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マーキング




「ではその痣というのを見せてください」

 大変力があるとうわさされている霊能者が相談に来た男に言った。
 言われた男はシャツの左の襟を下げ、鎖骨を見せた。
「これは一昨日できたものです」
 
 そこには赤茶色の楕円形の痣がひとつあった。大きさは桃のタネぐらいだろうか。
 霊能者は男に近寄りじっとそれを見た。
「なるほど」
 軽くうなずく。

「こういうのがほかにも?」
「ええ、胸とか首の後ろにも。毎日少しずつ増えていってます」
 男が答えた。

「痛いとか痒いとかないんですね?」
「ええ、特に何も感じません」


「で、お医者さんに診てもらって……」
「はい、そこでこれは吸引性皮下出血だと言われました。最初はどうゆうことかわかりませんでしたが、医者が説明してくれまして……。つまり、キスマークだと」

「なるほど」
 霊能者がうなずいた。
「私はそれを聞いて憤慨しました。だってまるっきり身に覚えがないのですから。以前に恋人がいたことはありますが、ここ三年というもの女性とは縁遠くて。だから絶対に誤診だと思って、他所の医者にも見てもらったんですが、診断は同じで、そこの医者もキスマークだと言うんです」

「そうですか、さぞや困惑されたでしょうね」
 霊能者が男に同情の眼差しを向けた。
「分かっていただけますか?良かった」
 男はほっとした表情をした。

「これまでは誰に言っても信じてもらえなくて、一人悩んでました。
 これが起きてからは、朝目覚めると直ぐに鏡に向かって、もっと何かひどいことになっていないかって、恐る恐る自分の体をながめる毎日なんです」
 


「単刀直入に言いますと、これは霊の仕業ですね」
 霊能者はあっさりとそう告げた。
「やっぱり!」男は叫んだ。「で、どうなんでしょう。これからこんなことが起きないように出来るでしょうか?」
男が身を乗り出して聞いた。

「そうですねえ」
しばし考えた後、霊能者が言った。
「あなたが少し不快な思いを我慢してくださるなら、たぶん、その現象は治まるかと」

「不快な思い?」男が不安な声で聞いた。「と、いいますと?」
 すると霊能力者が意外なことを言った。
「あなたに痣ができないようにするには、私があなたに新たなるキスマークを付ける必要があります。お嫌でしょうけど」

 男は驚いて相手を見た。
 有名な霊能力者といっても実はまだそんなに齢は行ってない、妖艶な女性だ。厭なわけはない。むしろお願いしたいくらいだが……。
 
「あの~、どうしても、その、あなたが私にキスマークを付ける必要があるのですか?いや、誤解しないでいただきたのですが、けして、あなたにそうしてもらうのが嫌というわけではないのです。けれど、ほかに手段はないのかと思いまして」

 男の問いに霊能力者はにっこり笑って答えた。
「そうですね。ほかの手段も探せばあるかもしれませんが、そうするのが一番手っ取り早いと私は考えます。実はこの現象はあなたに憑いている女性の霊が起こしたことでして、どうやら生前あなたのことを好きだったようです」
「はあ?僕のことを?」
 男は少し驚いた。心当りがまるでない。

「多分あなたの知らない女性だと思います。彼女とあなたは朝の通勤でいつも一緒だったようですね。一度ラッシュ時に長時間密着したことがあって、それであなたのことを意識するようになったようです。特にあなたの首筋や肩がお気に入りのようですね。先日お亡くなりになったようですけど」

「ああ、そういうことですか」
 男は納得した。
「そこで彼女を私に乗り移らせ、私の体を使って彼女が本当にキスマークをあなたに付ければ、多分満足して成仏してくれると思うんです」

 理由を聞き、男は納得した。
「では、お願いします」
 そう言って目をつぶると、霊能力者の顔つきが突然変わり、切なそうな目をすると男に近づき、その首に長いキスをした。

 唇を離すとそこに赤い痣がくっきりと浮かんだ。
 途端、霊能力者は元の表情に戻った。
「多分、これで大丈夫だと思います、が……」
 なにか歯切れが悪い。
「何か気になることが?」
 男が尋ねた。

