似た者同士
「彼女と一緒になろうと決めたってことは、あれ使ったんだな?」
報告しに来た相手が母親と台所に行き、二人っきりになったのを見計らって、息子に父親が聞いた。
「うん」
息子が言った。
「悪いとは思ったんだけど、どうしても不安で」
「分かる、父さんもそうだった」
父親はうなづいた。
「自分に不相応な美人がパートナーになってくれると思うとな。何か裏があるんじゃないかと思って、どうしてもな」
「このことは絶対、内緒ににした方がいい」
父親は少し悲しげに息子を見つめ、息子に強く言った。
「ああ、分かってるよ」
息子が応じた。
「あれ、やっぱりありました」
台所で、未来の義母に彼女が告げた。
何のことか、すぐにピンときた母親は苦笑した。
「あら~、そう!本当に?まったく、親子して。本当、あんな息子でごめんなさいね。なんなら婚約、考え直してもいいのよ」
「いいえ、これで彼が私のことを信用してくれるなら、かえって良かったかと」
彼女は穏やかに微笑んだ。
「そう?」
彼女の言葉に、母親はホッとした。
「前もって、味など教えていただいていたので、薬が盛られたのはすぐわかりましたし、効果を消すものも譲られていましたので、実害はありませんでしたから。
彼は過去の私の男性との付き合いを知りたがっていただけのようでしたから、素直に自白剤の効果に身を任せても良かったんですけど。他の答えにくいことを聞かれたら、やっぱり嫌だったので」
彼女の言葉に母親は言った。
「それは当然ですよ。誰だって、たとえ好きな人にだって、いえ、好きな人だからこそ、秘密にしておきたいことは必ずあるものですものね」
彼氏の母親が物分りの良いに安心し、彼女が聞いた。
「ところで、自白剤とその効果を消す薬をどうして持ってらっしゃたんですか?どちらも簡単に手に入るとは思えないんですけど」
「それは私と旦那様に、薬学の研究所に勤めてるすごい友人がいて、その方が作ってくれたの。結婚する前、旦那様には自白剤を。そして私にはその効果を消す薬をね」
少し夢見るような表情で、母親が言った。
「その友人という方は男性ですか?」
彼女が聞いた。
「ええ、とっても素敵な、いい方よ。そのうち、ぜひ、あなたにも紹介してあげたいわね。あなたもお礼を言いたいでしょう?」
母親が意味深に笑い、彼女も同じように意味深に笑い返した。
終わり
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