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あやまち




 会社での昼食後、スマホの画面を見ていたサチが顔を上げ、唐突に言った。
「やっぱり、最初の一回目って上手く行かないことが多いよねー。けど、さすが二回目となるとちゃんとやれるものだわ。うん」
 と、なにかしきりに感心している。

 お茶を飲んでいた私は、また何かくだらない事を思いついたな、と同僚の顔を見た。同じ独身仲間のサチはなんというか、すこし抜けている。そして無駄にエネルギッシュだ。で、惚れっぽい。
 悪い娘ではないのだが、時々相手をするのが面倒くさくなる。しかし、今は私もお腹が満たされ幸福だ。ということで、私はサチの相手をすることにした。

「なに?何か面白い記事でもあったの?」
 そう返した私に彼女が言った。
「うん、実は最近、国連は70歳を迎えたそうなのです。何とめでたい。長生きおめでとう。パフパフー」
 変な効果音を入れる。

「ああ、そういうこと。確かにそうね。今の国連って二度目だったわよね。学校で習った」
 私は政治経済だったか、世界史だったかの社会の教科書のページが頭に浮かんだ。
「えっと前もやっぱり国連であれ、連合だっけ連盟だっけ」
 私の記憶も曖昧だ。サチのことは言えないかもしれない。

「オホン、連盟ですね、国際連盟。まあ、今見てたネットに書いてあったから私もちゃんと分かるけど、実際、混乱するよね、国際連盟と国際連合って。一字しか違わないんだもの。あれ、今あるのどっちだったっけってなっちゃうよね。国連、国連って省略するのはきっとみんなもどっちだかあやふやなんだからだと思うよ、うん」

 流石にいい大人みんなが、現在ある組織が国際連合だと把握できていないとは思わないが、たしかに前にあった組織と名前が一字違いというのはいただけない。
 私は一応「そうかもね」とサチに同意した。

「それで、その前の組織、国際連盟なんだけど。寿命はたった26年だったそうなのよ。26,26よ。私より年下よ。それで死んじゃったなんて、なんのために生まれたのかって感じよね」
 おお、サチが素直に自分の年齢を認めている。合コンでは大抵24歳になっているのだが。
 私の心のツッコミは無視し、彼女は喋り続ける。

「それに比べ、後釜に座った国際連合は最早70歳。誰が見ても立派な老人。彼が今までいた間、多少のいざこざはあったみたいだけど、しっかり御役目を果たしました。国連えらい。有能。
 でもそれもこれも、前回の失敗、国際連盟があったからとも言えるわけでしょう?」

「まあ、確かに、国際連盟がうまく機能しなかったことを反省して国際連合は作られたって習ったかな」
 私は答えた。
「そこよ、大事なのは!」
 サチが力を込めて言った。
「うまくいかなかったことの反省。それを踏まえての新しい関係づくり。それが平和への道じゃあないのかしら」

 ここで私はようやくピンと来るものがあった。
「サチ、ひょっとして元カレと……」
 私の言葉に彼女はテヘッという顔をした。
「あ~、やっぱり分かった?実は昨日彼から電話が来て、より戻さないかって」

 まんざらでもない顔だ。呆れた。散々裏切られて、捨てられたのに。
 
 突っ込みは入れなかったが、私が考えるに、国際連合が連盟のように短命にならなくて済んだのは、みんなが前の大戦に懲りたからなのだと思う。国連が大戦を防ぐ力をつけたからではない。
 つまり、連盟が失敗したのは、第一次大戦程度の被害ではみんなが懲りなかったからだ。みんなが大国同士の全面戦争はやばいと気づくには、一次大戦以上の被害が必要だったのだ。みんなが十分懲りていたなら、連盟でもちゃんと平和を維持していたと思う。
 そう考えると……。

 私は同僚の舞い上がった顔を見た。
 彼女は元カレとよりを戻し、前よりもひどい目に会わせられない限り、元カレとの関係を捨てきれないのかもしれない。でも一応忠告はしよう。

「え~、サチをさんざん泣かせたやつでしょう?悪いことは言わない。止めときなよ。より戻すの」
 案の定、彼女は素直には聞き入れない。
「え~、でも、彼、悪かったって、さんざん謝ってくれたし。私にも至らないところは有ったわけだし」

 やはり駄目か。今度はいつまで続くのだろう。願わくば国際連合のようになればいいけど。
 私はこころの中でため息をついた。


 そして、数十年後。
 私はサチと話したことを思い出していた。
 今日は先の大戦の反省を元に作られた国際連帯機構の三周年記念。

 サチの方は一度はよりを戻したものの再び別れ、その後は二度と彼とは会わなかった。


終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。


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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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