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 いらっしゃいませ。
このブログにはしろうとが趣味で書いた創作ショートショートが載せてあります。

 

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体質




「 思えば、最初は、中学生の頃に見たサッカーワールドカップだと思うんだけど」
 私の話を、モニター画面を見ながら聞いていた夫が、振り向いて言った。
「テレビ画面の中で繰り広げられる、選手たちのパフォーマンスにとても魅了されてねえ。毎日、夢中になって見たっけ」

  夫は少し遠い目をした。
「それからは国内や海外のサッカーの試合だけで飽き足らなくなって、野球、バスケット、バレー、マラソン、テニス…… 、放映されるあらゆるスポーツを見始めたんだ」

 それは私も知っている。夫はしょっちゅうテレビにかじりついているが、見るのは決まってスポーツ中継で、ドラマやニュースなど他の番組には興味がないようだった。

「実はこの頃はスポーツだけじゃなく、将棋とかゲームとかの中継もよく見ているんだ」

 そういえば、確かに夫が夢中になって観ているのは、スポーツだけではなくなっていた。
 しかし、この話が、今この場で何の意味があるのだろう。私はよくわからなかった。

「でもね、僕は運動が得意じゃないから、そのスポーツのルールや戦術には詳しいけど、実際やってみたことはほとんどないんだ」

 夫の体はひょろひょろで、確かにスポーツが得意そうではない。学生時代は文化系のクラブに所属していたらしい。

「だからといって、じゃあ体を使わない方ならいいか、というわけではなくて、将棋とか囲碁とかテレビゲームなんかも少しはやるけど、どれもいまいちで、全然強くなれないし、得意なものはひとつもない」

 結構楽しそうに色々やっていると思ったのに、そうなんだ。

「それでね。言いたいことは、つまり、僕はやるより見る専門なんだよ。実際そのほうが楽しいし。そういう体質なんだね」

 え~と、それはつまり……。

 さっきからモニターに流れているのはいつのまにか撮られていた私と浮気相手との秘め事の動画だ。今は首を戻し、それを真剣に見ている夫。
 私はそれを交互に眺めながら、次に何を言えばいいのか分からず、固まってしまっていた。

終わり

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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誤解



「君のお姉さんって A さんの彼女だったの?」
 彼女から兄弟の話を聞き、俺は驚いて言った。

「あっ、やっぱり知ってる? Aさん。同じ会社だから、そうじゃないかな、とは思ってたんだけど」
 彼女が言った。

「まあ、知っているといえば知っているけど、それほど親しいわけじゃないよ。部署が違うので、顔見知りって程度かな」
 俺は答えた。

「そうなんだ。でも、世の中って狭いよね」
 彼女はごく普通に言った。
 あまり辛そうには見えなかったが、それでも俺は一応謝った。

「ごめんよ、嫌なことを思い出させて」
 それを聞き、彼女が意外な顔をした。

「何?どういうこと?」

「いや、だって……」
 俺は躊躇しながら言った。
「君のお姉さんは亡くなっているんだろう?」

「はあ~?」
 彼女はなにそれという顔をした。
「うちの姉はピンピンしてるけど」

「えっ、違うの?え~っ! だったらあれはどういうことだったんだ?」
 俺は訳が分からず、そう口走った。

 あれは確か去年の今頃のこと。A がえらく落ち込んでいる様子で、同僚たちがそれを慰めているような場面に出会ったことがあるのだ。

 聞くともなしに聞こえたその内容は、 A の恋人が事故に遭い、病院に駆けつけたが、恋人は変わり果てた姿になっていた、ということだった。

 とすれば、考えられるのは、死んだAの恋人は彼女の姉ではない別人だったということだろうか?

 俺がその話を彼女にすると、彼女はしばらく考えた後に言った。
「それ多分、姉のことだと思う。確かに姉は去年の今頃、車に跳ねられて入院したから」
 
 それを聞き、俺は尋ねた。
「でもお姉さんは入院はしててもピンピンしてたんだよね? あの時の A の様子はとてもそんなふうには見えなかったんだがなあ」

「いや、入院した直後は意識不明の重体で、 正直心配はしたんだよ。 もう目を覚まさないんじゃないかって。でも、3日ほどで意識は戻ったんだけれどね」

「なるほど、それで A はあんな風に意気消沈してたのか」
 俺は納得した。

「ん~、ちょっと違うかも」
 彼女が言った。
「違うって?」
 俺は尋ねた。

「姉が入院してる間に、二人は別れちゃったのね。実は姉の化粧スキルってものすごいの。はっきり言って、素顔は全く別人。そして A さんは多分、姉が入院するまで、姉の素顔を見たことがなかったんだと思う」

