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”処刑”の刑

 二人の男が機械が詰まった部屋にいた。そこには多数のモニターが設置されており、そのひとつに頭をすっぽりとヘルメットに覆われ、身体にもいろいろな機材を取り付けられている別の男が映っていた。男は部屋の中をゆっくりと歩いている。

「これでこの男は刑罰を受けているというのかい?」
 モニターを見て、黒髪の男が、そばの金髪の男に聞いた。
「そうだよ。この男はある状況に陥っていると、これらの機械を通して思い込まされているんだ」
 相手の言葉にやや驚き、黒髪の男は聞いた。
「ある状況?それはどういうものなんだい?」
「今見せてあげるよ」
 
 そう言うと金髪の男が手近のスイッチを入れた。その途端、別のモニターに風景が現れた。どこかの砂漠のようだった。岩や石だらけで木も草も見当たらない。夕方なのか、空には雲ひとつないのに、陽の光は弱々しい。そのおかげで暑苦しさは感じなかった。はるか遠くに建物のようなものが見える。
 映像はゆれ、ザクッ、ザクッと乾いた土を踏む音がする。誰かが実際に見ている場面のようだ。
「この男が見ている風景だよ」
 モニターを指し金髪の男が解説した。
「ここは?」
モニターに顔を寄せ黒髪の男が聞いた。
「どこでもない、どこにもない仮想の星さ」
「星?」
「そう、ここは地球じゃない、別の惑星、ということになっている」
「別の惑星って、手近のところでは火星だろうけど、火星でもないんだな」
「ああ、ここは火星より酸素濃度が高く、地球と同じように苦労せずに呼吸できる、という設定だ」
「はあ」
「しかし、水はない。当然、植物も動物もいない」
「そんな惑星が実際にあるわけ無いだろう。どっから酸素を持ってきたんだよ」
「まあきけよ」
金髪の男が説明しだした。

「この状況になっている者はそういった疑問を持つことはない。疑問を持つことは出来ないようにコントロールされてるんだ。それでね。罰として、この星に降ろされたと思っている。以前植民が行われたことがあるため、建物などが残ってはいるが、水がない。死の星にね」
「なら程なくして死んでしまうだろう?人間、水なしじゃ、三日と生きられないんじゃなかったか?」
「そこがミソなんだけど、ほらちょうどいま画面に映っている機械があるだろう。これを使うんだ」
 そう言って金髪の男がモニターを指した。刑を受けている男が見ているという画像に水筒のような形の、銀色の物体が見えた。その場面がかなり長時間続いている。男がその機械をじっと見ているようだ。乾きのせいなのか、荒い呼吸音も聞こえる。

「この星に降ろされたものはこの機械を与えられる。機械の上部にボタンがあるよね。これを押すと水蒸気が集められ、水となって、この脇の口から出てくるようになっているんだ。まあそう思い込まされているだけなんだけど」
「なら、水は問題ないか。でも食料がないんだから、やっぱり飢えて死んじゃうだろう?」
「食料は十分持たされてるし、そこら中に転がっていることになっている。ただし、全て乾燥品で、水で戻さないと食べれない」
「なるほど。じゃ、何も問題ないじゃないか。それでこれが刑罰になるのか?」

「それがなるんだ。実はね」そう言って、金髪の男が相手に顔を向けた。「この、水を集める機械はボタンを押すとある一定の確率で爆発するようになっているのさ。その爆発はそばにいる者を跡形もなく吹っ飛ばす威力で、爆発がおきればボタンを押したものは確実に死んでしまうんだ」
「なるほど!」黒髪の男が納得がいったという顔をした。「実際には爆発はしないけれど、そう思い込まされているなら、水を得るのには命がけ、ということか。かなりきつい罰だな」

「この罰は星新一という小説家の作品の中に書いてある方法でね。作品名が”処刑”というやつだったので、われわれはこれを”処刑”の刑と言ってるんだ」
「う~~ん。こんなことを考えるとは天才だな」

