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白い一日




 朝、目覚めると私は恐る恐る部屋の窓を開けた。空を見上げる。曇っていたけれど、それだけ。雨が降ってくる様子もない。
「良かった。今年も大丈夫だった」
 私はひとり呟いた。

 私には恋人がいる。
 若くてハンサム。人並み外れて頭がいい。さらに金持ちの御曹司。
 ただ、ちょっと変わっていて、自前の研究所を持っていて、日々種々の研究や発明に没頭していた。
 
 そんな彼が一昨年、お返しとしてホワイトデーに私にくれたものは一面の雪景色だった。
「雪っていいわよね。なにもかも白く覆って汚いものを隠してくれて」
 いつだったか何かの拍子にそんなことを彼に言ったのだが、そんな他愛もない小娘の戯言を彼は覚えていたらしく、気象改変装置を作りあげ、私のいる街を一面雪野原にしたのだ。

 お陰でその日、交通は麻痺し、転倒する者が続出し、人々は多大なる迷惑を被った。
 彼が作った機械が原因だとはバレなかったので、私達が非難されることはなかったけど、やはり私は罪悪感に責められ、心が傷んだ。
 ほんと、困るよ、あんな贈り物。まあ、去年同様、今年もそれはないようだからいいけど。

 
 私は食事を済ませ、出かける用意をした。今日は土曜日だけど、彼の研究所に助手をしに行く予定だ。
 彼に是非にと頼まれたわけだけど、まあ、それは口実で、きっとホワイトデーのプレゼントを私に渡すつもりなんだろう。
 そうなると……。

 これをどうしよう。
 私は目の前のクリームを見た。
 去年のホワイトデーに彼から貰ったやつ。最初一回使ったきりで、それ以来使っていない。

 だって、美白クリームと言われたから顔に塗ってみたら、使った途端に顔と言わず身体といわず、髪の毛まで真っ白になってしまったんだもの。
 あの時は心底驚いた。
 
 私はすぐに彼のところにそのことで文句を言いに行ったんだけど、彼ったら綺麗だ、綺麗だって大喜びして、その様子に拍子抜けしてしまって、何も言えなくなってしまったっけ。
 確かに純粋な白髪は綺麗に感じるのは分かるけど、顔はねえ。

 だって、私自慢じゃないけど、典型的モンゴリアンの平たい顔だよ。白人さんじゃないんだから、なんかアンバランスっていうか、とにかく変なんだよ。私が白いと。
 次の日には元に戻ったからよかったけど、一生あのままだったら、と思うとぞっとする。
 
 でも、彼あの時はすごく喜んでいたなあ。今日ぐらい、もう一度使ってみるか、このクリーム。
 私は覚悟を決め、彼から貰った美白クリームを顔に塗った。
 そして私が持っている一番いい服を着て、彼の待つ研究所に向かった。
 
 今日は彼は何を私にプレゼントしてくれるのだろう。常識的なものだといいなあ。
 私は期待と不安を抱えて、研究所の門をくぐり、彼は大喜びで私を迎えてくれた。
「ああ、また白くなってくれている!嬉しいなあ」って。

 それから彼は私の目の前に大きな箱を持ってきた。
「バレンタインのお返し」
 そう言って私の目の前に置いた。

 リボンを解いて、中を見ると真っ白なドレスが入っていた。
 えっ、これって……。

 彼はひざまずき、さらにケースを開いて指輪を差し出した。プラチナの台座に大粒のパールが一つ付いている。
「僕と結婚して下さい」

 えっ、えっ、じゃ、やっぱり、さっきのはウエデイングドレス?
 パールは私の誕生石。
 わわわわわわわっ……。えっと?えっと?

 彼がすこし不安そうな目で私を見ている。
 驚いた!
 でも、嬉しい!

「僕も自分で自分のことはおかしい人間だと思ってるけど、君のことを思う気持ちにおかしいところは何もないと思ってるんだ。こんな変な僕に君は呆れもせず付き合ってくれた。できれば一生そうして欲しい。結婚してくれるね?」

「はい」
 私はこっくりと頷いた。
「良かった。うん、良かった」

 彼はニコニコして、今度は別の指輪を差し出した。
「婚約指輪は普通ダイヤなんだそうだけど、これがあったから、パールを最初に君に渡そうと決めたんだ」
 見ると、もう一つの指輪はプラチナを台座にダイヤモンドがちりばめてあった。

「これはおふくろが親父から貰ったもので、ぜひ、僕のお嫁さんに譲りたい、と前々からおふくろに言われていてね」
 彼がそう説明してくれた。
 彼のお母さんの!ありがとうございます。大事にします。

 感極まって、私は涙ぐんでしまった。
 彼はニコニコして、私をそっと抱きしめた。
「これからずっと一緒だよ。できればすぐにでも式を挙げたいと僕は思ってるんだけど……。いいかな?」


 それから程なくして、私と彼は夫婦になった。
 そして、二人が結婚してから初めてのホワイトデー。
 彼が私にくれたものは極普通のマシュマロだけだった。

「彼も随分落ち着いたのね。そうよね。もうすぐ父親になるんだし」
 そんなことを思いながら、昨日美味しくそのマシュマロをいただいたのだけれど、それは間違いだったらしい。
 今朝、トイレに入って、私は驚愕の雄叫びを上げてしまった。

 ナニが白い!真っ白だ!
 どういうこと?意味分かんない。
 やっぱり彼は変人だ。

 一瞬、離婚の二文字が頭をよぎったが、この変な発明グセ以外は申し分のない夫だ。
 とりあえず来年のバレンタイには何もあげないことにしよう。
 私は固く心に誓った。


終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。


 
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ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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