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夏祭り


ヒューン。
 ドン。
 パン、パパン、パン。
 夜空に色とりどりの線が描かれる。大勢の人々の歓声が聞こえてきた。今、河原では次々と花火が打ち上げられていた。地域の夏祭り、メインイベントの花火大会だ。
「ホイ、次だぞ」
 先輩花火師が俺にそう告げた。
「いよいよか」
 俺は期待に胸を膨らませて、花火を打ち上げる発射筒を見た。

 俺の祖父は花火師だった。
 「俺は名人だ。誰も作れない花火を作った」というのが口癖で、実際、ほかの花火職人からも尊敬をされていた。
 しかし、祖父オリジナルの花火、というのを見たという人はいなかった。そのため見栄でデタラメを言ってたのだろう、というのが大方の意見だった。
 ところが祖父が病床に着き、死ぬ間際になった時、俺を枕元に呼び、自分が編み出した秘伝の花火の作り方をノートに書いたこと、そしてそのノートを保管した場所を俺に打ち明けたのだ。
 その後まもなく祖父は死んだ。教えられたところを探すと、ちゃんとノートがあり、そこに祖父秘伝の花火の製造法が書かれていた。誰も使わない、特殊な薬品が使用されている。確かに祖父のオリジナルの花火だ。

 幼い頃両親が死に、祖父母に育てられた俺は、祖父の跡を継ぎ、花火師になっていた。これを祖父の遺言だと思い、祖父の霊を慰める意味も込めて、俺はその秘伝の花火をひとりで作り上げた。
 そして今日、地元の夏祭りの花火大会で、俺は自らスポンサーになり、その花火を打ち上げることにした。祖父秘伝の花火。どのような花火なのだろう。俺はワクワクして、花火に点火されるのを待った。

”ヒューン”
打ち上げの独特の音とともに、花火玉は夜空に飛び上がり、最高点まで達すると大輪の花を咲かせた。わずかに遅れて”パン”と音がする。
 ほぼ完全な球。発色のタイミングもきっちりと揃って申し分のない出来だ。
 しかし、祖父秘伝の花火はよく見かけるものとなんら変わりはない。あの特殊な薬品はどこに作用しているのか。そう疑問に思った時だった。突然、目の前にまだしっかりしていたころの祖母が現れた。

「ヒロちゃん、さあ、夏祭りに行きましょう」
 祖母は浴衣を着ていて、俺に手を差し出した。俺はその手をしっかり握って、初めて行く夏祭りにワクワクしていた。そう、これは俺が両親を失くし、祖父母の家に引き取られて初めて行った夏祭りの思い出だ。懐かしい思いが胸いっぱいに湧いてくる。
 綿アメ、金魚すくい、射的。大勢の人々で賑わう屋台。遠くで聞こえる笛と太鼓。

「おお、来たかヒロ」
 河原に祖父が居た。特別に花火の打ち上げる現場を見せてくれる約束だった。次々と大きな音を立てて花火が上がる。その轟音に少し恐怖を感じ、祖父のそばに擦り寄った。
 「ヒロ。次上がる花火をようく見とけ。じっちゃんが考えて、新しく作ったやつだ。これをお前のお父さんとお母さんがいるうちに作っていたらなあ」
 そう祖父は言って寂しく笑った。俺は祖父が言っている意味がよく分からず、ただ、空に上がる花火を待っていた。

 はっと我に返ると、そこは元の河原で、どうやら俺は結構な時間、呆然と突っ立ていたらしい。しかし、それはどうも俺だけではなかったようだ。先輩花火師が俺の方に寄って来て言った。

「俺、この花火見たことあるよ。まだ、子供の頃だったけど、確かにこの花火だ。そうか、あれがお前の爺さんの作品だったんだ。なんで今まで忘れてたんだろ。こんな強烈な奴なのに」
 先輩はやや興奮した様子でそう切り出し、子供だった頃の当時の夏祭りの思い出がありありと浮かんできた、と言った。
 川向うの観客の間でもざわめきが起こっていた。どうやら、過去にこの花火を見た人はその時の記憶がはっきりと浮かぶようになっているらしい。これが祖父オリジナルの花火なのだ。

「しかし、この花火、そうちょくちょく上げる訳にはいかんだろう。主催者が承知しないと思うな」
 先輩花火師がそう言う。俺もそう思う。花火の光、音。それは強く心に刻まれるのだろうが、記憶に一番つながっているのは臭いだという。辺りに立ち込めた強烈な悪臭はそれをよく証明していた。
 祖父は誰も作れない花火を作ったのではなく、誰もあえて作ろうとしない花火を作ったのではないだろうか。

終わり
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ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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