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ツアー 不謹慎な話?

 大勢の人が集まったイベント会場に場内アナウンスが流れた。
「皆様、長らくお待たせいたしました。先程、実行委員会の方から、後数分以内にイベントが始まるだろうという連絡がありました」
 
 アナウンスの言語は現地語のみであったが、自動翻訳機が貸し出されており、放送の内容が理解出来ない人は皆無だった。そのため、放送が流れると同時に、会場にいた大勢の人々は歓声を上げた。確実と言われながらも、空振りということもないとは言い切れないショーである。委員会が後数分と言い切ったのだから、味わうことが出来るのは確実となったのだ。

「ヤッター、このツアーに参加して正解だったね」
 どこかで若い女の声が聞こえてきた。
「私ずっとステーション育ちだったから、今からもうドキドキ」
「俺、地元が月なんだけどあそこのはしょぼいんだ」
「ヴァーチャルでは何回も経験してるんだけど、リアルは初めて」
 そんな声が方々から上がった。

「皆様、くどいようですが、この会場は絶対に安全でございます。けして、取り乱し、パニックなどにならぬようお願いします。もし、耐え切れないと思われた方は、事前に説明させていただいたとおり、前もってお渡しした装置のボタンを押してください。直ぐに平常になるようになっております。どうか、慌てずに、このイベントをお楽しみください」
 
 アナウンスがそう説明すると間もなく、会場の四方から警報が鳴り出した。
「揺れが来ます、後2秒で揺れが来ます。揺れが……」
 甲高い機械の音声が流れるとともに会場に激しい縦揺れが生じた。
「うおー」
「きたー」
「きゃー」
 
 会場の人々は一斉に叫び声を上げたが、その声に真の恐怖の色は含まれていない。アトラクション会場で聞く声と同じ類のものだった。
 間もなく更に巨大な横揺れが会場を揺るがし、地鳴りのような音が響いてきた。会場の天井に吊り下げられていた様々なディスプレイが振り子のように揺れ、遠くでは物が落ち、壊れる音が聞こえた。
 
 揺れはそうそう収まらず、2~3分は続いている。人々は立っていることが出来ず、次々としゃがんだりお尻を着いたり、親しい者と手を握り合ったりした。中にはどうにも我慢できなくなったのか、ボタンを押して自分が立っている場所の免震装置を作動させた者もいた。

 やっと揺れが収まり、建物の騒音が途切れると人々は一様にため息を漏らし、その後歓声を上げた。
「すげー!」
「すごい、すごい」
「これが地震かーっ!」
「こんなの初めて」

「皆さん、直ぐにまた余震が来ることがあります。気を緩めぬようお願いします」
アナウンスが言っているそばから、また会場が揺れだした。さっき程ではないが、それでも相当の揺れである。
「うおー、またきたー」
「きゃー、今度もすごいー」

 再び前と似たようなことが繰り返され、人々は興奮の絶頂に包まれた。
 その最中、また放送があった。
「ただいま、委員会から連絡が入りました。予想通り、海底が二十数メートル程、数百キロに渡って隆起したそうです。これにより、最低でも二十メートルの高さの津波が起こると思われます。それでは皆様、それぞれ各自お選びいただいたコースに従い、津波見物にお出かけください」

「おおーっ」
 人々は驚愕とうれしさの混じった声を上げた。予想された最大の結果が見れるらしい。
「津波の到達時刻は早い所で十分程と予想されますが、この会場近くの海岸への到達予想時刻は、三十分後と十分時間がございます。どうか慌てずに落ち着いて移動をお願いいたします。なお、余震はまだ何度も起こると思われますので、ご注意をお願いします」

 声に促され、人々は会場を出て、各自目的の乗り物の発着場へと向かった。
 外は五月の朝、少し曇ってはいるが、見物には申し分のない天候だった。
 もっとも急がなければならないのは波乗りコースを体験する人達で、大急ぎで巨大な飛行艇へ乗り込んだ。海に浮かんで巨大な波を船で越えることを体験するのだ。
 
 浮遊艇で空から見物するコースを選んだ人々は、山が海に迫っている地域と、平野部の地域に別れた。山勝ちの地域では更に高くなる波が見物できるし、平野ではどこまでも内部に広がって行く波が見れる。
 
 さらに地上に降り立ち、間近に津波を味わうコースもある。一応、前回には波が届かなかった場所ではあるが、絶対大丈夫という保証はない。少し勇気のいるコースだ。ただ、もし危なくなったら直ぐに浮遊艇に引き上げてもらえるのではあるが。
 
 海の沖合で白波がたったかと思うと、それはどんどん近付いてきて、海岸部に到達した。
「どうやら、第一波のようです。この波はそれほどの威力はございません」
 どこかでアナウンスがそう説明していた。

 しばらくすると海は黒い不気味な色になり水面がどんどん盛り上がってきた。そして濁流となって陸に押し寄せ、一帯の木々をなぎ倒し、どんどん奥へと流れて言った。

「おーっ」
「あーっ」
「みてみて、あそこ」

 巨大な木々が簡単に倒れ、根こそぎ流されていくさまを、人々は言葉少なに眺めていた。この時のために再現されていた昔の住宅が流されたときは、
「昔はこんなふうになっちゃたんだね」と口々に語り合った。

 水は絶え間なく海から押し寄せ、そう簡単に引くものではなかった。その間にもかなり大きな余震が続いていた。数時間に渡るツアーもやがて日が落ちてきて、イベントはお開きということとなった。

 その夜、カップルが話をしていた。
「こんなことが千年前にも起こったんだね」
「本当、今でもその当時の映像を見ることができるけど、今みたいに地下に住んでたわけでもなかったし、地震も津波も全然予測が出来なかったそうじゃない。それじゃ、だめよね」
「相当の人が亡くなって、建造物の被害もだいぶあったらしい。何でも原子力発電所が放射能漏れまで起こしたとか」
「当時の人は大変だったでしょうね」

「まあ、でも、モノは考えようかも。そのおかげで地震の研究はこの国ではものすごく進んだんだそうだ。
 陸地はもとより、海底の地下にも何万個もの圧力センサーが埋め込まれているらしい。そのデータを解析しているお陰で、今では地震の発生予測の的中率はほぼ100%だって。こんな地域は宇宙でここだけだ。
 そのうえやたら地震が多いので、大地震は今回のように観光資源になっている。今日のツアーの客見たかい。タイタンから来ていたやつもいたぜ。相当費用が掛かっただろうに」
「私たちも人のことは言えないでしょう。火星から来ている物好きはそんなに多くないわ」

「確かに。でも千年に一度のイベントだよ。見逃すのは惜しいだろ」
「では、千年前に被害にあった人々と、その後の地震予知の研究に携わった人達の苦労、そして、今回のツアーに乾杯」


終り

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この記事で ブログ村 未来はこうなるトーナメント 9位でした。投票ありがとうございました。


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Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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