「で、最後はどうなるんだ?」
 黒髪が聞いた。
「最後って、その小説の方かい。それは自分で探して読めよ。ネタバレしちゃ面白く無いだろう」
 金髪が言った。
「いや、この刑罰の方さ」ヘルメットをかぶっている男が映っているモニターを指して、黒髪の男が言う。「実際はこんなふうに部屋をウロウロしているだけなんだから、死なないだろう。爆発もしないんだから、罰則期間が過ぎたら、最後は機械を止めて、全て嘘だったってバラすのかい?」
 それを聞いて、金髪の男は頭を降った。
「いや、この罰では結構な人数が死んでいるんだよ。実は、架空の星の中で飲食しなければ、現実の方でも与えることはしないようになっている。今この男も本当に喉の渇きを覚えているんだよ」
 そう言って、またどこかのスイッチを押した。別のモニターに数字が並んで出てきた。
「現在、体重の3%脱水している。5%まで行けばかなりやばい。動けなくなるだろう。機械のボタンを押すことができなくなったら、確実に死ぬ」
「そうなっても助けないのか?」
 黒髪の男が驚いて聞いた。
「ああ、これは刑罰だからね。爆発するのを恐れて、水を得ることを放棄したのだから、ある意味自殺だし」

「ふ~っ」
 黒髪の男がため息を着いた。モニターを見上げると男が意を決して機械のボタンを押したようだ。水の出口に口をつけているらしく、画面は銀色一色だ。ゴクッ、ゴクッ、と音が聞こえる。多分、ヘルメットにつながれたチューブに水が送り込まれているのだろう。
「ようやく、ボタンを押したか。でも、まだまだ足りないな。この程度の量では、脱水は改善されない。食料を取って、ミネラルも補給しなくちゃ」

 しばらくの休憩の後、男はまた歩き出したようだった。その直後、遠くで爆発音が聞こえた。男は明らかに怯えたようにそちらを眺めた。
「芸が細かいな。別のやつが爆発して死んだ、と思わせるわけか。それではこの刑罰ではほんどが死んでしまうんじゃないのかい?」
「ああ、大体が渇死か、餓死。耐え切れないで崖から飛び降りるものもいる」
「そうしたらどうするんだ?」
「どの程度傷付くかシミュレートして、身体の自由をなくす。死ぬほどの傷を負ったなら、体全体を動かなくさせるだけだ。そのため、やがて渇死する」
「おやおや」
「精神に異常をきたす奴もいる。それも結局、ボタンを押さないので乾きで死ぬ」
「逆のやつはいないのかい?狂ってボタンを押しまくるやつが」
「そういう奴もたまにはいるが、ボタンを押す行為は長続きしない。やはり死んでしまうね」
「ではこの刑罰は死刑と同じなのか?」
「いや、そうじゃない。ちゃんと刑を終えるやつもいる」
「へーっ、刑期がどのくらいなのか知らないが、たいしたもんだ」
「こいつなんかそうだったな」
 そう言って、またどこかのスイッチを押した。モニター画面に別の男が映る。男は気軽に機械のボタンを押している。
「この男は何のためらいもなく、ボタンを押しているんだ。脈拍、呼吸等に何の乱れもない。脱水状態はなし。栄養も行き届いている。観察してみると、なんと風呂にまで入っている。そのぶんの水を機械から出したんだ。もちろん架空の星での話だが」
「すごい度胸だな」
「最もこうなるまでには随分時間がかかったがな。脈拍、呼吸に乱れなくボタンを百回以上押せたら刑期は終わりなんだ」
「おお、それじゃ、この男は今は」
「今は前線で活躍しているはずさ。命知らずの兵士としてね。二度と再び軍法会議にかけられて、こんな刑罰を食うことはないだろう」
 モニターの電源を切り、金髪の男が言った。

終わり
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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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