コンテントヘッダー

初めてご訪問された方へ



 いらっしゃいませ。
このブログにはしろうとが趣味で書いた創作ショートショートが載せてあります。

 

続きを読む

スポンサーサイト
このページのトップへ
コンテントヘッダー

喫茶去


 あれは私が中学一年生の時だった。
 
 夜、居間でテレビを見ているとテーブルに置いてあった母の携帯が鳴った。メールが届いたようだった。
 母はちょうどお風呂に入っていたので、私は何の気なしに、携帯を手に取り覗いてみると、父からのメールだった。

 そこで私は、何の用事か、急ぎならドア越しにでも母に伝えようと思い、中身を見た。
 すると、そこにはこう書かれていた。
「紅茶を飲みませんか?」

 は?なにこれ?紅茶?
 多分、探せばどこかにティーバッグはあるだろうけど、我が家ではめったに紅茶は飲まない。普段はコーヒー、たまに日本茶だ。

 それに父が母にこんな丁寧な言葉を使うのを聞いたことが無い。多分、母に言うとすれば、「紅茶飲まないか?」だと思うんだけど。

 私は強い違和感を覚え、風呂から上がった母に、「お母さんとお父さんって二人で紅茶を飲んだりしてるの?」と、たずねた。
 母は何のことか分からないような顔をしたので、断りもなくメールを見たことを詫びるとともに、父からのメールを見せた。

「あら、何のことかしら?」
 母は本当に何のことか分からないようで、
「お父さん、誰かと間違ってメールしてきたんじゃない」と、
 おっとりとした顔で、そう言った。

 そうか、間違いメールか!
 なら、うちでは飲まない紅茶のことを書いてるのも、丁寧な言葉づかいも納得がいく。でも、そうだとしたら?

「間違いって、お父さん、こんな文面、誰にメールするの?変だよ。
 ねえ、お母さん。ひょっとして、お父さん、誰かと浮気してるんじゃない?毎晩帰ってくるの、ずっと遅いし」

 それを聞き、母は笑いだした。
「お父さんに限ってそんなこと絶対ないわ。あなたの考えすぎよ」と、てんで相手にしない。母は父のことを根っから信用しているようだった。でも、私はそうは思えなかった。どう考えてもこのメールは怪しい。

 それから暫くの間、私は父の携帯を盗み見ることに専念した。
 父は仕事の関係上、常に携帯をそばにおいていたので、チャンスは父が風呂に入っているときしかなく、しかもロックがかかっていて、4桁の暗証番号を解くのにかなりの時間を要した。

 それでも努力は実り、ロックの解除に成功し、父のメールを覗いてみると……。

 父が浮気していたというのは誤解だった。

 今では2児の母親である私は、我が家の伝統に則り、あれは暗号で呼んでいる。
 
 今日、夫から「ワインを飲みませんか」と、メールが届いた。
 私は「もちろん」と返事を出した。

終わり

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

このページのトップへ
コンテントヘッダー

名探偵の見解




「君は本当のところ、どう思ってるんだい?」
 探偵にその友人が尋ねた。
「遠慮せずに、君の正直な考えを聞かせてくれないだろうか?」

 それを聞き、探偵は軽くため息を付いた。
「君がどうしても知りたいというのなら、僕が今回の件で考えていること話してもいいんだが……。本当に聞きたいかい?」

「ぜひ、聞かせてくれ」
 友人はうなずいた。

 友人の決意を見て取り、探偵が言った。
「今回、君はずっと原因を探していたね。どうして?なぜ?ってね。
 その気持は分かるけれど、でも、僕から言わせてもらえば、その問い自体、不毛な行為だったと思うんだ」

「どうしてこうなってしまったのか、考えちゃ駄目なのか?」
 友人は驚いて反論した。
 それを聞き、探偵は即座に否定した。

「いや、あらゆることは因果に支配されているから、あることが起こった原因は必ずあるのだろうけど、相手が家事や育児を一切手伝わず、ろくに稼ぎもせず、自分を冷たくあしらい、あるいは暴力を振るったとしても、ほとんどの人は不倫に走ったりはしない。離婚は考えるだろうけど。
 君の奥さんが間男を作ったのは、君のせいではない。君が結婚生活で奥さんに対してしたことを悔やんでいるのは的はずれだと思う。実際、君は良き夫で良き父親だった。僕が断言するよ」

