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ホームビデオ



 大型液晶テレビに、ホームビデオの映像と思われるものが映し出されていた。
画面の中で幼い男の子が庭を駆け回っている。それを追いかける女性。
場面は変わって、運動会だろうか?男の子をおんぶして、男性が懸命に走っている。


 それを若い男が、ソファに両膝を抱えて座りながら、じっと見ていた。


 映像はまだ続く。海水浴。どこかの田園風景。スキー。
 男の子を中心に、男性と女性がかわるがわる現れて、多く笑顔で男の子の名前を呼んでいる。


「嘘だ!こいつらは俺の父さんと母さんなんかじゃない!こんな映像でたらめだ!」
 
 若い男は叫びながら立ち上がり、振り向いたリビングの床には、今は息絶えた男女が転がっていた。


終わり
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ありがたい人




「じゃあ、そこに座ってくれる」
 ハマグチさんが側の椅子を示した。私は素直に指示に従う。
「上着取ったほうがいいかな?」
 私は彼女に尋ねた。


 ここ一月ほど、私はひどい肩こりに苦しんでいた。
 機械を使ってマッサージしてみたり、痛み止めを塗ったり、貼ったり、飲んだりしたが、駄目。
 柔軟体操や筋トレも、色々毎日欠かさず試してみたが、肩の痛みと重苦しさが取れることはなかった。


 いい加減嫌になっていた頃、友達がハマグチさんのことを教えてくれた。彼女に掛かれば、肩こりなど一発で治るらしい。私は意を決して、ハマグチさんを訪ねた。


「別にいいわ、そのままで」
 彼女は私の背後に回り、言った。
「凝っているのは左側ね」


 服を着たままの状態で、触れもせずに悪い方の肩を当てた。すごい。これは期待が持てそう。


 そう思っていると、左の首筋に何か液体が降り注がれた。私はひやっとした感触に驚いて、小さな声を上げた。
「大丈夫、ただの水だから」
 ハマグチさんが私を安心させるように言った。


 ただの水?薬じゃないんだ。そう思っていると、次に何か粉のようなものが左肩に撒かれた。
「これは塩よ」
 再び、ハマグチさんが説明し、次に何かを早口で言った。


 それから肩に掛かった塩を二度、叩くように手で振り落とすと、
「はい、これで終わり」
 と言って、私の顔を覗き込んだ。


 えっ?これで終わり?なにこれ?冗談?
 
 私は文句を言おうとして、体を動かそうとした瞬間、肩のこりが消えているのを悟った。
 ウソ!治ってる!なんで?


「そんなにたちの悪いものじゃなかったから安心して」


 私の疑問をよそに、ハマグチさんはニッコリと笑った。


終わり

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郷土愛




「生まれ育ったこの町が好きなの。だからここのために何かできないかと思って」
 男の問いに女が答えた。
「実は、この地域には古くから伝わる話があって、それは全国的にも有名なものなのだけれど、そっくりな話が他のところにもあるらしくって、どこが発祥の地なのか、揉めてるらしいの」
 
 女は一時中断していた作業を再開し、話を続けた。
「私は難しいことは分からないから、どこの土地がその話の場所として、もっとも説得力があるのか判断できないのだけれど、学術的なことは抜きにして、もし、現在、伝わっている話のようなことがまたその土地で起こったなら……、学者さんたちはいざしらず、一般の人には強烈なアピールになると思わない?だからなの」

 研ぎ終わった刃物を手に、白髪を振り乱した女は、女の家に一夜の宿を借りに来て、今は後ろ手に縛られている若者に近づいて行った。
 この土地に、今、伝説がよみがえる。


終わり

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彼女の訪問




「そら、連れて来てやったぞ」

 玄関のドアを開け、ご主人様が言った。
 僕の前には今、愛しのリリイちゃんがいる。
 
 もちろん、僕には少し前から分かってた。彼女が僕の家に来てくれることが。
 だって、段々と匂いが強くなっていたから。
 リリイちゃんとご主人様と、そしてリリイちゃんのご主人様の匂いがね。

