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男には向かない職業



「まあ、発想の諸端はラクダのコブなんだけどね」
 着ていたシャツをまくり上げ、なまっちろい腹を出して博士が言った。
 
 見ると博士の右脇腹に拳大の腫瘤がぶら下がっている。どうやらそれが発明品らしい。
「それがどう役に立つんです?」
 私はその肌色の、昔絵本で見たこぶとりじいさんのコブのようなものを指した。

「最初は宇宙旅行に役立てようと思っててね、栄養補給が困難な状況に際しての補助栄養タンクを目指して開発したんだ」
 シャツを下ろし、博士が答えた。

「それでラクダのコブですか。でもそれなら普通に体脂肪を増やすだけでいいのでは?」
 私は率直な疑問をぶつけてみた。

「まあ確かに、体脂肪にはカロリーを貯めこんでおくという役割があるけど、それだけでは色々不都合なことあるだろう?」
 博士が言った。
「不都合というと?」
 私は聞いた。

「一番は体脂肪だけではエネルギーの供給源にはなるけど、タンパク質の不足は補えないということだ。摂取する栄養が足りなくなった時、タンパク質の供給をするのは脂肪ではなく筋肉の役目だ」
「ああ、そうですね」
「それに体脂肪をたくさん付けるとなるとどうしても見栄えが悪くなる。運動能力も落ちる」
「確かに」
 私はうなずいた。

「で、最初、私は生存に必要な量以上に摂取した栄養を溜めるように作ったんだ。このコブをね」
 そう言って博士は自分の腹を指した。
「これを付けて目一杯毎日大量の食事を取ってみた。するとこのコブはどんどん大きくなったが、私の皮下脂肪や内臓脂肪が増えることはなく、血液検査の諸数値も健康そのもの。何の問題も出なかった」

「そこで次に食事を摂るのを一切やめ、経過を観察した。するとコブはどんどん小さくなった。で、断食して一週間目でもやはり私の血液検査の数値に異常は現れなかった」
「では、文句なく成功したわけですね?」
 私が賞賛して言った。

「ところがだ」
 博士が首を振る。
「その実験の最中に重大な欠点を見つけてね」
「欠点?と言いますと?」

「断食するとやはり腹が減るということなんだよ」
「それは仕方がないでしょう」
 私は言った。

「いや、結構重大なことだよ。空腹は感情を荒らげさせ、判断を誤らせる可能性を高める」
「まあ、そうでしょうが」
「そこで」
「そこで?」

「コブを直接食べられるように改良した」
「はあ?」
「本来の皮膚とつながっている部分の面積を極力少なくなるようにし、コブには痛みも感じないようにした。
 利用する時はコブの根本を糸かなんかで縛って出血しないようにして、あと切り取ってしまえば、ただの肉塊だ。調理して食べればいい。試してみたがなかなかいい肉だったよ。 
 自分の方の傷口は絆創膏でも貼っておけば十分で、十日もしたら元の皮膚に戻っていた」

「はあ~っ!!」
 私は驚いて言葉がなかった。
「広義の人肉食になるとは思うが、食べるのは自分の体だけにすれば心理的抵抗はそれ程ないと考えたんだが」

「周囲の拒否に遭ったと」
 博士は悲しそうにうなずいた。
「来るべき宇宙時代の栄養補給に関する画期的な発明だと思ったのだが、どうも一般人の感性にはついていけなくて困る」
 嘆く博士に私は話を聞いていた時から考えていたことを提案した。                   


 こうして私は博士に提案、改良してもらった発明品を胸に二個埋めて貰った。私の胸は徐々に大きくなり、いわゆる巨乳となった。素晴らしい。
 さらにダイエットとは無縁だ。いくら食べても太らない。胸が大きくなるだけ。あまり大きくなりすぎたなら、完全栄養の液体を搾り出すだけで調節が可能だ。痛いことなどない。むしろ気持ちいいくらい。
 搾り出した液体は飲むのも捨てるのも自由。
 この発明はたちまち評判になり、広まった。

 但し、もうひとつ提案した男性版は普及しなかった。若い男性は溜めることができないとか、大量に搾り出すのが困難だとか、走るのに邪魔になるとか、私にはわからないことだけどそんな理由。

 それで男性も胸につける方法もあったのだけど、心理的抵抗が強すぎてこれも駄目だった。

 そういったわけで、宇宙で仕事をしてるのはみんな巨乳の女性になりつつある。博士の補助栄養タンクは宇宙での必需品なのだ。
 
 宇宙飛行士は男には向かない職業になった。


終わり


最後までお読みくださり、ありがとうございました。
                                        
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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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