対決
「それでは説明させてもらおう」
やたら押し出しのいい初老の男性が、審査員や対戦相手が自分が監修した料理を平らげたのを見て言った。
「その前に、審査員の方々は、今、私の料理を食べていささかがっかりしておいでではないだろうか?」
突然の問いに審査員達は慌てた。どうやら図星らしい。
「それで結構」
男性は顔色一つ変えず、皆を見て言った。
「これまでの料理対決の中で、こちら側が出した料理は少なくとも前回までは、審査員の方々に今までにない食の喜びを提示できていたと思っている。しかし、その中で、今回の料理はお世辞にも食の喜びを与えられるものとなってはいない」
男性の言葉に皆が驚いた。一体、どういうことなのだろう。
次に何を言うのか皆が男性に注目した。
「そもそも、サンドイッチという料理は、伝説では英国の第四代サンドイッチ伯爵、ジョン・モンタギューがカード賭博に集中できるよう、賭博台で食事を済ませられるようにと考案されたことになっている。それが何を意味するのかおわかりだろうか?」
「あっ!」
対戦相手の若者が、虚を付かれて叫んだ。
「そう、サンドイッチとは美味を追求して生まれた料理ではない、ということだ。
サンドイッチが備えていなければならない条件は美味しさではなく、まず、カード賭博を中断することなく食べられるように、片手で持てるものでなければならない、ということに尽きる。
すなわち、パンはあまり厚いものではなく、手にべとつかないものでなければならない。
同じように、パンに挟む具材も食べにくい大きなものや、汁が多いものは良くない」
「更に、勝負に集中することを妨げるような味付けでは、サンドイッチとしては失格。
つまり、あまり美味しくても、まずくてもいけない。理想としては、無意識に手に取り、食べ、食べたことを忘れるような、それでいて、ちゃんと栄養が取れ、満足感もあるようなものでなければならない」
「なるほど、確かに、シコー側から出されたサンドイッチは説明があった通りのものでしたな。これなら、囲碁や将棋の勝負の最中や、仕事の最中に食べるのに持って来いだ」
審査員の一人が言った。
「では、次にキューキョク側、料理をお出しください」
司会の言葉とともに、審査員達と対戦相手の前に料理の載った皿が置かれた。
「こ、これは……。サンドイッチと言うよりはハンバーガー?」
皿には丸い茶色の皮付きのパンの間にハンバーグが挟まれていた。
「取り敢えず、召し上がってみてください」
若い男の言葉に、審査員と対戦相手が従った。
「おっ!これは?」
皆の顔に驚きが現れた。
「ただの牛肉のハンバーグではない。豚とも鳥とも違う。今まで味わったことのない味だ」
「うむ、独特の味だがうまい」
審査員には好評のようだった。
「この料理のため、本場英国まで食材を取りに行きました」
若い男が言った。
「シコー側が説明した通り、サンドイッチの語源は英国の貴族の名前です。そこで、キューキョク側としましては、究極のサンドイッチに挟む具材は、サンドイッチそのものがふさわしいと考えまして……」
若い男の言葉に会場が凍りついた。
ついさっき、英国の第十二代サンドイッチ伯爵、エドワード・モンタギューが何者かにさらわれ、行方不明となっていることが、ニュースで流れたばかりだった。
サンドイッチがお題の料理対決は、勝敗の決着は着かず、お流れになりそうである。
終わり
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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