「じゃあ、どうして」
「それは君の奥さんがそういう人だったからだよ。多分、君が相手でなくても、同じような状況になれば、やっぱり不倫したと僕は思うね」

「つまり、僕に見る目がなかった?」
 探偵はかぶりを振った。
「いいや、それ以前の話じゃないかな。君は君の奥さんと一緒になる時、そういう目で見たことなど一度もなかったろう?結婚したらよその男に目もくれないでいてくれるだろうか、とか考えたこともなかったはずだ。
 二人の馴れ初めは僕も知っているが、君が一目ボレして、押しに押してつきあい始めたんだよね。つまり、君の奥さんは美人であり、押しに弱いんだ。自分から誰かを好きになることはなくて、好意を示してきた人を自分も好きになる、そういう心理が強いのだろう。間男もだいぶ強引にアプローチを掛けてたらしいから」

「妻はもともと、浮気をする人だったということか?ぼくがどう振る舞おうと?」
「言い寄ってくる男が現れればね」

「では、しょうが無いことだったということなのか?」
「そういうことになるのかな。君たちが結婚したのがある意味間違いだったのさ」

「じゃあ、間男が死んだのもしょうが無いことだよな。妻を寝取られても、ほとんどの人は間男を殺すようなことはしない。でも、どうしても許せなくて、自分に疑いがかからぬよう、計画的に間男を殺害してしまうような、そんな人間もいる。そして、多分、それを見抜いてる長年の友人を手にかけてしまう者も」

 友人が立ち上がり、探偵の方に近づいた。
「確かに、そういう人を友人にしてしまう者もいるだろうけど、探偵は違うんだ。探偵は誰一人信用していない。たとえ友人でも。警部!」

 隣室に控えていた警部が現れ、友人は連行されて行った。

終わり


テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

このページのトップへ
コンテントヘッダー

裏切り



「どうしたの?」
 沈んだ顔をしている彼女に彼が聞いた。

「実はクロが……」
 うつむき、ボソリと答える。クロとは彼女が飼っている猫だ。

「クロ?そういえば見当たらないけど……。まさか?ひょっとして……」
 驚く彼に、彼女はかぶりを振った。
「大丈夫、死んではいないわ。ただ……」

「ただ?ただ、どうしたの?」
 なかなか話さない彼女に、彼は多少苛立ちながら、またたずねた。
 そこでやっと、決心したように彼女は事情を説明し始めた。

「言ったとは思うけど、実はこの前、実家に行く用事ができたの、1週間。クロも一緒に実家に連れて行ってやりたかったんだけど、向こうには猫アレルギーの甥がいて、ちょっと無理だったの。
 そこで、以前から親しくしてもらっていた、ご近所の猫好きなおばさんに預かってもらうことにしたのよ。おばさん、喜んで引き受けてくれて、私もホッとしたんだけど、実家から帰ってきてみたら、クロ、私のことすっかり忘れていたの」

 そこまで聞き、彼氏は笑った。
「なあんだ、そんなことか。まあ、猫なんだもの、しょうがないよ。どうせすぐ思い出したんだろう?君のこと」

 それに対し、彼女は悲しそうにかぶりを振った。
「それが全然。お家に帰ろうって抱き上げようとしたら、歯をむき出して威嚇された」
「それはちょっと、ひどいね」
 彼が同情して言った。

「それでもなんとか、捕まえて、バスケットに入れて、ここに戻ってきたんだけれど、なかなか警戒心を解いてくれなくて、少ししたら、ちょっとした隙きに居なくなってしまって、案の定、おばさんのところに戻っていた。
 それで、迎えに行って、また逃げられて、またおばさんのところに迎えに行ってて、三回繰り返して……。四回目に、おばさんに引き取ってもらうことにしたの。クロ、どう見ても、私といる時よりおばさんのところにいる時のほうが幸せそうなんだもの」

 そこで彼女は黙ってしまった。彼氏も掛ける言葉が見つからず、ただ、彼女の方に手をおいた。
「クロは最初、私が見つけた時は、本当にガリガリで、毛も生えそろってなくて、病気もあって、お医者さんに連れて行ったし、ごはんやベッドだって、何がいいのか、色々考えて、やっと、どこから見ても立派な、毛並みのいい姿になったと思ったのに、それが……」

「気を落とさないで」
 彼氏が言った。
「辛いことだとは思うけど……」

「そう、とっても辛かった」
 彼女が言った。
「だから、あなたとはもうこれっきりにします。今度のことで、愛してるものに裏切られることの痛みが、あなたの奥さんの気持ちが、しみじみ分かったの。もう、連絡もしないでください。さようなら」


