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ナンナク大学冒険部 最後の冒険



「それでは、お疲れ様でした~」

 この部屋の主でもある部長のコンソンが、缶ビールを掲げて言った。
「お疲れ様でした~」
 今では彼を除き、たった一人となった冒険部員のチャンスーが同じように缶ビールを掲げて返す。

 二人はややぬるくなったビールに口をつけた後、缶をテーブルに置いて買ってきたポテトチップスなどのツマミに手を伸ばした。


「それにしても返すがえすも残念だ」これで、何度目かの同じ話題をコンソンが口にした。「伝統ある我が冒険部が俺の代で終わってしまうとは」
 そう言って、缶ビールをあおった。
 
 今日で冒険部の廃部が決定し、離散会と称し、たった二人ではあるが、飲み会をすることになった。しかし、予算の都合上、部長の部屋での宅飲みとなってしまった。

「本当に残念です。私はまだ一年しか活動してませんでしたけど、とても楽しかったのに」
 チャンスーが言った。

「奴等、戻ってこないかなあ」
 コンソンは事ここに至っても、前々から捨てきれないでいる希望をつぶやいた。
 ナンナク大学冒険部は人気のサークルではなかったが、それでも一年前までは部員は十人近くいて、活動もきちんと行っていた。

 しかし、部の名前が示す通り、活動内容は危険が伴うことが多かった。登山、洞窟探検、無人島でのサバイバルなどがメインだったが、今年度は不幸なことに冒険に出かけるたびに病人、怪我人が出て、次々と部員が辞めていってしまったのである。

「先輩のお気持は分かりますけど」チャンスーは言った。「みんな一歩間違えば死ぬような体験をしましたから~。なかなか」

 後輩に言われるまでもなく、部員が戻って来てくれるのは無理だと分かっているのか、コンソンはがっくりと首をうなだれた。
「そうだよなあ。やっぱ無理だよなあ。しかし、これで冒険も終わりなんだなあ。悔しいなあ」

 缶ビールを持ったまま遠くを見つめるコンソンにチャンスーが言った。
「先輩、なら、正式な部でなくても二人で活動しませんか」
 コンソンは少し驚いた。
「たった二人で?」
「そうです。二人で、冒険を」

 コンソンはチャンスーの顔を見た。どうやら本気らしい。

「いや、駄目だ」コンソンは首を振った。「部が解散ということで、備品類は全て売り払ってしまい、その金は全て元部員たちの見舞金に使った。今からまた色々揃えるにはお金がかかる。それにたった二人ではできることも限られてくる。冒険らしい冒険をするのは難しいだろう」

「そうでしょうか?」チャンスーが異議を唱えた。「冒険と言ったら、必ず登山したり、洞窟を探検したりする必要があるんでしょうか?」
 チャンスーはここで一旦間を置き、コンソンの一人暮らしの部屋を見回した。

「実は、私は男の人の部屋に入るのは初めてなんです。しかも二人きりで。これって、私にとっては冒険でした。冒険ってお金をかけなくても、周りの人が大したことではないと思っているようなことでも、その人がこれは冒険だぞって思えるなら、ちゃんと冒険したことになるんじゃないでしょうか」

「まあ、理屈ではそうだろうけど」
 コンソンが言った。
「それに、今日で部が終わりなら、もう先輩とは会えないんですよね。そんなの嫌なんです。わたし、わたし……」

「待った」コンソンが話をさえぎった。「その先は俺に言わせてくれ」
 缶ビールを置き、相手の目を見つめた。
「チャンスー、君と初めて会った時から、なんて可愛い子なんだろう、と思ってたんだ。だから俺とつきあ……」

「駄目!!」
 チャンスーがあらん限りの大声を出した。ショックでコンソンの動きが止まった。そんなに嫌なのか?好かれてたと思ったのは俺の勘違い?
「駄目です、先輩。その言葉は私の話を聞いてからにしてください。お願いします」
 訴えるような目だ。コンソンは黙った。

 少しの沈黙の後、チャンスーが意を決したように言った。
「実は私、今まで隠していましたけど、ヤクザの組長の一人娘なんです」
「えっ?!」
 意外な告白。コンソンはひどく驚いた。嘘!!全く気付かなかった。そんなこと、噂すらなかったはずだが。

「びっくりしましたよね。誰にも打ち明けず、ずっと隠し通してきましたから。組はこの地方では結構有名でライオンロックと言う名前なんですけど、私は早くに母に死なれて、父一人の手で育ったんです。父は私のことはとても可愛がってくれますけど、男女交際にはうるさくて。
 それと、これはまだ正式な話ではないんですけど、組のナンバー2、若頭と言うんですけど、その男と私が結婚して、その男が組の跡目を継ぐことを父もまわりも期待しているようなんです。
 ですから、もし私が誰か他の男の人とお付き合いするということになったら、相手の男の人がどうなるのか、それがとても心配で」

「分かった、もう言わなくていい」コンソンが困った顔をしたチャンスーの話に割り込んだ。「チャンスー、俺と付き合ってくれ」
 胸を張り、堂々とした態度だった。不安や恐怖は微塵も感じられなかった。

 チャンスーは両手で口を抑え、その後、涙を浮かべて言った。
「いいの?いいんですか?先輩どうなるかわかりませんよ」
「いいんだ」コンソンは力強くうなずいた。「そのかわり、俺のためといって、俺から離れることは絶対するなよ、約束だぞ」

 チャンスーはこっくりとうなずくとコンソンの胸に飛び込んだ。
「これがナンナク大学冒険部の最後で最大の冒険になるかもしれないな。頑張ろうぜ!」
 チャンスーは涙を流しながらほほ笑んだ。



「ふ~ん、そんなことがあったんだ」
 十数年後、無事に結ばれた二人の間に生まれた娘が、母親のチャンスーから両親の馴れ初めを聞いていた。
「そうなの、その時のお父さん、カッコ良かったわ~」
 チャンスーが少女のようにはしゃぐ。それを見て、やや呆れ顔の娘がたずねた。

「あのさあ、その、冒険部なんだけど。最後、母さんと父さんだけ残ったのって」
「私は直接頼んではいないわよ」チャンスーは即座に言った。「ただ、あの頃、私の思いを先回りして、いろいろ影で立ちまわっていたのよ。あなたのおじいちゃん」
 そう言ってにっこりと笑う。

「じゃ、若頭との縁談みたいなことは?」
「嘘。少し大げさに言ってみたかっただけよ。おじいちゃんはお母さんの気持ちをいつも一番に考えていてくれていたわ。無理やり誰かと結婚なんて、考えもしなかったでしょう。孫のあなたのことだって、きっと同じようにとても大事に思っているわよ」

「だったらさあ、あの、その……」
「わかった。おじいちゃんに頼んであげる。まだまだ、このあたりではおじいちゃんの組の勢いは侮れないんだから。で、誰?誰と二人きりになりたいの?」

 その後、母娘の密談がしばらく続いた。



終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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