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長き眠りの後で



「とても信じられないでしょうけど、これから話すことは全て本当のことなの」

 事故に遭って、長い間眠っていた私。その私を担当して、私が目が覚めた後も色々お世話してくれた先生。その先生がいつになく真剣な顔で私の手を取った。

「大丈夫です、先生。何を聞いても取り乱したりしませんから、どうか、話してください。私はこうして生きて、ちゃんと体が動かせるようになっただけで、もう、十分なんです」
 私は先生の手を握り返し、にっこり笑った。


 意識が戻ってからも暫くの間は、私はからだを動かすこともままならず、頭は霞がかかったようで、記憶もかなりの部分が抜けていた。
 七年の間、この病院でただ眠っていたと、しばらく後に聞かされた。
 私の最期の記憶は何も特別なこともない。普通に会社に行き、仕事をしていたことしか覚えていない。自分がどんな事故に遭ってこうなったのか、全く心当たりはなかった。

 私は自分の身に起こったことをすぐに知りたかったが、体の状態が安定するまではと、今日まで何も聞かされていなかった。私は成人してすぐに全ての身寄りを失い、病室を訪ねてくれる人もいなかったのだ。


「じゃ、お話するけど驚かないでね。実はね、三年前、地球に宇宙人がやって来たの」

「はい?」
 私は固まってしまった。宇宙人?なにそれ?話って、私の事故のことじゃないの?なんで?なんでそんな話をするの?

「それが本当に突然のことで、いきなりタクラマカン砂漠に宇宙船が降り立ったの。世界中でパニックになったわ。それでも、なんとか意思疎通を図ろうとして、いろいろあって」

「あの、先生」
 懸命に説明しようとする目の前の女性に私は声を掛けた。
「それ、本当のことなんでしょうか?」
 
 いきなりこんなことを言われて、たとえ驚くな、全て本当のことだと前置きされていてもとても信じられるわけがない。私は確かめられずにはいられなかった。

「ああ、ごめんなさい。先走ってしまって」
 先生は私が不安な顔をしているのに気付いたのだろう。私に謝ってきた。
「そうよね、いきなりこんなこと言われて、なるほど、そうだったんですか、とかそんなふうになるはずないわよね」

 先生は私の目をじっと見るとあらためて、言った。
「本当のことなの。宇宙人がやって来て、それから世界は随分変わったわ。実際、あなたが長い眠りから覚めることができたのも宇宙人がもたらした技術があったからこそなのよ」

 ああ、それで。
 私は先生がいきなり宇宙人の話をした理由に納得した。
「それでは私は運が良かったんですね。もし、突然、宇宙人が現れてくれなければ、ひょっとしてずっとここで眠ったままだったかもしれないんですよね」

「ええ、そうね。事故に遭ったことを考えなければだけど」
 先生が顔を曇らせて言った。
 確かに。これが不幸中の幸いということなんだろうか。

「それで宇宙人の話なんだけど」
 先生は話を戻した。
「はい?」
「彼らをニーダ星人と呼んでるんだけど、ニーダ星人と地球は正式に交流しているわけじゃないの。地球に来ているのは貿易目当ての商人だけで、彼らは自分たちが持っている技術や製品を地球のものと交換して、それを方々の星々に売りさばいているらしいの」

「地球のお金では価値はないですものね。金とか銀を持って行くのですか?」
 私が聞くと、先生は暗い顔になった。
「ニーダ星人にとって金も銀もそんなに価値のあるものじゃないらしいわ。ニーダ星人が最も欲しがってるのは人間、地球人なの」

「えっ?!」
 私は驚いた。
「人間って。じゃ、奴隷かなにかにするつもりなんですか?」
 
 私の問いに先生は首を振った。
「わからないわ。それは買う方が決めるらしいの。見世物にするのか、奴隷にするのか、何か実験にでも使うのか。ニーダ星人はただ地球人を欲しがっている客に売るだけだそうだから」

「そ、そんなことが許されてるんですか?」
 私は怒りがこみ上げてきた。
「人間を売り買いするなんて、いくら宇宙人の頼みだとしても、そんなこと。周りが反対するはずじゃあ」
 
 先生は私を見て悲しく笑った。
「人間を売って欲しいというニーダ星人の要求に、当然、最初の頃は私たちは拒否したわ。でも、すぐにニーダ星人は甘い言葉をささやいてきたの。曰く、どんな人間でもいいんですよ、と。いまいま死にかけてる老人でも、全身麻痺でどこも動かせない病人でも。彼らなら、老人を若返らせることもできるし、どんな病気でも治せるそうだから」

 その言葉に私はドキッとした。まさか。
「それで、難病で苦しんでいる人たちが自主的に身売りすることがなし崩し的に認められて、さらに、植物状態で寝たきりの人も、特に身寄りがないような人は積極的に宇宙人に売ることが検討されて」

「えっ、じゃ、私、私は」
 声がつかえて言葉が出なかった。
 それを見た先生が静かに首を振った。

「大丈夫。あなたは宇宙人に売られたりしないわ。そういう話はでたけれど、そうはならなかったの」
 私は先生の顔をまじまじと見た。嘘は言ってなさそう。じゃ、なぜ、そんな悲しそうな顔をしてるの?
「では、私はこのままで?」

「ええ、ここを退院したら普通の生活に戻れるわ」
 良かった。とにかく、良かった。あっ、まだ、事故の話を聞いていない。
「あの……」
 私がそう言おうとする前に先生が聞いてきた。

「あなた、オーマイスを覚えてる?」
 突然の質問だった。私はその名前はよく知っている。
「はい、職場の先輩です」
 優しい人だった。色々めんどうみてもらっていて、実は密かに憧れていた。

「それだけ?」
 質問の意味が分からない。
「ええ、そのはずですけど」
「あなたの記憶は事故から大分前の事も欠けてしまっているようね」
 先生がまた悲しく笑った。

「あの、それはどういう……」
「オーマイスとあなたは付き合っていたの。事故はね。彼とあなたがドライブをしていて起こったの。対向車線をはみ出して、トラックにぶつかって」

 衝撃的な言葉に私はしばし呆然とした。
 そ、そんな!私とオーマイス先輩が付き合っていた?そして二人でドライブして事故を起こした?覚えてない!何も何も覚えてない!
 

「あの、それでオーマイス先輩は?」
 先生は苦しげな顔をして、それに答えなかった。
 そうか、私だけが。

 とめどなく涙が流れた。先生は黙って側についていてくれた。
 しばし時が流れ、私が落ち着きを取り戻すと先生が静かに言った。

「オーマイスはあなたが植物状態になったことにすごく責任を感じていて、あなたを元に戻す条件でニーダ星人に自分を売ったの。だからどうか許してね。馬鹿な弟のことは」

 先生はいつしか涙を流していた。私は驚きのあまり何も言えず、ただそこに呆然と座っているだけだった。


終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この記事で ブログ村 第17回 自作小説トーナメント 三位でした。投票ありがとうございました。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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