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百物語




 ”第九十九話”
 ぼそぼそとした男の声が部屋に響いた。
 「へえ、ここまできたよ。よくやるな」
パソコンの画面を眺めながら、ウサキが言った。

今、ウサキの前にあるモニターには動画が映し出されていた。画面には短くなった二本のろうそくが炎を揺らしている。

”あるところに男がいた”
 声が途切れたところで、カチッと音がする。
”男は医者だった”
 カチッ。
”男の務めている病院には悪い噂があった”
 カチッ。
 時刻はすでに午前二時半を回っていた。一人暮らしのウサキの部屋の中で、男の声が静かに続いている。

 広大なネットの片隅に、ある日”百物語”というフリーゲームがアップロードされた。製作者は不明。ホラー系アドベンチャーという触れ込みだった。
 興味を持った幾人かがインストールし、プレイしようとしたが果たせなかった。ゲームをスタートさせるといきなり文字が現れたのだ。

-このゲームは百物語を実行するものです。新月の夜以外、ゲームは起動しません。-

 パソコン内部の時計に頼らず、外部と通信して新月の夜を確認しているという、凝ったしかけがしてあった。。
 ここでほとんどの人間はこのゲームソフトをアンインストールしたが、一部の物好きは実際に新月の夜を待って、ゲームを立ち上げた。すると、スタート時の文字が変わっており、新たなゲームの説明が書かれていた。

-百話終了の後、怪異を起こさせるために、このゲームは、一人、明かりのない部屋でプレイしてください。音楽も禁止です。
 ゲームは最初のろうそくの画面以外は音声のみです。音が途切れたら、リターンキーを押してください。次の音声が再生されます。オートモードはありません。
 ゲームは午後九時から午前三時までの間にプレイしてください。定められた時刻を超えると、ゲームは強制終了します。
 このゲームにセーブ機能はありません。ゲームを中断した場合、次にゲームを再開したときは始めからのプレイとなります。- 

 この無茶な仕様にも負けず、物好きな人間は先に進んだ。
 リターンキーを押すと、画面いっぱいに灯の点いた多数のろうそくが現れた。数えてみると百本ある。そして、”第一話”というぼそぼそとした男の声が聞こえてきた。

 説明のとおり、声はそこで途絶え、一向に何の変化もない。リターンキーを押すと、やっと続きの声が聞こえ出した。
”それは春の夜のことである”

 何人かが懸命にリターンキーを押し、最初の二、三話を聞いたが、どれも以前から知っている話で、まるで怖くはない。これを百話まで続けるのは、かなりハードな条件に思えた。
 画面は案の定、一話が終わるとろうそくの炎がひとつ消えるようになっていたが、それ以外何の変化もない。そして、効果音も音楽も無かった。
 結局、みんな途中で挫折し、最後の百話を聞けた者はいなかった。

 そんな作りになっていたため、このソフトはジョークソフトだろうということで落ち着いた。
 それでも、世の中には物好きで暇な人間がいるものである。ある日、このゲーム”百物語”のプレイを実況放送し、クリアを目指そうとするものが現れたのだ。
 開始はこの次の新月の晩、午後九時スタートということだった。

 半月前から宣伝されていたことで、その情報はウサキの耳にも入り、今、彼も途中で席を外しながらも、夜を徹して、このジョークソフトの実況を生で見ていたのである。

 

”第百話”
 最後から二本目の蝋燭の灯が消えた後、ぼそぼそとした男の声がそう告げた。
「えっ!」
 ウサキは驚きのあまり固まってしまった。
「えっ!何?どういうこと?何が起こった?」
 パソコンの画面を眺めながら、彼はただただうろたえていた。
「これは俺がつくった”百物語”じゃないのか?」

 ウサキは趣味でゲームを作っていたが、ちょっとしたジョークのつもりで、この”百物語”をネットにアップしたのだ。ジョークなのだから当然、クリア条件は馬鹿みたいにしたし、エンディングも馬鹿げたオチにした。百話目は入れなかったのだ。九十九話が終わった時点で、百話まで語ると怪異がおこるからここで止めます、勘弁、勘弁と宣言がなされるはずだったのだが。しかし、そうはならず、今、百話目が始まっていた。

”ある男が百物語のゲームを作った”
 ぼそぼそとした声。ウサキはその言葉に全身が総毛立った。
”ゲームは煩雑で、誰もクリアできなかった”
”しかしそこに、ゲームをクリアする様子を実況放送しようとするものが現れた”
”ゲームを作った男はその様子を一人部屋で見ていた”
”話は九十九話までいき、ゲームを作った男はゲームをプレイしている男の気力に感心した”
 話は今のウサキの状況にそっくりだ。
「なんだ!なんだよう」
”話はついに百話目となった”
”男は驚愕した”
”なぜなら男は最後の百話目をそのゲームに入れた覚えはなかったのだ”

 ウサキは気味悪くなり、動画を止めようとしたが、なぜか体が動かない。その間も話は進んでいった。
”男は動画を見るのをやめようとしたが体が動かない”
”そのうち、部屋の入口から物音がし、足音が近づいてきた”
 
 聞こえる。確かに部屋の入り口からウサキの方に向かって、音が近づいてきていた。
"男はなぜか振り向くことも出来ず、パソコンの画面から目が離せなかった”
”やがて、足音が男の真後ろで止まり、何者かの手が男の首にかかった”

「次はお前だ!」

 実際の声か、パソコンからかわからない音声が部屋にこだました。そしてモニターに映っていたろうそくの灯がふっと消え,画面はただの暗闇となった。



「おーい、ウサキ、いるかー」
 翌日、ウサキの友人、ナカメがウサキの部屋をたずねてきた。ウサキがケータイにも出ないし、メールの返事もなかったからだった。
 実は昨晩の実況放送はナカメの仕業だった。ナカメはウサキがあのゲームを作ったことを知っていたのだ。そこで、驚かしてやろうと、百話目を挿入し、放送をウサキが見るように仕向けたのである。ウサキがどんな反応を示したか、ナカメは一刻も早く知りたくて、わざわざ出向いたのだ。

「おーい、いないのか?」
 不用心にも部屋のドアは開いていた。ナカメは部屋に入り、ウサキを探したが留守なのか、どこにもいなかった。机の上に、蓋が開いたままでスリープ状態になっているパソコンがある。

「昨夜のを見たままになってるのかな?」
 画面を復帰させると炎のともったろうそくが一本、映っていた。
 途端にナカメの体が動かなくなり、急に背後から首に手がかかった。

「次はお前だ!」
 
 
終わり


最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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