 そう、僕は犬だ。
 この家に貰われてきて、既に三年。
 はじめてここに来た頃はまだ子犬だったけど、もう立派なオトナだ。

 ご主人様にはとても可愛がってもらっている。
 毎日のバランスの取れた食事、定期的な健康診断。
 ときどきいたずらして叱られはするけど、ご主人様はけして暴力を振るったりはしない。
 だから、つい最近までは何一つ不満もなく暮らしていたんだ。

 けれどそれも変わってしまった。なぜって先日、散歩の時に運命の出会いをしたんだ。
 それがリリイちゃん。僕よりひとつ下の可愛い子。
 僕はひと目で夢中になった。

 僕は直ぐに素直な気持ちを彼女にぶつけ、彼女も悪い気はしないように見えた。

 でも所詮、僕たちは飼われている身。好きな時に自由に会うことなんて出来はしない。
 それでも、同じ時間に散歩に行くと彼女に会えたから、それで満足はしていた。
 
 いつか一緒になって、二人の子どもを作って。
 そんな夢を見ていたある日、急に彼女に会えなくなった。

 なぜ?なぜ?
 いつもの時間に散歩に出ても、彼女にも彼女のご主人様にさえ会えなかった。

 そんな日が幾日か続き、僕はすっかり元気をなくしてしまった。僕のご主人様は散歩の時間をずらしたり、コースを変えたりして、僕が彼女に会えるように努力してくれたのだけど、昨日まで彼女に会えることはなかったんだ。

 それが突然、うちにまで彼女が来てくれた。
 こんな嬉しいことはない。
 僕は大はしゃぎで彼女の周りを回った。けれど、彼女の態度は違っていた。
 なにか不安がっている。

「どうしたの?はじめての場所で緊張してる?」
 優しく問いかけると彼女が言った。
「いえ、ご主人様のことが気になって」

 彼女のご主人様?そう言えばすこし様子がおかしかったかな?ぐったりして、僕のご主人様に抱えられていた。たしかこれは……。
 僕は彼女に考えを言った。

「この匂いからすると、ご主人様たちはお酒というものを飲んだんだよ。あれは飲み過ぎると、あんな風になるらしいよ。ほら、僕のご主人様がベッドに君のご主人を寝かしつけているようだ。心配ないよ。こういうことはご主人様たちにはよくあるんだ」

「そうかしら?私もお酒の匂いは知ってるけれど、それとは別の匂いもするような」
 彼女はどうしても不安が拭えないのか、自分のご主人様を心配そうに見つめている。
「お酒にはいっぱい種類があるんだ。君は嗅いだことがないようだけど、僕にはこの匂いに覚えがある。以前、ご主人様が連れてきた人にも同じ匂いがしていたよ」

 僕の言葉に彼女はすこし安心したように見えた。
「そう。だったら大丈夫かしら。ただ、私のご主人様のあんな姿を見るのは初めてだったので」
 彼女は少し恥ずかしげに弁解した。

「それはきっと、僕のご主人様は若い男で、君のご主人様が若い女だからじゃないかな」
 僕は彼女に言った。
「君のご主人様は僕のご主人様と意気投合して、とても嬉しくなったんだよ。それが証拠にほら、……」

 見るとベッドの上で僕のご主人様が彼女のご主人様の服を脱がしにかかっていた。仲の良い男女が行う儀式だ。

 僕達が見ているのに気付くと、ご主人様が言った。
「ジョン、あっちに行ってろ。後、リリイだっけ?お前もだ」

 ご主人様は僕達を部屋から追い出し、寝室のドアを閉めた。
 途中、リリイちゃんはかなり抵抗した。

「私はご主人様のアイメイトなの。どんな時でもそばにいるように言われているの。一緒にいさせて」
 そう訴えたが、残念ながら僕のご主人様には通じなかった。まあ当然だけど。