「いえ、思ったより彼女の思い込みが強かったので……。ほかに思い残すことがあったのかも。もし、また痣が現れるようでしたら、またここに来て下さい。もう一度、彼女が成仏するよう試みてみますから」
 そんな霊能力者の言葉を後に男は帰宅した。

 その夜から首に痣ができることはなく、男は安心した。しかし、しばらくしたある日の朝、男は自分の体の異変に心底驚くことになった。なんと全身に縄の跡がくっきりと付いているではないか。

 自分に取り付いた霊はそんな趣味があったのか!ということは、俺はあの霊能力者に縛られるのか?
 いや、それは!でも、このままでは……。
 あの美人の霊能力者に色々されて、かえって変な感覚に目覚めたしまったら?

 そんな思いに男は苦悶した。


終わり


「へ~、これはすごい、たいしたもんだ」
俺はこれを書いた男に言った。
「自分に起こったことをネタにしてこんな話を書けるとは、類まれなる才能だと思うけど、でも、こんな妄想に逃げないで、現実に向き合ったほうがいいと思うぞ。
 おまえがまったく覚えがないのに首にキスマークを付けることができる人間がいるとすれば、それは、おまえの部屋の鍵のコピーを持っているやつで、おまえの飲み物に薬も仕込んだはずだ。夜中に起き出さないようにな。
 鍵をコピーする機会はおまえと親しい人間でないと難しいだろうし、その中に女性がいないからといって、事実を歪めてはいけない。霊なんていないぞ。
 まあ、俺もよく分からんけど、現代ではホモでもそんなに偏見はないらしいから。
 とにかく部屋の鍵を変えろ!」




最後までお読みくださり、ありがとうございました。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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百物語




 ”第九十九話”
 ぼそぼそとした男の声が部屋に響いた。
 「へえ、ここまできたよ。よくやるな」
パソコンの画面を眺めながら、ウサキが言った。

今、ウサキの前にあるモニターには動画が映し出されていた。画面には短くなった二本のろうそくが炎を揺らしている。

”あるところに男がいた”
 声が途切れたところで、カチッと音がする。
”男は医者だった”
 カチッ。
”男の務めている病院には悪い噂があった”
 カチッ。
 時刻はすでに午前二時半を回っていた。一人暮らしのウサキの部屋の中で、男の声が静かに続いている。

 広大なネットの片隅に、ある日”百物語”というフリーゲームがアップロードされた。製作者は不明。ホラー系アドベンチャーという触れ込みだった。
 興味を持った幾人かがインストールし、プレイしようとしたが果たせなかった。ゲームをスタートさせるといきなり文字が現れたのだ。

-このゲームは百物語を実行するものです。新月の夜以外、ゲームは起動しません。-

 パソコン内部の時計に頼らず、外部と通信して新月の夜を確認しているという、凝ったしかけがしてあった。。
 ここでほとんどの人間はこのゲームソフトをアンインストールしたが、一部の物好きは実際に新月の夜を待って、ゲームを立ち上げた。すると、スタート時の文字が変わっており、新たなゲームの説明が書かれていた。

-百話終了の後、怪異を起こさせるために、このゲームは、一人、明かりのない部屋でプレイしてください。音楽も禁止です。
 ゲームは最初のろうそくの画面以外は音声のみです。音が途切れたら、リターンキーを押してください。次の音声が再生されます。オートモードはありません。
 ゲームは午後九時から午前三時までの間にプレイしてください。定められた時刻を超えると、ゲームは強制終了します。
 このゲームにセーブ機能はありません。ゲームを中断した場合、次にゲームを再開したときは始めからのプレイとなります。- 

 この無茶な仕様にも負けず、物好きな人間は先に進んだ。
 リターンキーを押すと、画面いっぱいに灯の点いた多数のろうそくが現れた。数えてみると百本ある。そして、”第一話”というぼそぼそとした男の声が聞こえてきた。

 説明のとおり、声はそこで途絶え、一向に何の変化もない。リターンキーを押すと、やっと続きの声が聞こえ出した。
”それは春の夜のことである”

