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戦い済んで




「どうやら戦争は終わったらしい」
 メールを読んでいた男が言った。
「本当に?」
 側の女が驚き男を見た。
「じゃあ」
 男がうなずく。
「ああ、負けた。無条件降伏だそうだ」

 女は怯えた表情で、口に手を当てたまま動かなかった。
「軍は既に母星への引き上げ準備を完了したらしい。明日にでも彼らはいなくなってしまうだろう」
 男はなんとも言えぬ表情で遠くを見た。

「これからどうなるの?」
 女が聞いた。
「分からん」
 男は答えた。
「しかし……」

 女は男が続きを言い出すのを待った。
 男は言った。
「取り敢えず、国境を復活させるため、軍備を整えなければならないだろう」
 そして一人うなずいた。


 5年前、宇宙から突然彼らは現れた。
 彼らは自分たちのことを”タラス星人”と名乗り、地球を占領。この星を前線基地とする旨を告げた。

 もちろん、地球人は考える限りの抵抗を試みた。
 しかし、彼らの科学技術ははるかに地球人の想像を超えるものだった。
 いかなる仕組みなのか、武器のたぐいのほぼ全ては使用不可能になり、一人の死者を出すことなく、地球上の全ての軍隊は彼らにより武装解除された。

 そして国境は廃止され、地球は一つの政府として、タラス星の支配域に組み込まれた。
 ほとんどすべての人間に優秀な自動翻訳機が支給され、タラス星人と地球人の間だけではなく、世界中の人間と意思疎通が可能になった。

 軍事基地が月に建設され、それは年々強化された。
 地球上にはそこに物資を運ぶための宇宙エレベーターがつくられ、必要な物が月やその他の場所に運ばれた。

 タラス星人の支配により、地球は大きく変わったが、人々はおおむね満足していた。
 なぜなら彼らが敵対している相手は一度も地球を含む星域には現れなかった。そのため戦闘は起こらず、したがって戦災というものがなかったからだ。
 それよりもかえって国境が無くなったために、世界の地域の格差は是正される方向に動き、武器が役立たなくなったため治安はよくなり、タラス星人の科学力のおこぼれで各産業の生産力が上がったので、誰も大きな声では言わないが、タラス星人に感謝している人が少なからずいた。


「国境を復活って、なぜ?もうこのままで、世界政府のままでいいじゃないですか!」
 女が叫んだ。
「みんなはっきりとは言いませんでしたけど、タラス星人のお陰で、国とか国境とかが無くなって、武器も全部使えなくなって、やっと真の平和が、みんなが待ち望んでいた平和が地球に訪れたじゃあありませんか。それを元に戻してしまおうと言うのですか?」

「そうだ、元に戻さなければならない」
 男が答えた。
「何もかも、タラス星人が来る前に戻すべきだ。国境は復活させ、月の基地や宇宙エレベーターは当然破壊。教えられた先進技術も捨てるべきだ」

 男の言葉に女は信じられないという顔をした。
「はあ?あなた気が狂ったの?」
 男が答えた。

「狂ってなどいない。人類の今後のためだ」
「考えてごらん。タラス星人は負けたのだ。負けて地球から撤退する。するとどうなる」
「どうって?」
「相手の勝った方の宇宙人がここに、地球にやって来ることになる。そいつらが我々地球人がタラス星人に占領されてやられたことをありがたがってたらどう思う?」

「それは……」
「なっ、まずいだろう。ヘタしたらタラス星人の仲間だと思われてしまう。だから、そうならないよう、元に戻さなければならないんだ。タラス星人は悪逆非道の宇宙人で、我々の地球を占領し、我々に対し良いことは一つもしなかった。そうでなくちゃならない」

「そこまでする必要があるかしら?」
 女が言った。
「本当にそんな風に、タラス星人に勝った宇宙人は私達がタラス星人のことを慕っていると思うかしら?」

「断定は出来ないが、可能性がある限り、誤解されないように行動するべきだ」
 男が言った。
「納得出来ないわ」
 女が怒りを含んで言った。
「だってせっかく、やっと地球人はひとつになれたのよ。それをまた前みたいに線で区切って、地域同士でエゴをぶつけあって、挙句に互いに殺し合う世界に戻すっていうの!私は納得がいかない」

「それに」
「それに?」
「もし、そのタラス星人の相手というのが来なかったら?この星域は一度も戦場になりませんでした。本来、ここはそんなに重要な場所ではないのかも。地球にタラス星人が駐屯していたことは当然相手も知るでしょうけど、無視して私達を放っとく可能性だってあるじゃないですか」

「軍事基地を建設していたのだからそんなことは考えにくいが、そうなったらその時はまた考えればいい。タラス星人の相手を気にしなくていいと分かったら、今度こそ自分たちの手で地球政府をつくればいいさ」

 男の言い分に女は激怒した。
「なんておめでたい!本当にそんなことができると思ってるんですか。今までの人類の歴史とタラス星人が来る以前の私達の状況を思い出せば、そんな楽観的な考えは浮かばないはずです。分かってます。あなたの言うことは建前で、本当は戦争をしたいのでしょう。タラス星人に文字通り手も足も出なかった、その屈辱をどこかと戦争して、勝利することによって忘れたいんだわ」

「何だって!」
 今度は男が叫んだ
「それはひどい誤解だ。君は僕のことをそんな風に見ていたのか!知らなかったよ!」

 双方が熱くなり、しばらく声を荒らげながらの言い合いが続いた。
 お互い、言いたいことを言い合い、興奮が冷めてくると片方が切り出した。

「ごめん、言い過ぎた」
「ごめん、私も」
「今の世界の状況に動揺して、過激になってしまったようだ」
「本当。明日からどうなるのか不安で、あなたにそれをぶつけてしまったみたい」


 喧嘩の後は仲直りを兼ね、ベッドで一戦交えることになっていた。

 戦い済んで

 結論から言えば、二人は結婚し、子どもを二人もうけた。
 結論からいえば、タラス星人の相手は地球に来なかった。
 そして結論から言えば、地球政府はできてはいない。
 タラス星人による地球支配は、おぞましい記憶として、今も若い人々に受け継がれている。


終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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