「アイメイトって?」
 僕は彼女に聞いた。
「私はご主人様の目の代わりをしているの。彼女、目が見えないのよ」

「へ~、そうなんだ。リリイちゃんはすごいんだね」
 僕の言葉も耳に入らないのか、彼女は寝室のドアの前に座り、じっと中の様子をうかがっている。
 僕も耳を澄ますと、衣擦れやため息が聞こえてくる。
 

 この状態では暫くの間、多分明日の朝までは寝室のドアは開かないことを経験的に知っていた僕は、彼女を説得して居間へ移動し、ソファに座らせた。
「大丈夫だよ、君のご主人様は。僕のご主人様が側についているんだし。それに、ひょっとしたら、これからはずっとこんなふうな生活が待っているかも知れないよ」

 リリイちゃんとともに過ごす生活。もちろん、僕のご主人様と彼女のご主人様も一緒だ。
 なんて素晴らしい。

 明け方、ドアの開く音を聞き、僕は寝室に向かった。
 ご主人様は隣の浴室の洗面台のところにいた。手には注射器を持っている。

 僕のご主人様は動物のお医者さんで、時々僕に注射をする。
 僕は嫌だったけれど、いつもちゃんと我慢した。今回もちゃんと注射を受けた。

 そしたら、なぜかすぐに眠たくなって、その後のことはよく覚えていない。
 目を覚ました時に、リリイちゃんはいなくなっていた。もちろん彼女のご主人様も。

 僕が眠っている間に帰ってしまったんだろう。
 
 そして、それから二度とリリイちゃんには会えなかった。
 僕とご主人様は引っ越したのだ。
 まただ。
 この前も、女の人が家に来て、その後すぐに引っ越した。

 そのちょっと前にごちそうのお肉をたっぷり食べれらるのだけれど、それでも引っ越しは辛いよ。
 
 リリイちゃんにもう一度会いたいなあ。駄目かなあ。


終わり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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マーキング




「ではその痣というのを見せてください」

 大変力があるとうわさされている霊能者が相談に来た男に言った。
 言われた男はシャツの左の襟を下げ、鎖骨を見せた。
「これは一昨日できたものです」
 
 そこには赤茶色の楕円形の痣がひとつあった。大きさは桃のタネぐらいだろうか。
 霊能者は男に近寄りじっとそれを見た。
「なるほど」
 軽くうなずく。

「こういうのがほかにも?」
「ええ、胸とか首の後ろにも。毎日少しずつ増えていってます」
 男が答えた。

「痛いとか痒いとかないんですね?」
「ええ、特に何も感じません」


「で、お医者さんに診てもらって……」
「はい、そこでこれは吸引性皮下出血だと言われました。最初はどうゆうことかわかりませんでしたが、医者が説明してくれまして……。つまり、キスマークだと」

「なるほど」
 霊能者がうなずいた。
「私はそれを聞いて憤慨しました。だってまるっきり身に覚えがないのですから。以前に恋人がいたことはありますが、ここ三年というもの女性とは縁遠くて。だから絶対に誤診だと思って、他所の医者にも見てもらったんですが、診断は同じで、そこの医者もキスマークだと言うんです」

「そうですか、さぞや困惑されたでしょうね」
 霊能者が男に同情の眼差しを向けた。
「分かっていただけますか?良かった」
 男はほっとした表情をした。

「これまでは誰に言っても信じてもらえなくて、一人悩んでました。
 これが起きてからは、朝目覚めると直ぐに鏡に向かって、もっと何かひどいことになっていないかって、恐る恐る自分の体をながめる毎日なんです」
 


「単刀直入に言いますと、これは霊の仕業ですね」
 霊能者はあっさりとそう告げた。
「やっぱり!」男は叫んだ。「で、どうなんでしょう。これからこんなことが起きないように出来るでしょうか?」
男が身を乗り出して聞いた。