 何人かが懸命にリターンキーを押し、最初の二、三話を聞いたが、どれも以前から知っている話で、まるで怖くはない。これを百話まで続けるのは、かなりハードな条件に思えた。
 画面は案の定、一話が終わるとろうそくの炎がひとつ消えるようになっていたが、それ以外何の変化もない。そして、効果音も音楽も無かった。
 結局、みんな途中で挫折し、最後の百話を聞けた者はいなかった。

 そんな作りになっていたため、このソフトはジョークソフトだろうということで落ち着いた。
 それでも、世の中には物好きで暇な人間がいるものである。ある日、このゲーム”百物語”のプレイを実況放送し、クリアを目指そうとするものが現れたのだ。
 開始はこの次の新月の晩、午後九時スタートということだった。

 半月前から宣伝されていたことで、その情報はウサキの耳にも入り、今、彼も途中で席を外しながらも、夜を徹して、このジョークソフトの実況を生で見ていたのである。

 

”第百話”
 最後から二本目の蝋燭の灯が消えた後、ぼそぼそとした男の声がそう告げた。
「えっ!」
 ウサキは驚きのあまり固まってしまった。
「えっ!何?どういうこと?何が起こった?」
 パソコンの画面を眺めながら、彼はただただうろたえていた。
「これは俺がつくった”百物語”じゃないのか?」

 ウサキは趣味でゲームを作っていたが、ちょっとしたジョークのつもりで、この”百物語”をネットにアップしたのだ。ジョークなのだから当然、クリア条件は馬鹿みたいにしたし、エンディングも馬鹿げたオチにした。百話目は入れなかったのだ。九十九話が終わった時点で、百話まで語ると怪異がおこるからここで止めます、勘弁、勘弁と宣言がなされるはずだったのだが。しかし、そうはならず、今、百話目が始まっていた。

”ある男が百物語のゲームを作った”
 ぼそぼそとした声。ウサキはその言葉に全身が総毛立った。
”ゲームは煩雑で、誰もクリアできなかった”
”しかしそこに、ゲームをクリアする様子を実況放送しようとするものが現れた”
”ゲームを作った男はその様子を一人部屋で見ていた”
”話は九十九話までいき、ゲームを作った男はゲームをプレイしている男の気力に感心した”
 話は今のウサキの状況にそっくりだ。
「なんだ!なんだよう」
”話はついに百話目となった”
”男は驚愕した”
”なぜなら男は最後の百話目をそのゲームに入れた覚えはなかったのだ”

 ウサキは気味悪くなり、動画を止めようとしたが、なぜか体が動かない。その間も話は進んでいった。
”男は動画を見るのをやめようとしたが体が動かない”
”そのうち、部屋の入口から物音がし、足音が近づいてきた”
 
 聞こえる。確かに部屋の入り口からウサキの方に向かって、音が近づいてきていた。
"男はなぜか振り向くことも出来ず、パソコンの画面から目が離せなかった”
”やがて、足音が男の真後ろで止まり、何者かの手が男の首にかかった”

「次はお前だ!」

 実際の声か、パソコンからかわからない音声が部屋にこだました。そしてモニターに映っていたろうそくの灯がふっと消え,画面はただの暗闇となった。



「おーい、ウサキ、いるかー」
 翌日、ウサキの友人、ナカメがウサキの部屋をたずねてきた。ウサキがケータイにも出ないし、メールの返事もなかったからだった。
 実は昨晩の実況放送はナカメの仕業だった。ナカメはウサキがあのゲームを作ったことを知っていたのだ。そこで、驚かしてやろうと、百話目を挿入し、放送をウサキが見るように仕向けたのである。ウサキがどんな反応を示したか、ナカメは一刻も早く知りたくて、わざわざ出向いたのだ。

「おーい、いないのか?」
 不用心にも部屋のドアは開いていた。ナカメは部屋に入り、ウサキを探したが留守なのか、どこにもいなかった。机の上に、蓋が開いたままでスリープ状態になっているパソコンがある。

「昨夜のを見たままになってるのかな?」
 画面を復帰させると炎のともったろうそくが一本、映っていた。
 途端にナカメの体が動かなくなり、急に背後から首に手がかかった。

「次はお前だ!」
 
 
終わり


最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この記事で ブログ村 怪談!トーナメント で3位になりました。投票していただき、ありがとうございました。

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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