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マシュマロテスト



「マシュマロ・テストというものを知っておるか?」
 女王様がわたくしにお尋ねになられました。

 マシュマロ・テスト。
 確か、未就学児童を対象にした心理実験で、机と椅子しかない部屋にテストを受ける子供を一人だけ連れてきて、皿にマシュマロを一個置き、「これから用事があって、わたしは数十分ほど、部屋を出てるけれど、そのマシュマロは食べていい。けれど、わたしが戻ってくるまで食べるのを我慢したら、もう一個マシュマロをあげる」と言って、子供がもう一個のマシュマロをもらうために、目の前にあるマシュマロを食べずに我慢できるか、という忍耐というか、抑制力というか、そういうものが備わっているかを試すテストだったはず。

 しかも、二個マシュマロを貰った子供は、おとなになってもいい暮らしをしていた、という、なんだか怪しそうな結論も導かれていたような気が。

 しかし、ここは、自分の知識をひけらかす場面ではない。
 わたくしは答えました。
「どこかで聞いたような気もしますが、覚えておりません。よろしければ、お教え願いませんでしょうか」
 
 深々と頭を下げると、女王様は蔑みの目を向け、わたくしに言いました。
「本当にお前は物を知らないねえ」
 そして得意げに、わたくしにマシュマロ・テストについての説明を述べられました。

 お教えくださった内容は、やはりわたくしが覚えていたことと大差はなく、新しい知見は皆無でしたが、わたくしはさも感心したように聞き入りました。

「なるほど、そのようなテストでございましたか。なかなか、興味深いものだと思います

 わたくしがそう答えると、女王様がすかさずおっしゃいました。

「そこでだ!」
 いかにも面白いことを思いついたような顔です。
「お前がわたしの寵愛、つまりご褒美を、一週間、いや、それでは甘いか。一ヶ月、そう、一ヶ月我慢したら、わたしだけではなく、もうひとり、別の女王様にかしずけるようにしてやろう。
 もし一ヶ月の間に我慢できなくなったなら、素直にわたしに言えばいい。いつもどおり、お前にご褒美を授けよう。しかし、二人目の女王様はなしだ。分かったか?」

 満面の笑みを称え、ルミコ女王様はわたくしにおっしゃいました。
 何というテストでしょう。
 一ヶ月。一ヶ月もの間、ルミコ女王様のご褒美がもらえない。
 何という苦しみ。
 しかし、この苦しみこそわたくしの望むもの。
 
 けれど、一ヶ月耐えたなら……。
 もうひとりの女王様欲しさに、ルミコ女王様のご褒美を欲しがらなかったことになる。そうなったら、ルミコ女王様はお怒りになり、更にわたくしを罰してくれるのだろうか?それとも、わたくしを見捨てておしまいになるのだろうか?

 一ヶ月、我慢するか、すぐに女王様に懇願するか?
 わたくしは正解がわからず、日々苦悶するのでした。この、大人のマシュマロ・テストに。

終わり
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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