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父帰る




 
 僕が二度目に父を失ったのはこんな初冬の日だった。
 一度目に失った時は、僕はまだ小さくて、何も覚えていない。
 その代わり、父が帰ってきた時のことは鮮明に覚えている。それもこんな初冬の日だった。


 もう、何が理由だったか覚えていないけれど、その時、僕は部屋で一人泣いていた。多分、父親がいない子と言うことで、いじめられていたのだと思う。
 母親は僕を一人で育てるために、遅くまで仕事をしていて、僕は家に一人でいることが多かった。
 グズグズといつまでも泣いていると、いつの間にか、目の前に男の人が立っていた。それは写真で知っている、僕の父親だった。


「お父さん?お父さんなの?」
 僕が尋ねると、男の人は頷いて言った。
「そうだ、おまえの父親だ。どうした、マコト。何を泣いている?」


 僕は不思議に思ったけれど、その時は、悲しくて、寂しくて、父親にすがって大声で泣いた。父は僕を抱きしめて、僕が泣き止むまで、頭をなでながら、「済まなかったな」と、繰り返し言っていた。


 やっぱりというか、父は生き返って来たわけではなかった。父は僕にしか見えず、勿論言葉も僕以外聞こえなかった。一度、母に父親がここにいて、僕達を見守っている、と言うと、心底驚いた顔をして、僕を心配そうに見たので、それ以来、誰にも父のことは言わなかった。
 
 父はそれからずっと僕のそばにいて、僕の相手をしてくれた。僕は父が大好きになり、誰に見えなくても、ずっとこのままでいて欲しいと思ったのだけれど。
 あの運命の日が来た。
 
 母が突然、知らない男の人を家に連れてきた。そして言った。
「この人一緒になるの。あなたのお父さんになるのよ」と。


 僕は急いで父を見た。悲しそうな顔をしていた。僕はこころの中で、父に呼びかけた。
「たとえ新しいお父さんが出来たとしても、お父さんはお父さんだよ。どうか行かないで」


 父は微笑んだ。大丈夫。いてくれる。そう思ったのだけれど、次の母の言葉で父は消えてしまった。
「今まで黙っていたけど、この人があなたと血の繋がっている、本当のお父さんなのよ。やっと一緒に暮らせるの」


 以来、父には一度も会っていない。


終わり


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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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