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 いらっしゃいませ。
このブログにはしろうとが趣味で書いた創作ショートショートが載せてあります。

 

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生前整理



「今度から生前整理を始めるよ」
 どこから聞いてきたのか、夫がそんなことを突然言い出した。

 夫も私もともに五十代。息子も娘も既に社会人となり、家を出ているので、一戸建てに二人暮らしだ。さほど広くもない我が家ではあるが、二人が使い切る程に狭くはない。
 そのため、余った部屋は徐々に乱雑とした物置と化していて、確かに、このまま放置しておくのは得策ではないかもしれない。

 しかし、私は片付けは根本的に苦手だ。基本的に物が捨てられないのだ。つい、いつかは使うかもと、種々雑多なものを取っておく癖があり、お陰で家のあらゆる場所が雑然としていた。

 それでも、「ん~、私はいいや。あなたの分だけやって」と、私は逃げた。
 だってめんどくさいじゃないですか。すぐすぐどちらかがどうこうなることはないだろうし。

「じゃあ、まず、僕の私物だけを整理するね。それが終わったら、家のもの。それから二人の共通のものとやっていこう。あとは気が向いたら、君が自分のものをやりなよ」
 夫はそう言って、どこからか大量の段ボール箱を調達してきた。

 それから夫は玄関とか洗面所とか、場所を決めては自分のものを全部出し、いらないと思うものを段ボール箱に詰め込んだ。
 しかし、それをすぐに捨てることはしないらしい。

「ここに中身と、今日の日付を書いて、物置に置いておくんだよ。そして一年間はそのままにしておく。一年の間に使う事態が発生したら、それはいらないものじゃなかったってことで、箱から取り出して使えばいい。一年間、出番がなかったのなら、それは本当にいらないものだから捨てる、という訳」

「物たちに執行猶予を与えてるわけね」
「まあ、そういうこと」
 夫は答えた。

 それから、夫の若い頃の服や靴、独身時代趣味だった登山用品、本やCDなどが次々と箱詰めされていった。
 それに伴い、徐々に我が家の風通しが良くなった感じもしたが、家にあるのは大半が私のものなので、目立った変化はない。
 
 休日を1日使って、夫は私物の整理をやり遂げたようだった。次は家のものか。
 ダンボールでいっぱいになった物置を眺め、私はある箱に目が行った。そこには”その他”と書いてある。
 他の箱にはきちんと専門書とか靴とか、中身が表記されているのに、それだけが曖昧になっていることに私は違和感を覚え、その箱を手にとって見た。異様に軽い。

 好奇心には勝てず、悪いと思いながらも、私は夫に無断でその箱を開けてみた。
 中には書類があった。

 ああ、夫は知っていたんだ。
 それは私と元カレとの浮気を報告している興信所の書類だった。

 私はなかなかものを捨てられなくて、結婚後もズルズルと元カレと付き合っていた。あちらが転勤して終わったけれど、二十年くらい前のことだけど。

 夫は一年経ったら捨てる箱にこれを入れていた。私を許してくれているのだろうか?それとも、この一年で何らかの答えを出すために、ここに入れたのか?

 果たして私はどうしたらいいのだろう。
 洗いざらい告白する?何も見なかったことにして、平静を装う?
 それとも、前よりはいくらか優しくしてみる?

 自分が整理されるまえに、自分で整理するべき時なのだろうか。

終わり

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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女房を質に入れてでも

「えっ?一千万?一千万円も融資していただけるんですか?」
 男が驚いて叫んだ。

「まあ、モノがモノですから、そのくらいが相場になります」
 裏の世界に通じているという噂のある、質屋が答えた。

「一千万!それだけあれば……」
 男は目を輝かせた。

「ただし、流質期限は最短の三ヶ月です。しかも、利子の支払いによる、質の契約更新はできません」
 質屋の言葉に、男は少し考え込んだ。

「もしその気になられましたら、もちろん、弁済された暁にはお返ししますが、お二人の署名捺印済みの離婚届と、夫の欄は空白で、奥さんの方だけ署名捺印された婚姻届を携えて、奥さんと共に、ここにお越し下さい。そうしたら、一千万、耳を揃えてご融資します」