「はあ~? じゃあ変わり果てた姿って言うのは………」
「姉の化粧を落とした姿のことなんだろうねえ」

「え~っ!それはちょっとひどいんじゃない」
 俺は A に対して怒りを感じた。いくら化粧した顔と素顔のギャップがあったとしても、相手が入院して弱っているのに、別れ話を切り出すなんて。

 俺が怒るのを見て、彼女が言った。
「あなたは優しいのね。そんなあなただからこそ打ち明けるんだけど、実は姉の化粧のテクニック、私全部教わっているの。だから多分、私がすっぴんの時に会っても、あなたは私だってわかんないんじゃないかなあ」

 彼女がニコニコと笑った。
 
 確かにまだ付き合いは浅く、彼女の化粧を落とした姿を見たことはない。
 彼女は俺にはとても美人に見える。
 俺は試されている?

 いやいや、確かに顔は好みだけれど、それだけで好きになったわけではない……はず。
 顔なんて所詮皮一枚の話。美人は三日で飽きるとも言うし。
 でも、素顔を見たとき全く別人だったら、驚きを隠せないでいられるだろうか?それに彼女が気づいて、傷つけてしまったりしたら……。

 俺は覚悟を決めて彼女に言った。
「もし君が入院したら、僕はお見舞いには行かないかもしれないけれど、それでよかったら付き合ってくれない?」

 彼女の答えは、保留ということだった。
 

終わり

 

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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イワナガヒメ



「コノハナサクヤヒメの話って、ちょっとおかしいよね?」
 
 富士の浅間大社がテレビに出てきたのを見て、相手が言った。
 コノハナサクヤヒメは日本神話に出てくる女神で、富士山本宮浅間大社の主神である。
 私は大学でそのあたりのことを勉強していたので、相手は話題にしてきたのだろう。

「えっ?どこかおかしいですか?」
 私は何の気なしに応えた。
 
「うん、とても腑に落ちないんだよね、私には。コノハナサクヤヒメの嫁入りの話は」
 私を見つめて、やや熱を帯びた調子で言う。

「嫁入りというと、婿のニニギがコノハナサクヤヒメだけを望んだのに、義父が姉のイワナガヒメも一緒に嫁に寄越してきて、そのイワナガヒメがひどく醜いので、彼女だけ送り返した、という辺りの話ですか?
 まあ、それは、人に寿命があることを説明するために、作られたからで……」

「知ってるよ」
 私が言うと、直ぐに相手が返した。
「そういうのバナナ型神話と言うらしいね。人間に神がバナナか石かを選ばせたら、食べられるバナナを選んだんで、人は死ぬようになった、石を選んでたら、死なないようになっていたのに、ってやつだよね」

「そうです。それに類似した話は世界中にあって、コノハナサクヤヒメの嫁入りもその変形なんですね。花はきれいだけど、儚い。岩は醜いけれど、永遠に存在する。ニニギはコノハナサクヤヒメだけを選び、イワナガヒメを返したので、私たち人間は死ぬようになったという訳です」
 私はそう解説した。

「確かにそういう事なんだろうけど、だったら普通にニニギの前にイワナガヒメとコノハナサクヤヒメを並べて、どっちか選べ、とやったって良かったんじゃない。
 それでなければ、姉妹が送られてきたけれど、ニニギは姉には触れなかった。彼女はそれに耐えられず、自ら実家に帰ってしまった、ということでも良かったんじゃないかと思うんだよ。
 何で、わざわざイワナガヒメが一緒に嫁入りし、その後彼女を送り返すという話になったのか?
 嫁の実家の意向、舅の気持ちを逆なでするような行為をあえてするなんて、どう考えても不思議でねえ」

 なるほど。言われてみれば。

「そこで思ったんだよ。実はイワナガヒメはさほど醜くはなかったんではないか、たしかに妹のコノハナサクヤヒメのように可憐ではなかったのかもしれないけれど、それなりの魅力的な容貌をしていたんではないか、ってね」

 はあ?

