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レッツダンス




「踊りましょうか?」
 新婚初夜、二人きりとなった寝室で新妻が夫に言った。

「どうしたんだい?いきなり」
 笑顔のまま、新郎は聞いた。

「えっ、唐突だった?」
 女が言った。
「ああ、僕はそれらしいことを言ったかな?君の踊りが見たいって」

 夫の言葉に女は首を振った。
「いいえ、あなたは私の踊りのことについては、いままで一言も触れなかったわ。でも、前の夫はあなたとは違ってとても見たがっていたの。私の踊りを。それで初夜の晩、二人きりになるとすぐに踊った……。だからあなたも実はそうなのかなあ、と思って」

「なるほど」
 男は納得した。
「君の前の夫フィリッポは君の踊りが目当てで結婚したところもあるのかな?君の美しさだけではなくて」

 夫のお世辞に女は嬉しそうに笑った。
「確かに、言われてみればそうかもしれない。あの人、私の踊りにすごくご執心だったから。で、どう?今、踊ってさし上げましょうか?」
 いたずらっぽい目をして女は男に聞いた。

「ん~、興味が無いと言ったら嘘になるかな。なんといっても君の義理のお父さんが感激して、褒美に何でも望むものを、財産の半分でもいいとまで言った踊りらしいからね。でも……」

「でも?」
 女の問いに男が答えた。
「あれはヤラセだったんだろう?」
 複雑な笑顔だった。

「ん?どういうこと?」
 女は表情を崩さずさらに尋ねた。
 男は肩をすくめた。

「いや最初から、君の義理のお父さんは君に最大限の褒美を約束するつもりだったんじゃないかってことさ。確かに、きっとその時の君の踊りは素晴らしいものだったんだろうけど、たとえもしそれが拙い踊りだったとしても、義父さんは君にどんな願いでも叶えてやるって言うつもりだったはずだ」

「なるほど?あなたはそう思ってるのね」
 別に怒るでもなく、驚くでもなく女は男に言った。
「ああ」
 男は頷いた。
「あの時、君はまだ少女だった。確か14か15だったろう」
「14よ」
 女が答えた。

「義父さんから何でも望むものをと言われて、まだ若かった君には、そんな重大な事を一人で決められるはずがない。当然、お母さんに聞きに行ったよね」
「ええ、行ったわ」
「そして君がそうすることを君の義父さんは分かっていた」
「多分そうでしょうね」

「だから義父さんは君のお母さんに前もって頼んでいたんだ。君が何を頼むべきか聞きに来たら、あの教祖の首を欲しがるように、そう、君に言わせるように。それが真相だろう?違う?」

 それには女は答えなかった。
「君の義父さんはそれだけあの男が邪魔だったんだね。今もけして安定しているわけではないけれど、あの当時、世情はかなり不安定だった。そこに、自分の行動を名指しで批判する教祖が現れて、しかも信者の数が段々増えていったとしたら、見過ごす訳にはいかない……。
 けれど、おおっぴらに処刑するのもはばかれたんだろう。だからあんなお芝居を打った。お陰であの教祖が処刑されたのは、君の義父さんはためらっていたのに君のお母さんが強く望んだからだとか、君が、その……」

「あの教祖に一目惚れして、思いが受け止められなかったから相手の死を望んだとか、その生首にくちづけしたとか?」
 女は笑って言った。
 それに反し、男は憤っていた。

「まったく、どこにでも下劣な奴等はいるもんだ。まあ、ことは君のお義父さんの目論見通りに進んだわけだけど。君は生首が怖くなかった?」
 いたわりの目で男が言った。

「いいえ」
 女はかぶりを振った。
「昔の話でしょうけど、敵の一番偉い人の首を自分で切って来たユデイトという勇敢な女性がいた事は知ってましたから。それに比べれば何でもなかったわ」

「そう」
 男は優しく微笑んだ。

「私があの時に踊ったことの顛末はおおよそあなたが考えたとおりですけれど、すこし違っているところもあるの」
「へ~、どんな?」
 女の意外な言葉に男は聞いた。

「私が踊り、母があの教祖の首を欲しがる。そういうふうにしようと決めたのは義父ではなく母なのよ。今でもそうだけど、母は義父のことを本当に慕っていて、義父があの教祖のことで頭を痛めているのを知って、自分が悪評をかぶることを持ちかけたの」

「そうか。そういえば君のお母さんは前の旦那さんと離婚して、君を連れて今のお義父さんに嫁いできたったんだね」
「ええ、母は人妻の身でありながら、今の義父に出会い、その時から身も心も義父に捧げているの。義父のためなら、自分がどんなに悪口を言われようとあの人はまったく平気なんだわ」

「そういうことか」
 男は納得した。
「お義父さんはいい妻を持ったんだね」

「後もうひとつ、私の踊りに関して、あなたに言っておきたいことがあるんだけれど」
 新妻が言った。
「なんだい?」
「前の夫に踊ってみせたことは言ったわよね」
「うん」

「それで、私自身も不思議に思っているんだけど、夫に踊って見せたら、彼も義父と同じことを言ったの。望むものは何でも叶えて上げるって」
「へ~、それじゃ、サロメ、君の踊りはやっぱりすごいものなんだね」
 新郎は驚いて言った。
「それで、何て答えたんだい?何を君は望んだの?」

 女は大分躊躇した後に言った。
「その時は何も浮かばなかった。だから褒美はいらないって断ったんだけど、後で思いついたらでいいから、と言われて……」

「何も思いつかなくて、そんなこともとっくに忘れていたんだけど……。あなたと出会って、私は彼の命を望んだの。母と同じに離婚するのは、その後のゴタゴタを見ているから嫌だった。けれどあなたと一緒になりたかった。だから駄目元で言ってみたの。そしたら……」

「彼は事故で亡くなったんじゃないのかい?」
「分からない。崖から落ちたのは故意だったのか事故だったのか……。
 それで、どう?踊りましょうか?」


終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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