「そういうわけですか」
 警官が聞いた。
「ええ、それで彼女の気持ちをなんとか取り戻そうとして」
 彼氏が答えた。

「でも、この家の住人からうかがった話では、問題の猫は、飼い主の方から、ぜひ貰ってくれと言われたもののようで、一度も、預かったとか、飼い主のもとから逃げ出してきたなどということはなかったそうですよ。
 多分、あなたは騙されたのだと思いますが、猫が目的とはいえ、他所の家に侵入したのですから、逮捕させてもらいます」
 警官はそう言って、彼氏を連行した。

終わり

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

このページのトップへ
コンテントヘッダー

お食事会



「どうかなさったんですか?課長」
 昼休み、何度目かの深い溜め息をついた上司に対し、私はたずねた。

「えっ?いや、別に?」
 予想通りの答えが返ってきたが、私はひるまずに押した。
「でも、今朝から何か、ご様子が変ですが?お休みに何かあったんですか?」

 今は、特に差し迫った仕事も抱えてはおらず、課長が急に意気消沈した原因があるとすれば、週末、家庭で何か起こったとしか考えられない。
「良かったら、お話ししてくださいませんか?私でも何かお役に立てるかも」

 課長は私の顔をしばらくじっと見て、それから、意を決したように言った。
「そうだね。ここは若い女性の意見を聞いてみたほうがいいかもしれない。
 実は息子の結婚のことなんだけど……」

「ご結婚?!課長の息子さんが?それはおめでとうございます」
 私は頭を下げた。
 課長はありがとうと返したが、浮かぬ顔で続けた。

「息子と相手のお嬢さんは大学生の頃からの付き合いで、交際期間はもうかなり長いらしい。それで、いよいよ、結婚しようという話に二人でなって、そこで、両方の親の顔合わせをするべく、息子たちが向こうのご両親と私たち夫婦を招いてくれて、昨日食事会をしたんだ」

「それは素敵なですね」
 私は言った。

「うん、とても良かった。お店は洗練されて、落ち着いた感じだったし、料理も申し分なかった。
 僕は初めて会ったんだけど、相手のお嬢さんもご両親も、見るからにいい人そうで、息子にはもったいないと感じたよ。
 それでかなあ。急に罪悪感が生まれてね。黙っていられなくなったんだ。我が家の遺伝のことを」

 ”遺伝?!”
 私は一瞬息を呑んだ。課長の家系には何か悪い病が伝わっているのだろうか?だとしたら重い話だ。

 私が掛ける言葉を探していると、課長が話を続けた。
「我が家ではそれに誰一人免れたものはいなくてね。そして、残念なことに、妻の方もその要素を持っていたんだ」

 課長が悲しそうな顔をした。大変そうだ。
 私が黙っていると、課長は頭に手を掛けた。
 
「今まで君たちにも隠していたけれど、実は僕のこの髪はかつらだったんだよ。一族、みんな、若くしてこうなっているんだ」
 課長はかつらを取って頭を見せた。
 
 は?遺伝ってそれ?つまりハゲ?
 しかも課長、今の今までみんなにバレてないと思っていたわけ?うっそ~!
 あんないかにもかつらです、っていう姿、分からないほうがおかしいと思うんですけど。

 私が引いているのが分からないのか、課長は続けた。
「食事会でもこうやって相手に頭を見せて、それでも息子と結婚してくれるかどうか聞いたんだ。そしたら、はっきり返事はもらえなくてね。その晩、息子に電話で怒られたよ。余計なことはするなって。
 
 で、どうだろう?今時の若い娘さんとしては、黙っていてもらってたほうが良かったんだろうか?正直に話したことで、好感をもってくれたりしないのかな?」

「えっ?え~と~っ、それは……」

 さて、なんて答える?
 相手の人は課長と初めて会ったんだろうけど、多分、一発でかつらだとわかったはず。それをカミングアウトされ、伴侶も将来そうなると告げられて……。

 しかし、私は息子さんの相手ではない。課長とは当分うまくやっていきたい。だとすれば……。

「相手のお嬢さんのことはわかりませんが、私だったら、課長のそんな態度に好感を持ったと思います。それにしても、課長、かつらだったんですね。全然気づきませんでした」

 相手のお嬢さんのことを少し気の毒に思いながら、私は課長に笑顔で答えた。

終わり

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

このページのトップへ
このページのトップへ
プロフィール

火消茶腕

Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR