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食卓にて




”やっぱり!”

 案の定、朝食のテーブルにはししとうの炒め物があった。自分の分として取り分けられた小皿にあるのは、見たところ5、6本か?

”さて、今回はどれが当たりなのだろう”

 私は油にくるまれ、緑色に輝く物体をじっと見た。

 自分がこのししとうのからくりに気づいたのはだいぶ前のことだ。
 食卓にししとうの炒め物が出た時、なぜか自分だけが必ず辛いししとうに当たり、妻にはそれが行かないのだ。最初はただの偶然だと思った。単に自分が運が悪いのだろうと思っていたのだ。

 けれどよくよく考えてみると、ししとうが出てくる前日には、必ず妻と諍いをしていた。さらにししとうの旬の夏だけでなく、一年中出てきていた。実際今は年中作れるそうで、スーパーで探せばししとうは必ず置いてあるらしいが。

  さらにネットで調べてみると、現在ではししとうが時々辛くなることはまずないと書いてあった。そういう品種改良がされたんだそうだ。

 そこで出た結論は、妻が何らかの手段で、多分唐辛子ペーストか何かをししとうの中に仕込み、私にそのししとうを食べさせ、鬱憤ばらししているののだろう、ということだ。

 しかし私はあえて気づかないふりをした。辛いものはかなり苦手だが、その程度のことで妻が溜飲を下げ、機嫌が戻るなら、まあいいかと思っていたのだ。

「いただきます」
 そう言って箸と茶碗を取り、おもむろにししとうの一つをつまんだ。そして一気に口に運んで、ご飯とともにしばらく噛んでいると、口の中に強烈な痛みが走った。

「うわー辛い!」
  口を半ば空け、目に涙を浮かべ、妻を見た。いつもなら、”あら、また当たりを引いたの”と、嬉しそうに笑うのだが、今回は無言だった。

 そういえば一本目から当たりを引いたのはこれが初めてのような気がする。 いつもは3、4本目とか最後とかに、猛烈な辛さに見舞われていたのだが。
 
 まあこれで、次は恐る恐る食べる必要はないだろう。既に当たりを引いたのだから。
そう思って、二本目を口に入れた。
「うわっ!」

 辛い。これも。さっきのより辛い気がする。
  二本続けて当たったことは今までなかった。これは……。

 ヒリヒリする口に水を流し込み、涙に曇る目で、ししとう達を見た。そして妻を見る。
 妻は無表情だった。

「二本続けて当たるなんて、随分運がないな」
 私は誰ともなしにつぶやいた。
 妻は何も答えない。

 やはり、相当怒っているのか?

 前夜今までにない大喧嘩をした。 まあ私がこそこそ隠れて女性の同僚と line をしてたのが見つかったせいなのだが。

 だから、朝ししとうの炒め物が出てくるのは想定内だった。しかし、当たりが一本だけではなかったとは。

 気まずい沈黙の中、私は3本目にトライした。
「う~っ!」

 これも辛かった。妻の怒りは相当のものなのだろう。ひょっとして、私の皿のししとうは全て辛いのか。
 
 ”もう食べるのをやめようか”
 そう一瞬思ったが、やはり妻の機嫌のことを考え、全てを食べる決心をした。

 いつか見た、共有のパソコンの履歴には、”カプサイシン 致死量”という項目があった。だから多分、危険な量は知っているはず。
 まさか殺しはしないよね。

 私は死にそうになりながら、ししとうの炒め物の皿を平らげ、妻を見た。

 妻はニコリともせず、台所に引っ込むと、ししとうのおかわりを持ってきて、私の前に皿を置いた。

終わり

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テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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兄弟



「ごめん、兄さん」
 タクヤが言った。

「何だ、突然?」
 私はグラスを置いて弟の顔を見た。

 するとタクヤは「実は今、カウンセラーのところに通っているんだよ」と、思ってもみないことを私に告げた。
「そこで自分の過去をいろいろ考えてね。兄さんには随分心配かけたんだろうなあ、と気づいたんだ。でも、もう大丈夫。自分の問題がはっきりとわかったから」

「問題?というと今までの女性関係のことか?」
 私は聞いた。

 弟は私に似ず、かなり整った顔をしている。そして背も高い。更に医師でもあり、結婚相手として、これ以上にないくらいの好条件を満たしている。
 普通に考えれば、よりどりみどりで相手を選べるはずなのに、何故か、まともな女性とは付き合おうとしない。
 弟が好きになるのは必ず既婚者で、しかも相手が誘惑に負け、関係を持つようになると、直ぐに別れてしまっていた。
 弟のせいで駄目になった夫婦は、私が知ってるだけでかなりの数にのぼる。

「お前は、いい年をしながら、人のものを見ると欲しくなる、ただのガキだということじゃないのか?」

「実は、僕も今まではそう思っていた。でも違うんだ」
 弟が答えた。
「原因は、僕達の生い立ちにあるらしい」

「それは、俺達が母親に捨てられた事を言ってるのか?」
 私は聞いた。

 私たちの母親は、私たちを置いて、男と一緒に家を出て行った。そして程なくして、病気で死んだ。
 父は再婚もせず、私たちを一生懸命育ててくれたが、やはり、母親がいないことで、色々苦労も味わっている。

「そうなんだ」
 タクヤが答えた。
「カウンセラーの人が言うには、僕が既婚女性に惹かれるのは、無意識に相手に母親を求めているからなんだそうだ」

「なるほど、一理あるか」
 私はうなずいた。

「そして、付き合ってすぐ別れてしまうのは、母親への憎しみを投影してしまうかららしい。僕が今まで付き合った女性はみんな既婚者だから、僕と付き合うということは、夫を裏切るということだからね。僕達の母親と同じ様にね」

