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マイライフ



 
 夜明けを告げる鳥の声が高らかにこだまする。俺はそれをベッドの中で、半分夢見心地で聞く。

 美しい。相変わらず我が家の雄鶏の声は高く澄み、牧場中に響きわたった。周囲100kmに、誰一人住んでいない。近所迷惑を心配する必要はない。
 
 1分ぐらいか。一鳴きの長さは多分世界一だろう。長鳴鶏として、親父と爺さんが改良を重ねてきた。俺はその誇らしい声を耳にしたまま、もう一眠りを決め込んだ。

 やがて日の出の鶏の声で再び目を覚まし、俺は起きだした。動物たちの世話をしなければ。

 我が農場には種々の動物がいる。犬猫たちを始め、馬、牛、羊、山羊、豚、そして鶏。
 中でもうちの売りは鶏だ。代々、鶏の品種改良に取り組み、数々の賞も受賞している。

 さっきの長鳴鶏だけでなく、尾の長さが10mを越す尾長鶏。そして不思議な文様をからだに浮かせる種々の錦鶏。
 多くのマニアがうちの系統を欲しがり、卵や雛は結構な値段で売れる。こいつらの血が入ったものはまさに金の卵だ。難を言えばそう数が出ないことだろうか。

 それから闘鶏。これも馬鹿にできない。地域によっては莫大な金が動くので、競走馬とまではいかないが、強い鶏を育てれば結構な稼ぎになる。
 爺さんはほうぼう飛び回って、試合をしていたが、親父の代でそれは止めた。裏の連中との付き合いにうんざりしたかららしい。今は闘鶏用のは若鶏だけを売っている。試合には出ていない。

 もちろん、雌鶏たちも優秀だ。ほぼ毎日、良質の卵を産む。うちの農場では、これが一番安定した稼ぎだ。週に一度、町の市場に卸しているが、評判は悪くない。

 肉も契約したレストランに卸している。我が農場産の鶏肉はちょっとしたブランドになっていた。

 そんな訳で農場の経営は順調そのものだったのだが。

 しかし、雌鶏が時を告げると家が滅ぶというように、お袋は農場のことに口出しをしすぎて親父に殺された。そして親父も死んだ。
 そこで俺一人になった後はどうしても手が回らなくなっている。山羊や羊は売り払ってしまうべきだろうか。

 人を雇えばいいのだろうが、やはりうまくいくとは思えない。鶏が先か、卵が先か。この農場に一人で居たからなのか、そういう性格だからわざわざ一人でいたのか今となっては分からないが、俺は人を必要と感じられなかった。

 別に誰と会わなくても喋らなくても、全く不自由を覚えない。農場の種々の動物たちが立てる鳴き声や、風と木が出す音を聞くだけで俺は満足していた。
 とにかく俺には農場が動物たちがいる。一人でいいんだ。

 
 そんな状態でいたのが、悪かったのだろうか。国のあちこちに土地を持っている巨大農場、ニパルタック ファームがうちに目をつけてきた。合併したいそうだ。

 うちの優秀な鶏たちが目当てなのは火を見るより明らかだ。奴らは優秀な血統が欲しいのだ。  俺が一人で農場を切り盛りしているのは経済的に困窮しているからだと思ったのだろう。今ならはした金で売るだろうと。

 名目上は合併だが、実質吸収されるだけだ。十年後には何も残っていまい。
 俺の先祖はいいことを言っている。むしろ鶏口となるも牛後となるなかれ。大きな組織の中に入って下っ端になるよりも、小さな農場であってもトップいるほうがよいと。

 そうだ。鶏の口のほうが牛の肛門よりずっといい。鶏の肛門ならもっといい。特に俺が改良したやつは。

 俺には動物たちがいる。一人で大丈夫。農場は絶対売らないぞ。誰が売るもんか。


終わり


最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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