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おもてなし



「それではこれで失礼致します。本当にありがとうございました」男が相手に礼を述べた。「今回の視察で我々もいささか自信が持てました。いずれこの星のように発展できるよう鋭意努力していきたいと思います。これからも末永くお付き合いのほどよろしくお願い致します」

 言われた相手、ナム星人はにこやかに微笑んで言葉を返した。
「こちらこそよろしくお願い致します。我々のあなたに対する歓待が礼を失してなかったかが心配ですが、それは文化の違いということで大目に見ていただけると幸いです」
 
 相手より数段進んだ文明の持ち主でありながら、実に腰の低い物言いだった。彼に対して、ナム星人たちはみんなこのような態度を示した。

「それでは名残惜しいですが、これで。故郷の星では私の報告を首を長くして待ってますので」
 星の代表としてナム星を視察に来た男はそう言うと宇宙船に乗り込んでいった。ほどなくして、宇宙ステーションから男が乗り込んだ船が離れていく。

「行ったか」
 ナム星人の高官がモニターを見てつぶやいた。
「では彼がいた部屋および船までの通路の切り離しを。確実に太陽に落下するように。分かったな?」
 高官はどこかに向かい命令した。
「了解しました」
 彼の脳内に直接返事が届く。

「あんなに苦労して居らっしゃったのにこれでよかったのでしょうか?」
 そばにいた副官が聞いた。

「ん?何か問題か?」
 高官が言った。
「いえ、あんな拙い技術の船で、それこそ命がけで我々ナム星まで旅して来られた方に、結局、星に降り立たせることもなく、宇宙ステーションの一室に閉じ込めたまま過ごさせてしまいましたから」

「それは防疫上しょうがないだろう」高官が言った。「付き合いが殆どなかった星から来たんだ。どんな病原体を持っているのか検討もつかない。お互いの安全のため、仕方ない処置だと君も解ってるはずじゃないか」

「それはそうなんですが」副官が言った。「ならそれをちゃんと説明しても良かったんじゃないかと。仮想現実を見せる機械でナム星を実際に歩き回ったって思わせたのは、だましたのと同じではないかと思うんです」

「しかし、それじゃ、せっかく来てくれた客人に、あんたは不潔だから家には入れないから、と言ってるようなもんだぞ。そんな失礼なことはできんだろう」
 高官が言った。

「でもそれなら、せめて仮想現実で見せた我々の星の様子は正直に本当の姿を見せても良かったんじゃないでしょうか」副官が反論した。
「何ですか?今回の嘘のナム星は。人種が多数あって互いが差別しあっていることになっていて、宗教も複数あって争い合い、多くの国に分かれていて互いに小競り合いを起こし、言語も統一されておらず、貧富の差が激しくて餓死する子供が後を絶たないとは。どこの野蛮人ですか!彼は我々を激しく誤解したと思うんですが」

「まあまあ」高官が相手をなだめた。「それもしょうがないことなんだ。あの機械は相手がこうあってほしいというナム星の姿を相手に見せるようになっているんだ。今回の彼は我々の星があんなふうであってほしいと願ったのさ」

 その言葉に副官は驚いた。
「なんでまた!せっかく命がけで訪ねてきた星の様子を、そんな野蛮人の巣窟のようであってほしいと願う理由は何なんでしょう?」
 全くわからないというふうに副官は首をかしげた。 

「それは多分自尊心がそうさせるんだよ」高官が言った。「彼の星はきっと君が野蛮人の巣窟と言ったような状態なんだろう。そしてそれを彼も心の中で恥じているんだ。だから、それは普通の事、ほかの文明が発達した星でも同じだと思いたいのさ。相手も同じなら恥ずかしくはないからね。そういうことなんだと思う」

「なるほど。彼はとんでもないところからここにやって来たんですね」
 副官がしみじみと言った。
「彼らがまたここに来ることがあるか分からないが、その時はもう少しましなナム星を見せられるといいんだが」
 すでに遠くに去った船を見ながら高官が応えた。


「ちょろいっス。ナム星人なんて、我々に毛が生えたようなもんですよ」男が上官に報告していた。「たしかに我々より科学が発達しているようでしたが、追いつけない程ではなかったですよ。最初は下手に出ておいたほうがいいでしょうが、力を蓄えて一気に征服してやりましょうよ」


教訓  おもてなしはちゃんと伝わる相手にだけ行いましょう。伝わらない相手だと単になめられるだけで、災いを呼ぶこともあるので要注意。


終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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