「女房をここに連れてきたとして、その後、女房は、その、どうなるんですか?」
 不安な表情で男が聞いた。

「手荒な真似はいたしませんから安心してください」
 質屋が答えた。
「質草に手を付けるような真似は、商売の倫理に反しますし。ただし、逃亡されてはかないませんから、弁済していただけるまでは、某所に軟禁させていただきます」

「よそに軟禁……」
 男は考え込んだ。
「あの、その、女房を軟禁していただいても結構なんですが、その、子供も一緒って訳にはいかないでしょうか?」

「子供?」
 質屋が言った。
「子供がいらっしゃるんで?」

「はい、一人」
 男が答えた。
「娘でまだ三つでして、女房は片親で、義理の母親だけなんですが、彼女は体が弱くて、実家には預けづらいんです」

「あなたの方の実家は?」
 質屋が聞いた。
「私の方の実家は、私が両親から縁切りされてまして……。それに遠いですしね」

 男の言葉に質屋がため息を付いた。
「いいでしょう。子供が一緒でも結構です。ただし、それなら、弁済できず離婚する時は、あなたは子供の親権は放棄する旨を、一筆書いてください」

 質屋の話を聞き終わり、男は希望に満ちた顔で、店を出ていった。

「たまに、本気で女房を質に入れようとしてくる馬鹿がいるが」
 質屋はさっき男から渡された、男の女房の写真を見つめ、言った。
「男運が悪いのは、お母さんからの遺伝か」

 そこには、昔、捨てた女が産んだ、自分の娘の顔があった。
「彼女は私からの援助は頑なに拒んだが、これなら文句ないだろう。一千万円で娘の悪縁を断ってやろう。それにしても、いつの間にか孫までいたとは」

 質屋は男が女房を連れてくるのが、待ち遠しくてたまらなかった。

終わり

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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喫茶去


 あれは私が中学一年生の時だった。
 
 夜、居間でテレビを見ているとテーブルに置いてあった母の携帯が鳴った。メールが届いたようだった。
 母はちょうどお風呂に入っていたので、私は何の気なしに、携帯を手に取り覗いてみると、父からのメールだった。

 そこで私は、何の用事か、急ぎならドア越しにでも母に伝えようと思い、中身を見た。
 すると、そこにはこう書かれていた。
「紅茶を飲みませんか?」

 は?なにこれ?紅茶?
 多分、探せばどこかにティーバッグはあるだろうけど、我が家ではめったに紅茶は飲まない。普段はコーヒー、たまに日本茶だ。

 それに父が母にこんな丁寧な言葉を使うのを聞いたことが無い。多分、母に言うとすれば、「紅茶飲まないか?」だと思うんだけど。

 私は強い違和感を覚え、風呂から上がった母に、「お母さんとお父さんって二人で紅茶を飲んだりしてるの?」と、たずねた。
 母は何のことか分からないような顔をしたので、断りもなくメールを見たことを詫びるとともに、父からのメールを見せた。

「あら、何のことかしら?」
 母は本当に何のことか分からないようで、
「お父さん、誰かと間違ってメールしてきたんじゃない」と、
 おっとりとした顔で、そう言った。

 そうか、間違いメールか!
 なら、うちでは飲まない紅茶のことを書いてるのも、丁寧な言葉づかいも納得がいく。でも、そうだとしたら?

