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ガチョウと黄金の卵




「ガチョウと黄金の卵の話は知ってるわよね?」
 私は聞いた。

「もちろん知ってるさ」
 彼は微笑んだ。

「それなら、愚かな飼い主が、毎日黄金の卵を生んでたガチョウを駄目にしてしまった、ってことも分かってるのよね」
 私はやや語尾を荒げ、言った。
「もちろん、それも分かってるよ」
 彼は軽くうなずいた。顔はまだ笑っている。

「じゃあ、どうして……」
 私は悲しげに彼を見つめた。彼の愚かな行動を止めたかったのだ。しかし、彼の決意は固いようだった。
 眼の前の手術道具を仔細に点検しながら、彼が理由を告げた。

「僕はけしてその愚かな飼い主のようにはならない。そういう確信があるからさ。話の中の飼い主はガチョウの体について、何も知らない素人だったろう?まあ、食べるために、ガチョウを解体したことぐらいはあっただろうけど、所詮その程度の経験しかなかった。だから、単純にガチョウの腹を開いて、そして殺してしまった」

「あなたは殺さないと?」
「当然さ」
 彼は力強く肯定した。
「血液、CT、MRIなど、事前に考えられる限りの検査を念入りにした。関連の文献も読んだ」

「それは分かってるけど……」
 私は言った。
「それでももう一度考え直してみない?まだ他の方法があると思うんだけど?」
 私は涙目で訴えた。

「いや、もうこれしか方法はないんだよ。直接お腹を開けて、臓器のサンプルを採取して、顕微鏡を使って徹底的に組織検査をしてみるしかね。
 何度も他の被験者に移植を試みたけれど、他の人には長期間、留まることはなかった。
 それなのに、治療には著効を示す。かなりの多数な疾患に……。

 君の腸内細菌は本当に驚異的だ。まさに黄金の卵だと言ってもいい。それを毎日、少しだけしか得られないなんて、人類の損失だろう?
 なんとしても、君の腸内の秘密を解き明かし、その優秀な腸内細菌群を大量培養する方法を確立するのが、僕に与えられた使命なんだ。
 腕がチクッとするだろうけど、すぐに麻酔がきいてくるからね」

 私は手術台の上で精一杯もがいたが、縛り付けられた体を解き放つことができなかった。
 やがて薄れゆく意識の中、私は自分がお話のガチョウにならないことをひたすら祈った。


終わり
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ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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