が駆け巡った。妻を見ると、彼女も夫がどんなでかたをするのか、ややあきらめ気味な開き直った態度を見せて、ちらっ、ちらっとこちらを見ていた。

 彼は妻の姿と、周りの男達を詳細に観察した。そして、少し考えた後、生唾をひとつ飲むと、言葉を発した。
「商売、というと、カネさえ出せばこちらの要望に応えてくれるのか?」

 意外な質問に、男たちも妻をおやっという顔をしたが、男の一人はすぐに察して答えた。
「ええ、もちろん。金額さえ見合えば、大抵のことはお受けしますよ」

 その言葉を聞いて、彼はおもむろにネクタイを外し始めた。
「じゃ、俺も混ぜろ。文句はないよな」
 そう言って、ワイシャツを脱ぎ始める。

「はっ、こりゃいいや。そう来ましたか」
 男の一人が手を叩いて笑った。
「前に、行為を見学させろ、って旦那さんがいたが、それよりいくらかマシでしょうかね。変態度合いが」
 ほかの男たちもそろって笑った。妻は、ホッとした顔をし、そして、満面の笑みを浮かべた。


 この日のことが原因となり、結局、彼と妻は別れた。けれども彼に後悔はない。今では、すっかり三人の男の馴染みとなり、ご奉仕を受けて、日々のストレスを発散している。

終わり
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ブラウンの「悪夢シリーズ」の向こうを張ってますね(^_^)

今回はちょっとオチが想像できてしまいました。まあ、読者にオチを読ませるのが狙いの話だろうとは思いましたが(^_^)

今度は変化球でくるのかな? 楽しみです。

Re: ポール・ブリッツ様

コメント有難うございます。

いやいやとにかくブラウン巨匠を引き合いに出されるのは恐れ多すぎです。

シモネタ難しいです。性倒錯は事実は小説より奇なりの世界だと思います。

シリーズ化などとんでもない。もしネタが思いつけたら、発表させて頂きますが。

No title

今話題の離婚騒動を彷彿と。
ある意味、火消茶碗さんからすると変化球かもしれませんね。
人の欲求はホント奥が深い……。
あるいは昨今のストレス社会から来る現代人特有の……かも。
……考え過ぎか。

面白かったです。

Re: 小説と軽小説の人様

コメント有難うございます。

性的倒錯については、昨今のストレス社会は関係無いとおもいます。(自分の経験にてらしあわせてみて)

何故そういう嗜好になるのか、色々想像すると面白そうですよね。

迷惑さえかけなければ、どうなってもいいと思うんですが、あまりおおっぴらにはできないのが、難点。

そこでショートショートを書く、と。
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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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