告知
突然目の前に天使が現れ、告げた。
「驚かないでください。私は大天使ガブリエル……」
「ガブリエル!?」
私は驚愕した。
「ガブリエルって、聖母マリアの前に現れたあのガブリエル?」
「そうです」
天使がうなずいた。
「私はマリアに受胎告知をした、その大天使ガブリエルの部下です」
その一言で私は拍子抜けした。ああ、部下。
しかし、部下といえど天使には違いない。私はすぐにひざまづき、精一杯へりくだって聞いた。
「それで、大天使ガブリエルの部下のあなた様が、いかようなご用事で、私の前にお現れになったのでしょうか?」
天使は優しげな声で言った。
「わたくしも上司と同じ仕事についております。すなわち、あなたに受胎告知をしに来ました」
「はっ?」
私はあまりのことにしばらく声が出なかった。
「えっ?受胎告知って、つまり、私が聖母になるってこと?」
ようやく、そう天使に聞くと、天使は笑って頭を振った。
「いえいえ、そのような大層なものではありません。もし、あなたが神の御子をお宿しになったのだとしたら、当然、前回と同じく、私の上司、大天使ガブリエル様があなたのもとにいらっしゃるでしょうけれど、今回、あなたが宿されるのはごく普通の子供です」
「え~っ!普通の子供?じゃ、何でわざわざ?」
私は聞いた。
「わざわざではありません。子供を生む人には必ず天使が告知しているんですよ。大半の方は覚えてらっしゃらないようですけど」
そうだったのか!知らなかった!でも、待てよ?
「あの~、何かの間違いじゃないですか?私、その、子供を授かるような覚えはまったくないんですけど」
現在、私には夫も恋人もいない。正直言って、経験すらない。変だ。
「いいえ、間違いではありません。あなたが今日、受胎され、九ヶ月後に子供を生むのは決まっていることなのですよ。なぜなら、私は今から九ヶ月後の未来からここにやってきました。あなたが産んだ元気な子供の顔を確認した後で。それですので恐れることはありません。あなたとあなたの子供に神のお恵みがありますよう」
そう言い残して天使は消えた。
そして、案の定、私は目を覚ました。
うん、夢だ。
妙にリアルだった気もするけど、この世に天使などいない。ただの夢。
しかし……。
今日、友人といつものように飲む約束をしている。気のいいやつで、私も好きっちゃ好きだけど、男女の仲とは言い難い。
どうする?今回は都合が悪くなったと断るか?
でも、ただの夢だよね。大げさに考える必要あるか?
ん~~っ!
私はぐちゃぐちゃになった頭で、最後まで考えていた。
終わり
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