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腹の虫がおさまらない




「○○さんどうぞ」
 呼ばれて若い女が部屋に入ってきた。ここに来るのは初めてのようだ。すなわち、初診の患者だ。
 
 紹介状を持ってきていたので、先にそれを読んでいたから、大体の病状は把握できていた。が、誰にでもするように、眼の前の椅子に女性が座ったところで、私は尋ねた。
「どうされましたか?」
 
 私の質問に、彼女は怯えたような目を向け、それからうつむいて、つぶやくように言った。
「あのー……、実は……、その……、頻繁にお腹が鳴るんです」

「お腹がですか?しょっちゅう、グーグーいうと?」
 
 私の問いに、相手は小さく頭を振った。
「いえ、音はいろいろで,キューキューいったり、グリュって鳴ったり……、もちろんグーグーとも聞こえたりしますけど」

「なるほど、音はいろいろなんですね。で、今もお腹は鳴りそうですか?できれば実際に聞いてみたいのですが」
 私が尋ねると女はまた首を振った。

「いえ、実は人前ではまったく鳴らないです」

「そうなんですか?」,
 私は聞いた。

「はい、誰かいるときは全然鳴らないんです。けれど、私が一人になった途端、鳴り出すんです。しかも、それは私が何かしゃべった時に限っていて、まるで、それに応えるように鳴るんです」
 女は恐怖に震えながら告白した。

「応えるようにですか?」

「はい」
 女は頷いた。

「初めはただの偶然かと思いました。けれどそれが何度も続いて……。少し気味悪くなって、それで冗談で、”中に誰かいるの?”って、聞いたんです。お腹に。すると返事をしたんです。キューって」

「はあ、なるほど」

「私は怖くなりました。本当に何かが私のお腹に中にいるんだって気づいて……。それで、出て行ってくれるように頼んだんです。必死に。けど、全く言うことを聞いてくれなくて、それで……」

「それで自分のお腹を刺したと」
「はい」
 今度は彼女はうなずいた。

「この紹介状によると、ずいぶんと深く、自分のお腹を刺したようですね。たまたま、場所が良かったから助かったようですが、悪くすると即死していたかもしれませんよ」
 私は机の上に置いていた紹介状を、ちらっと見て言った。

「ええ、運が良かったと思っています」
 女はニッコリと笑った。

「で、どうなりました?お腹の方は?それで鳴らなくなりましたか?」
 私は興味に駆られて尋ねた。

「はい。それ以来、一人でいて何か喋っても、お腹が鳴ることはなくなったんです。だからここに来る必要はまったくない、と思っているんですけど、わたしの主治医の先生が、どうしてもここで診てもらえって言うもんですから。精神科なんて、必要ないのに……」

「わかりました」
 私は大きくうなずいた。




 彼女の入院の手続きをした後、私は一息ついた。

「お仲間のことは残念でしたが、彼女は二度とこの病院から出られないようにしましたので 、どうかお怒りをお鎮めください」
 そう言うと、私のお腹は満足げに鳴った。


終わり
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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