 話を聞き、私は今までの弟の不思議な行動に納得がいった。
 私はそうでもないが、母親が出ていった時、弟はまだとても小さかった。ショックも大きかったのだろう。それで、そんな歪んだ女性観が無意識に形成されたのか。

 私は心底同情して、弟を見た。
「お前は随分と難儀な状態に陥っていたんだなあ。それで、それはその、うまく解決できそうなのか?」

 好きになるのは既婚者で、間男である自分を好きになるような裏切り者は憎むんでは、一生、結婚などできない。

「なんだったら、バツイチとかのシングルマザーと付き合って見たらどうなんだ?」
 私の提案に弟が答えた。

「それは僕も考えたんだ。でも、どうやらそれだけでは駄目だと気付いたんだよ。付き合う女性は、絶対に相手を裏切らない、どんなに誘惑されようと、夫以外の男には目もくれない、そんな女性でなければ駄目なんだってね」

「気持ちは分かるが、どうやってそんな女性を探す?」
 私は無理だと思って言った。
「いや、それが大丈夫でね。もう見つけてあるんだ」
 弟が答えた。

「今まで、僕の知り合った女性のほとんどは、僕がちょっと親切にすると、向こうからアプローチして来たけれど、そうじゃない、既婚者の女性もいたんだよ。その人なら信じられそうなんだ。夫を裏切ったりしないってね。後はその人の夫が亡くなれば……、代わりにその人と結婚できる」

 急に眠気が襲い、私は目を開けるのがやっとの状態となった。なにかおかしい。

「子どもたちは大切に育てるから……。ごめんよ、兄さん。ごめん」

 弟の声がやけに遠くに聞こえた。

終わり

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ホームビデオ



 大型液晶テレビに、ホームビデオの映像と思われるものが映し出されていた。
画面の中で幼い男の子が庭を駆け回っている。それを追いかける女性。
場面は変わって、運動会だろうか?男の子をおんぶして、男性が懸命に走っている。


 それを若い男が、ソファに両膝を抱えて座りながら、じっと見ていた。


 映像はまだ続く。海水浴。どこかの田園風景。スキー。
 男の子を中心に、男性と女性がかわるがわる現れて、多く笑顔で男の子の名前を呼んでいる。


「嘘だ!こいつらは俺の父さんと母さんなんかじゃない!こんな映像でたらめだ!」
 
 若い男は叫びながら立ち上がり、振り向いたリビングの床には、今は息絶えた男女が転がっていた。


終わり

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ありがたい人




「じゃあ、そこに座ってくれる」
 ハマグチさんが側の椅子を示した。私は素直に指示に従う。
「上着取ったほうがいいかな?」
 私は彼女に尋ねた。


 ここ一月ほど、私はひどい肩こりに苦しんでいた。
 機械を使ってマッサージしてみたり、痛み止めを塗ったり、貼ったり、飲んだりしたが、駄目。
 柔軟体操や筋トレも、色々毎日欠かさず試してみたが、肩の痛みと重苦しさが取れることはなかった。


 いい加減嫌になっていた頃、友達がハマグチさんのことを教えてくれた。彼女に掛かれば、肩こりなど一発で治るらしい。私は意を決して、ハマグチさんを訪ねた。


「別にいいわ、そのままで」
 彼女は私の背後に回り、言った。
「凝っているのは左側ね」


 服を着たままの状態で、触れもせずに悪い方の肩を当てた。すごい。これは期待が持てそう。


 そう思っていると、左の首筋に何か液体が降り注がれた。私はひやっとした感触に驚いて、小さな声を上げた。
「大丈夫、ただの水だから」
 ハマグチさんが私を安心させるように言った。


 ただの水?薬じゃないんだ。そう思っていると、次に何か粉のようなものが左肩に撒かれた。
「これは塩よ」
 再び、ハマグチさんが説明し、次に何かを早口で言った。


 それから肩に掛かった塩を二度、叩くように手で振り落とすと、
「はい、これで終わり」
 と言って、私の顔を覗き込んだ。


 えっ?これで終わり?なにこれ?冗談?
 
 私は文句を言おうとして、体を動かそうとした瞬間、肩のこりが消えているのを悟った。
 ウソ!治ってる!なんで?


「そんなにたちの悪いものじゃなかったから安心して」


 私の疑問をよそに、ハマグチさんはニッコリと笑った。


終わり

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郷土愛




「生まれ育ったこの町が好きなの。だからここのために何かできないかと思って」
 男の問いに女が答えた。
「実は、この地域には古くから伝わる話があって、それは全国的にも有名なものなのだけれど、そっくりな話が他のところにもあるらしくって、どこが発祥の地なのか、揉めてるらしいの」
 
 女は一時中断していた作業を再開し、話を続けた。
「私は難しいことは分からないから、どこの土地がその話の場所として、もっとも説得力があるのか判断できないのだけれど、学術的なことは抜きにして、もし、現在、伝わっている話のようなことがまたその土地で起こったなら……、学者さんたちはいざしらず、一般の人には強烈なアピールになると思わない?だからなの」

 研ぎ終わった刃物を手に、白髪を振り乱した女は、女の家に一夜の宿を借りに来て、今は後ろ手に縛られている若者に近づいて行った。
 この土地に、今、伝説がよみがえる。


終わり

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Author:火消茶腕
ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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