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愛妻号



”やはりこいつには致命的な欠陥があるのか?”
 研究室のドアを開けて入ってきた、人型ロボット”愛妻号”を見て、私は即座に身構えた。
「何だ、何しに来た?!」
 こちらに近づく愛妻号から目を離さないようにしながら、私はこのロボットを貸し付けた友人たちに起こったことを思い出していた。

 事の起こりは数カ月前、友人の一人が、ロボット工学に携わる私にある製品を注文してきたことに始まる。それが愛妻号だ。
 名前からして分かるように、友人の注文とは彼の妻のしごと、要は家事だが、それを支援してくれるロボットを作って欲しいということだった。しかも金に糸目は付けなくていいという。

 但し、そこらのありきたりなお手伝いロボットとは一線を画すもので、妻の命令に従うだけでなく、命令しないことでも先回りして察知し、妻にサービスをするように行動すること。さらに、高性能の学習機能をもたせ、かなり高度な技術を要する命令、例えばふぐをさばくとか、でもこなせるようなそんな性能を持たせることが条件だった。

 私は友人の要望通りのロボットを作った。
 主人である友人の妻の以前のデータを取り込み、さらにリアルタイムの彼女を取り巻くデータを合わせて彼女の欲求を推測し、事前に行動する。それに加え、高い学習機能をもたせることにより、行動するごとにその正確性を増すように作った。そのはずだった。だが……。

 しかし愛妻号を連れて行った友人は、半年後に私にロボットを送り返してきた。
 その友人曰く、最初はやや拙い動きだった愛妻号は時が経つごとに行動がスマートになり、一月程過ぎる頃には、妻だけでなく、家族にとっても無くてはならない存在になったのだという。
 
 ところが昨日、突然友人を拘束すると麻酔を打ち、頭部に植毛し始めたそうなのだ。彼は抗い、助けを求め、彼の妻も止めるよう命令したにもかかわらず、愛妻号はそれをしばらく続けたらしい。

 皆の推察通り、彼は植毛するにふさわしい頭部を持ってはいた。しかし、彼自身は自分の頭部に植毛の必要性は感じていなかった。もちろん、彼の妻もそんな願望はおくびにも出さなかったはずなのだが。

 戻ってきた愛妻号は金も時間も掛かった私の最高傑作だった。このまま壊してしまうのは惜しい。私は戻された愛妻号に植毛出来ないようにプログラムし、念のため今度は頭部が健常な別の友人にロボットを貸しつけた。

 けれども、これもうまくいかず、また半年ほどで愛妻号は戻ってきた。
 何と、今度は友人を一ヶ月あまり軟禁したのだ。彼の仕事は自宅でできるものだったので経済的な被害はなかったが、彼は家の中に閉じ込められ、どこにもいけず、ろくなものも食べさせられなかった。そしてその結果、体重が二十キロも落ちてしまった。

 皆の推察通り、彼は体重が豊富な男だった。しかし、彼自身は自分の体重を落とす必要性を感じてはいなかった。もちろん、彼の妻もそんな願望はおくびにも出さなかったのだが。

 私は愛妻号を諦めきれず、今度は夫を軟禁して体重を落とさせる事ができないようにプログラムし、念のため標準体重を維持している別の友人にロボットを貸しつけた。

 結果は最悪だった。
 やっぱり半年後、愛妻号が戻されてきたのだ。その時、ロボットを連れてきた友人の顔は以前とは似ても似つかないものだった。整形している!
 ある朝目覚めてみると、顔中包帯だらけになっていた。そしてこんな顔になった。と、友人は語った。

 皆の推察通り、彼はあまりイケてはいない男だった。しかし、彼自身は……(以下略)。もちろん、彼の妻も……(以下略)。

 私は落胆し、愛妻号を壊そうと思ったが、できなかった。こんな高性能なロボットをこれからまた作る機会が来るだろうか?
 そこで最後のチャンスとして、美容整形ができないようプログラムした後、今度は我が家に置くことにした。この半年で、私にも妻ができたのだ。
 私は妻に愛妻号を使ってもらうよう頼み、彼女は喜んでそれを引き受けてくれた。
 
 そしてそれから半年がたった今、愛妻号が私の研究所に現れたのである。

「お仕事をお手伝いに来ました」
 硬い表情の私に愛妻号がそう言った。
「私を手伝いに?それが妻の望みなのか?」

「そうです。奥様は旦那様の帰りが遅いのを苦にしております。その為、旦那様が幾らかでも早く帰宅できますよう、私にお手伝いさせてください」
 確かに、この頃仕事が立て込んで、帰りはいつも深夜過ぎだ。妻は私のことを心配してくれているのか。

 私は妻の心遣いにじーんと来た。愛妻号に何かされるのではないかと疑った自分が恥ずかしい。
 考えて見れば私はハゲでもデブでもブサメンでもない。恐れることはないはずだ。
「よし、ならば手伝ってくれ」
 
 愛妻号を助手にして、私は急いで仕事に取り掛かった。お陰で昨日よりは少し早く家路につくことが出来た。
「あなた、お帰りなさい」
 妻は寝ずに待っていた。
「ただいま。愛妻号ありがとう」
 私は礼を言った。
「いいの、私の方は家事とか余裕だし。しばらく、愛妻号はあなたのお手伝いに使って」

 こうして愛妻号は研究所で私の助手を務めるようになった。最初は大したことも出来なかったが、その高機能な学習能力で見る見る仕事を覚え、数ヶ月もすると私が手を出さなくてはならないところは殆どなくなった。

「あなた、これお願い」
 妻が洗濯カゴを私に持ってきた。
「うん、わかった」
 それを受け取り、庭に出て、洗濯物を干し始める。

 今では私はほとんど研究所に行くこともなく、家にいて妻の手伝いをしている。
 研究所は愛妻号に任せておけば何も心配はない。全て順調だ。
 ただ、なぜ私の研究所で縦横無尽に働いているロボットの名前が愛妻号なのか、皆が不思議がっていることをいちいち説明するのが面倒なことだけが、悩みといえば悩みだ。
 
 今度説明ロボットでも愛妻号に作らせるか。私は妻の手伝いで忙しい。

終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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