「つまり、ニニギの側にいて、親しくなれば、関係を持ってしまってもおかしくないくらいの顔立ちは、イワナガヒメも持っていたんではないかってこと」

「はあ?だとしたらどうだと言うんですか?」
 私は相手の言うことの真意がわからず、素直にたずねた。

「コノハナサクヤヒメはニニギと姉が関係を持ってしまうと、自分のほうが捨てられると考えたんではないだろうか?妹は姉に何某かの劣等感を抱いていたんだよ。
 だから妹はニニギに姉を追い出すように迫ったって考えられない?私と姉、どっちを取るのか、ってな具合に。
 そう考えると、ニニギが舅の意向を無視し、イワナガヒメを送り返すのも納得がいくと思うんだ。わざわざ舅に逆らう気はないけれど、嫁の頼みなら、それもしょうがないよね?」

 ああ、なるほど。
 私は相手がなぜこんな話を熱心にしているのか、やっとその訳が分かった。

 お義父さん。多分、トウジさんからお聞きになったんでしょうけど、たしかに私の妹は私より可愛いいです。そして、私のほうが最初に紹介されたのに、相手のその男性は妹と結婚しました。
 その時、少しショックを受けたのは確かですけど、今はあなたの素敵な息子さんであるトウジさんと結ばれ、幸せいっぱいで、あの時のことはもうすっかり過去のことになってるんですよ。

「でも、正直に理由を言えないから、イワナガヒメがとてつもなく醜いので、返しました、ということにしたんじゃないかな。大体、岩って、必ずしも醜いわけじゃないよね。美しい岩だって探せばあるだろうし……」

 未だ熱心に自説を披露している義父に、どう言葉をかけるべきか……。
 私は大変困った。


終わり


最後までお読み下さり、ありがとうございました。

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ジャンル : 小説・文学

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生前整理



「今度から生前整理を始めるよ」
 どこから聞いてきたのか、夫がそんなことを突然言い出した。

 夫も私もともに五十代。息子も娘も既に社会人となり、家を出ているので、一戸建てに二人暮らしだ。さほど広くもない我が家ではあるが、二人が使い切る程に狭くはない。
 そのため、余った部屋は徐々に乱雑とした物置と化していて、確かに、このまま放置しておくのは得策ではないかもしれない。

 しかし、私は片付けは根本的に苦手だ。基本的に物が捨てられないのだ。つい、いつかは使うかもと、種々雑多なものを取っておく癖があり、お陰で家のあらゆる場所が雑然としていた。

 それでも、「ん~、私はいいや。あなたの分だけやって」と、私は逃げた。
 だってめんどくさいじゃないですか。すぐすぐどちらかがどうこうなることはないだろうし。

「じゃあ、まず、僕の私物だけを整理するね。それが終わったら、家のもの。それから二人の共通のものとやっていこう。あとは気が向いたら、君が自分のものをやりなよ」
 夫はそう言って、どこからか大量の段ボール箱を調達してきた。

 それから夫は玄関とか洗面所とか、場所を決めては自分のものを全部出し、いらないと思うものを段ボール箱に詰め込んだ。
 しかし、それをすぐに捨てることはしないらしい。

「ここに中身と、今日の日付を書いて、物置に置いておくんだよ。そして一年間はそのままにしておく。一年の間に使う事態が発生したら、それはいらないものじゃなかったってことで、箱から取り出して使えばいい。一年間、出番がなかったのなら、それは本当にいらないものだから捨てる、という訳」

「物たちに執行猶予を与えてるわけね」
「まあ、そういうこと」
 夫は答えた。

 それから、夫の若い頃の服や靴、独身時代趣味だった登山用品、本やCDなどが次々と箱詰めされていった。
 それに伴い、徐々に我が家の風通しが良くなった感じもしたが、家にあるのは大半が私のものなので、目立った変化はない。
 
 休日を1日使って、夫は私物の整理をやり遂げたようだった。次は家のものか。
 ダンボールでいっぱいになった物置を眺め、私はある箱に目が行った。そこには”その他”と書いてある。
 他の箱にはきちんと専門書とか靴とか、中身が表記されているのに、それだけが曖昧になっていることに私は違和感を覚え、その箱を手にとって見た。異様に軽い。

 好奇心には勝てず、悪いと思いながらも、私は夫に無断でその箱を開けてみた。
 中には書類があった。

 ああ、夫は知っていたんだ。
 それは私と元カレとの浮気を報告している興信所の書類だった。

 私はなかなかものを捨てられなくて、結婚後もズルズルと元カレと付き合っていた。あちらが転勤して終わったけれど、二十年くらい前のことだけど。

 夫は一年経ったら捨てる箱にこれを入れていた。私を許してくれているのだろうか?それとも、この一年で何らかの答えを出すために、ここに入れたのか?

 果たして私はどうしたらいいのだろう。
 洗いざらい告白する?何も見なかったことにして、平静を装う?
 それとも、前よりはいくらか優しくしてみる?

 自分が整理されるまえに、自分で整理するべき時なのだろうか。

終わり

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ジャンル : 小説・文学

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Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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