「そうですねえ」
しばし考えた後、霊能者が言った。
「あなたが少し不快な思いを我慢してくださるなら、たぶん、その現象は治まるかと」

「不快な思い?」男が不安な声で聞いた。「と、いいますと?」
 すると霊能力者が意外なことを言った。
「あなたに痣ができないようにするには、私があなたに新たなるキスマークを付ける必要があります。お嫌でしょうけど」

 男は驚いて相手を見た。
 有名な霊能力者といっても実はまだそんなに齢は行ってない、妖艶な女性だ。厭なわけはない。むしろお願いしたいくらいだが……。
 
「あの~、どうしても、その、あなたが私にキスマークを付ける必要があるのですか?いや、誤解しないでいただきたのですが、けして、あなたにそうしてもらうのが嫌というわけではないのです。けれど、ほかに手段はないのかと思いまして」

 男の問いに霊能力者はにっこり笑って答えた。
「そうですね。ほかの手段も探せばあるかもしれませんが、そうするのが一番手っ取り早いと私は考えます。実はこの現象はあなたに憑いている女性の霊が起こしたことでして、どうやら生前あなたのことを好きだったようです」
「はあ?僕のことを?」
 男は少し驚いた。心当りがまるでない。

「多分あなたの知らない女性だと思います。彼女とあなたは朝の通勤でいつも一緒だったようですね。一度ラッシュ時に長時間密着したことがあって、それであなたのことを意識するようになったようです。特にあなたの首筋や肩がお気に入りのようですね。先日お亡くなりになったようですけど」

「ああ、そういうことですか」
 男は納得した。
「そこで彼女を私に乗り移らせ、私の体を使って彼女が本当にキスマークをあなたに付ければ、多分満足して成仏してくれると思うんです」

 理由を聞き、男は納得した。
「では、お願いします」
 そう言って目をつぶると、霊能力者の顔つきが突然変わり、切なそうな目をすると男に近づき、その首に長いキスをした。

 唇を離すとそこに赤い痣がくっきりと浮かんだ。
 途端、霊能力者は元の表情に戻った。
「多分、これで大丈夫だと思います、が……」
 なにか歯切れが悪い。
「何か気になることが?」
 男が尋ねた。

「いえ、思ったより彼女の思い込みが強かったので……。ほかに思い残すことがあったのかも。もし、また痣が現れるようでしたら、またここに来て下さい。もう一度、彼女が成仏するよう試みてみますから」
 そんな霊能力者の言葉を後に男は帰宅した。

 その夜から首に痣ができることはなく、男は安心した。しかし、しばらくしたある日の朝、男は自分の体の異変に心底驚くことになった。なんと全身に縄の跡がくっきりと付いているではないか。

 自分に取り付いた霊はそんな趣味があったのか!ということは、俺はあの霊能力者に縛られるのか?
 いや、それは!でも、このままでは……。
 あの美人の霊能力者に色々されて、かえって変な感覚に目覚めたしまったら?

 そんな思いに男は苦悶した。


終わり


「へ~、これはすごい、たいしたもんだ」
俺はこれを書いた男に言った。
「自分に起こったことをネタにしてこんな話を書けるとは、類まれなる才能だと思うけど、でも、こんな妄想に逃げないで、現実に向き合ったほうがいいと思うぞ。
 おまえがまったく覚えがないのに首にキスマークを付けることができる人間がいるとすれば、それは、おまえの部屋の鍵のコピーを持っているやつで、おまえの飲み物に薬も仕込んだはずだ。夜中に起き出さないようにな。
 鍵をコピーする機会はおまえと親しい人間でないと難しいだろうし、その中に女性がいないからといって、事実を歪めてはいけない。霊なんていないぞ。
 まあ、俺もよく分からんけど、現代ではホモでもそんなに偏見はないらしいから。
 とにかく部屋の鍵を変えろ!」




最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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