「間違いって、お父さん、こんな文面、誰にメールするの?変だよ。
 ねえ、お母さん。ひょっとして、お父さん、誰かと浮気してるんじゃない?毎晩帰ってくるの、ずっと遅いし」

 それを聞き、母は笑いだした。
「お父さんに限ってそんなこと絶対ないわ。あなたの考えすぎよ」と、てんで相手にしない。母は父のことを根っから信用しているようだった。でも、私はそうは思えなかった。どう考えてもこのメールは怪しい。

 それから暫くの間、私は父の携帯を盗み見ることに専念した。
 父は仕事の関係上、常に携帯をそばにおいていたので、チャンスは父が風呂に入っているときしかなく、しかもロックがかかっていて、4桁の暗証番号を解くのにかなりの時間を要した。

 それでも努力は実り、ロックの解除に成功し、父のメールを覗いてみると……。

 父が浮気していたというのは誤解だった。

 今では2児の母親である私は、我が家の伝統に則り、あれは暗号で呼んでいる。
 
 今日、夫から「ワインを飲みませんか」と、メールが届いた。
 私は「もちろん」と返事を出した。

終わり

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名探偵の見解




「君は本当のところ、どう思ってるんだい?」
 探偵にその友人が尋ねた。
「遠慮せずに、君の正直な考えを聞かせてくれないだろうか?」

 それを聞き、探偵は軽くため息を付いた。
「君がどうしても知りたいというのなら、僕が今回の件で考えていること話してもいいんだが……。本当に聞きたいかい?」

「ぜひ、聞かせてくれ」
 友人はうなずいた。

 友人の決意を見て取り、探偵が言った。
「今回、君はずっと原因を探していたね。どうして?なぜ?ってね。
 その気持は分かるけれど、でも、僕から言わせてもらえば、その問い自体、不毛な行為だったと思うんだ」

「どうしてこうなってしまったのか、考えちゃ駄目なのか?」
 友人は驚いて反論した。
 それを聞き、探偵は即座に否定した。

「いや、あらゆることは因果に支配されているから、あることが起こった原因は必ずあるのだろうけど、相手が家事や育児を一切手伝わず、ろくに稼ぎもせず、自分を冷たくあしらい、あるいは暴力を振るったとしても、ほとんどの人は不倫に走ったりはしない。離婚は考えるだろうけど。
 君の奥さんが間男を作ったのは、君のせいではない。君が結婚生活で奥さんに対してしたことを悔やんでいるのは的はずれだと思う。実際、君は良き夫で良き父親だった。僕が断言するよ」

「じゃあ、どうして」
「それは君の奥さんがそういう人だったからだよ。多分、君が相手でなくても、同じような状況になれば、やっぱり不倫したと僕は思うね」

「つまり、僕に見る目がなかった?」
 探偵はかぶりを振った。
「いいや、それ以前の話じゃないかな。君は君の奥さんと一緒になる時、そういう目で見たことなど一度もなかったろう?結婚したらよその男に目もくれないでいてくれるだろうか、とか考えたこともなかったはずだ。
 二人の馴れ初めは僕も知っているが、君が一目ボレして、押しに押してつきあい始めたんだよね。つまり、君の奥さんは美人であり、押しに弱いんだ。自分から誰かを好きになることはなくて、好意を示してきた人を自分も好きになる、そういう心理が強いのだろう。間男もだいぶ強引にアプローチを掛けてたらしいから」

「妻はもともと、浮気をする人だったということか?ぼくがどう振る舞おうと?」
「言い寄ってくる男が現れればね」

「では、しょうが無いことだったということなのか?」
「そういうことになるのかな。君たちが結婚したのがある意味間違いだったのさ」

「じゃあ、間男が死んだのもしょうが無いことだよな。妻を寝取られても、ほとんどの人は間男を殺すようなことはしない。でも、どうしても許せなくて、自分に疑いがかからぬよう、計画的に間男を殺害してしまうような、そんな人間もいる。そして、多分、それを見抜いてる長年の友人を手にかけてしまう者も」

 友人が立ち上がり、探偵の方に近づいた。
「確かに、そういう人を友人にしてしまう者もいるだろうけど、探偵は違うんだ。探偵は誰一人信用していない。たとえ友人でも。警部!」

 隣室に控えていた警部が現れ、友人は連行されて行った。

終わり


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ジャンル : 小説・文学

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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