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医療に関する一考察


 ”医者を本当に信頼することが出来ないのに、しかも医者なしではやっていけないところに人間の大きな悩みがある”    -ゲーテ-

「先生、検査データ、ここに置きます」
 看護師がダムレイ医師のところへ封筒を持ってきた。
「ああ、ありがとう」
 医師はいつもと変わらないようにと意識しながら返事をし、データを受け取った。そして診察室から看護師が去るのを待ち、部屋に誰も居ないのを確認してから封筒の中身を取り出した。そこには検査項目とその値が並んでいる。医師はざっと目を通し、その意味するところが分かり、あおざめた。あまり良くない。
 彼がこれほどまでに動揺したのには訳があった。実は検査用紙の名前は別人になっているが、本当は自分のデータだった。自分で採血し、検査するように送ったのだ。

「これは、ナオキ先生に診てもらった方がいいかもしれない。先生は同じ病院に務める医者の中で、この病気に誰よりも詳しいはずだ。彼なら、医者の見識も十分だ。正直に話して、主治医となってもらおう」
 そう決心した時だった。
「はい、目を覚ましてください」
 そんな声が聞こえ、ダムレイ医師ははっと我に返った。
 
 自分がいる場所は同じ診察室だが、そばには患者が座っていた。顔に見覚えがある。自分が担当している患者だ。
 患者は憂鬱な表情をしながら、医師に言った。
「それではすみませんが、私をそのナオキ先生の患者にしてもらえるよう、取り計ってもらえますか?」 
「はっ?」
 いきなりナオキ医師の名前が出て、彼は面食らった。なぜ?それにこの患者、いつ部屋に入ってきたんだ?
 不思議そうな顔をするダムレイ医師に患者が説明した。
「実は私は催眠術師なんです。失礼とは思いましたが、あなたに無断で術をかけました。私の病状があなた自身のものと錯覚するようにです」
 
「では、さっきの検査結果は。」
 ダムレイ医師はもう一度検査データが書かれた紙を見た。そこには目の前に座っている患者の名前があった。
 
 合点がいった顔をした医師に患者が言った。
「スミマセンね。でも、私自身の命がかかっているものですから。で、あなたが私の病状に対して、一番信頼していらっしゃるナオキ先生に是非、診てもらえるようおねがいします」
 ことここにいたっては患者を説得するのは無理だろう。ダムレイ医師は渋々ナオキ医師へ連絡した。

 病院の廊下をさっきの患者がナオキ医師のところへ急いでいた。
「これでもう六人目だが、次の人こそ大丈夫だろうか。自分が病気にかかったら自分で治す、治せるという自信を持っている医者はそうはいないのだろうか」
 深い溜息とともに患者はそうつぶやいた。

 後日、くだんの患者は希望する医師に巡り会ったが、既に手遅れとなっていた。

終わり

           
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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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