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夢の途中

アルファ=ケンタウリ探査宇宙船のコールドスリープ室。一人の男がブザー音で目を覚ました。気がかりな夢の途中だったような気がしたが、男は思い出せなかった。
「着いたか」
 専用のベッドから起き上がり、あたりの様子を伺った。しかし何事も起こらない。本来ならコンピュータが何らかの指示を伝えるはずなのだが、妙に静かだ。
「おーい、目的地に着いたのか?応答しろ」
 彼は天井を向って呼びかけた。しかしなんの反応もない。
 自分の左右に二つづつ並んでいた同じ型のベッドには誰一人寝てはいなかった。部屋にもいない。皆既に起き出しているらしい。
「えっ、まさか!」
 男は驚いてもう一度部屋を確認した。しかし結果は同じだ。
「俺が居残り当番なのか?」
 男は今の状況が信じられず、呆然とした。

 男が言った居残り当番とは、万が一異星人とのコンタクトがあった場合、一人だけコールドスリープから目を覚まさせないでおく人間のことである。それはランダムに決められる。当たった者はそういう運命なのだ。
 コンタクトが平和裏に終われば、当番は目覚めることはない。目覚めた者たちが定期的に信号を送ってくるなら眠ったままなのだ。しかし信号が途切れてしまった場合、当番は目を覚ます。そしてある任務を遂行しなくてはならない。
 その任務とは船の爆破。敵性異星人に最も知られてならないのは地球の位置だ。船が乗っ取られればそれが割り出される危険性が高い。データ消去だけでは未知の科学力を持つであろう者が相手では心もとない。すべてを徹底的に破壊するに越したことはないのだ。

 この任務を聞いた時、心配しすぎだろう、と男は思った。まず異星人とのコンタクトなどありえない。あったとしても敵対的かどうかは直ぐに判断がつくだろうか。相手だって、こっちのことは知らないはずなのだ。まずお互いが様子を探る、というのが普通の反応だろう。敵対するかはコンタクトのずっと後に決められるに違いない。
 また相手が友好的だった場合、一人だけ寝たままでのけ者というのも納得いかない。コールドスリープの入眠と覚醒が人体にかなり危険を伴うにしてもだ。
 そしてもう一つ、コールドスリープ室がこの船の最も最深部にあり、最もセキュリティを高めてあるとしても、相手が高度の科学力を持っているなら、それも意味を成さないかも知れないではないか。直ぐに居残り当番もやられてしまう可能性がある。

 それらの理由で男はこのくだらない任務を考えたやつを馬鹿にしていた。どっかのお偉いさんが思いつきで作ったとしか思えなかった。しかし、実際、それは起こってしまったらしい。男は軽いめまいを感じながら船の起爆装置へと向かった。それはこの部屋の隅にしっかりと備え付けてある。男はモニターが示すとおりに自分のIDやらパスワード、網膜、指紋等を機械に認識させ、ついに最後の自爆命令を出すことになった。

「本当にこれでいいのか?今からでも船の様子を調べて、何かの間違いじゃないのか確かめたほうがいいのではないのだろうか」
「しかし、もたもたしているうちにここも破られて、敵性異星人に捕まってしまったら」
「でも、全くの勘違いで船を爆破させたら笑い事で済まない。この探査船は莫大な経費と時間がかかっているんだ」
「何より、自爆させればこの俺もあっと言う間に死ぬ。それでいいのか」

 男はブルブルと震えだした。吐き気もこみ上げてきた。それでもよく訓練されていたのだろう。やがて船に自爆命令を下した。

「はい、お疲れ様でした。これはコールドスリープ中に行われる夢の中の模擬訓練です」
 頭の中でコンピュータの声が聞こえてきた。
「この訓練はこの船のメンバー、全員が受けなければならないものです。訓練の性質上、抜き打ちとなりましたことをご了承ください。あなたはやや遅れながらも自爆命令を実行しました。評価Aとなります。それでは再びコールドスリープを継続いたします。おやすみなさい」

 男は未だベッドに眠ったままだったのだ。
「そうか、夢だったのか」
 ほっとして眠りに落ちようとした瞬間、嫌な考えが浮かんだ。宇宙船に乗っている、それも夢なのではないか、と。自分はただの平凡な人間、もしくはもっとひどい社会の落伍者なのではないのだろうか。自分が何者なのか、必死に思い出そうとしてみたが強い睡魔が男を襲い、その意識は途切れてしまった。

終わり


 
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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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