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悪夢?



 

 夜中、寝室で寝ていると、なにやら不審な声のようなものが聞こえ、目が覚めた。
 
 それはムーとかウーとか、明瞭な言葉をなしておらず、最初は猫が鳴いたのかと思った。しかし、その声は我が家の2匹の飼い猫のどちらにも似ていない。
 そこで、隣で寝ている妻と一緒になって、はやニ十年、その間、ただの一度もなかったことだが、これはもしかして妻の寝言なのではと考えた。

 すぐに同じような声がし、確信をした。妻は寝言を言っている。

 一体どうしたんだろう、と思ったが、非常に珍しいことだったので、この後どうなるのか興味が湧き、声をかけて起こすことは止して、様子を見ることにした。

 声は最初小さくて、何を言っているのか聞き取れなかったが、それはだんだん大きくなり、かなりの音量となった。しかしそれでも言語は明瞭としない。
 
 ほぼ悲鳴に近くなったところで、これは寝言などではなく、妻の身体に何か変調が起きて、自分に助けを求めているのではと考えた。これはまずいと、急いで布団から出て、妻を揺り起こそうとしたところで、彼女がはっきりと、大声で叫んだ。

「ケンタ、駄目!やめて!」

 それを聞き、私は硬直した。ケンタとは私の名前だからだ。

 えっ?起きてる?目が覚めた?
 
 窓に取り付けたカーテンの脇から漏れてくる、外の明かりからでしか確かめようがなかったが、私はその薄暗い明かりに照らされた妻の顔をまじまじと見た。
 明らかに寝ている。どうやらさっきのも寝言のようだ。

 なんだ?どういうことだ?
 悲鳴に近い叫び声の後、私を呼び捨てにして、私の何らかの行動を制止した。
 
 妻は普段私のことをあなたと呼ぶ。若い頃はケンタさんだった。ひどい喧嘩をした時でも、ケンタ、と呼び捨てにされたことは一度もない。その妻のケンタ呼ばわりはかなりショックだった。
 
 駄目ってなにが?やめてって何を?
 一体、妻はどんな夢を見ているのだろう?

 私はかなり混乱し、もしこの続きがあるなら是非聞きたいという思いと、これ以上妻が寝言を言う前に起こすべきではという二つの考えで迷った。

 何もできず呆然としているうちに、険しかった妻の表情が緩み、再び寝言を言った。

「なに?ご褒美欲しくないの?」

 はあ?
 ご褒美?なんだ、ご褒美って?

 どうやら妻は悪夢を連続してみているわけではないようだ。

「じゃあ、土下座して、足を舐めて、椅子になって……」

 後はむにゃむにゃとした感じの口調となり、その後はずっと静かになった。もう寝言は終わったらしい。

 私は自分の布団に戻り、今の出来事をいろいろ考えたが、やがて眠りについた。

 翌朝の妻の様子はいつもと全く変わらなかった。
 昨夜、寝言を言っていたよ、と教えようかとも考えたが、妻が喋ったことをそのまま言って良いのか判断がつかず、結局黙っていることにした。

 昨夜のことは悪い夢ということでいいだろう。ちなみに私には妻の足を舐める趣味はない。

終わり

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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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