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選択の基準




 これはない。これは大丈夫。
 
 私は採取した15個のうち、3分の1に当たる5個を除外した。残るは10個。私はそれらをしげしげとながめる。
 どれを見ても、色がきれいで、透明感があり、形が良く、はりがあって、傷がない。素晴らしいものだ。少なくとも私にはそう見える。

 しかし、これからたった一つを選ばなければならない。使うのは一つだけ。そう決められている。そう決められてはいるのだが……。

 何度見ても違いなど分からない。それだけ残り10個は似通っている。これからたった一個を選ぶ、その基準がまったく思いつかない。
 
 それでも私は苦労して無理矢理に順番を一から十まで付けた。
 しかしまったく私自身納得していない。多分、もう一度全部混ぜてしまえば、これとはまったく違う順番を付けてしまうだろう。十番目としたやつが一番目になっている可能性は否定出来ない。

 私は自分の仕事で、これの決定だけが悩みの種だった。しかしそれも去年までのこと。
 ある日、偶然にも素晴らしい人と知り合いになることができ、その人の力を借りることによって、この問題を解決できたのだ。

 私は自分が選んだ10個の写真を一枚ずつ撮り、それをメールに添付して相手に送った。



 彼からメールが来た。いつもの依頼。

 今回、写真は十枚。やや多い。私はそれらをざっと見てみる。 
 
 やはり曖昧だな。本来、こういうものは実物を見ないとはっきりしない。写真だけでは難易度が高くなる。
 私は目を凝らし、写真の一枚一枚を丁寧に見ていった。

 うん、これだな。これが一番形がいい。勢いもある。
 次はこれ、その次がこれかな。

 私はその背後に見えるものをつぶさに観察し、順番を付けていく。作業は数分で終わった。

 私は霊能力者だ。人には見えないものが見える。
 その私だけに見えるものとはそのものの生命力みたいなもので、私はオーラと呼んでいた。
 
 信じようと信じまいとそれは他人の勝手ではあるが、私の言葉を信じ、頼ってくる人たちもいるのだ。彼のように。

 私は自分が付けた順番をすぐに相手に送った。
 

 彼女から返事が来た。
 結果を見る。
 私が付けた序列とまるで違う。

 私はもう一度目の前のものを、彼女から送られてきた順番と照らしあわせて観察したが、やはり何を根拠にしているのかまったく分からなかった。
 彼女が言うオーラというものは凡人の私には感知できそうにない。当分、いやこれからずっと彼女の力に頼るしかないのだろう。

 私はすこし憂鬱になった。


「ずいぶんいい成績じゃないか」
 私の上司に当たる教授が、研究報告を見て言った。
「去年までのとは比較にならないくらいのデータが出てるね。何が違った?何か方法を変えたのかね?」

「えっ!いえ、特に何も変わってはおりませんが」
 私は焦り気味に答えた。
「そんなことはないだろう」
 教授が言った。
「去年の初回成功率はたった15%だったのに、今年に入ってそれがなんと50%近くになっているじゃないか。これがただの偶然であるわけがない。なにか変わったことがあるはずだ。よく考えてみなさい!」

 教授はお怒り気味だ。これは困った。

 しかし本当に操作手順や薬品、基材は去年と変わってはいない。
 ただ、体外から取り出し、受精された卵を体内に戻す時に、複数の卵からもっとも良いと思われる一つを選ぶ方法を変えただけなのだ。

 私が選ばず、彼女に選ばせる。それだけ。

 しかし、こんなことを教授に言えるはずもない。
 私はただひたすら、わかりません、を繰り返すしかなかった。


終わり

最期までお読みくださり、ありがとうございました。
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ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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