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疑問



「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
 無事婚礼の儀も終了し、やっと二人きりとなった寝室で、花嫁が王子に尋ねた。

「何?」
 どのような頑なな女性でも心を溶かしてしまいそうな微笑みを浮かべ、王子は言った。
 その顔を見て、顔を赤らめて目を反らした花嫁は、床を見つめながらも言葉を続けた。

「初めてお会いした時と違い、二度目にお会いした時の私は薄汚れ、みすぼらしい服を身にまとって、化粧一つしておりませんでした。多分、その姿は舞踏会の時とはまるで別人に見えたと思うんです。私自身、舞踏会の時の装いを鏡で見て、これが本当に自分なのかと、にわかには信じられませんでしたから。
 
 それなのに、王子は二度目に会った私を見て、私が舞踏会で一緒に踊った娘だと、確信を持っておられたようにお見受けしました。私も周りの質問に正直にお答えしましたけれど、私が嘘をついて、舞踏会で踊った娘になりすましているとはお疑いにならなかったのですか?」

「そのことなら、君の靴でちゃんとわかったから」
 王子は答えた。

「靴で?」
 花嫁は不安げにまた聞いた。
「あの舞踏会の時、落としてしまった靴のことですよね。たしかに、お役人の方たちがあの靴を持って、私たちの家に来て、私たちの足に靴が合うかどうか確かめられましたが……。
 
 けれど、私の足はそれほど大きくも小さくもありません。あの靴に合った足をした方が他にもいらっしゃったんじゃありませんか?私の前にも何人かがお城に上がって、王子と面会したと聞いたんですが」

「うん、そうだよ。君の前にも数人、娘達と会った」
 王子は素直に答えた。

「それでは、その前に会った方たちは舞踏会で踊った人ではない、となぜお分かりになったんですか?」

「だから靴だよ」
 王子は微笑んだ。
「本当は花嫁を選ぶための舞踏会など乗り気じゃなかった。君と踊った時にも、正直、誰とも結婚などしたくないと思っていたんだけど、君が落とした靴を手にとった時、運命を感じたんだ。この娘しかいない、僕の伴侶となる人は、って。さあ、その靴を脱いで、僕にその可愛い足を向けてくれないかい?」

 王子はシンデレラのそばにひざまずくと、靴を脱がせ、その香りを存分に楽しむのだった。

終わり
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物忘れ



「はて?今日は何するんだっけかな?」
 おじいさんが言いました。
「確か浜辺に行って……」

「浜辺?」
 おばあさんがそれを遮りました。
「それはとっくにやったでしょう。あなたの前妻はずっと昔にくにに帰りましたよ。羽衣を奪い返してね」

「そうだっけか?」
 おばあさんに言われ、おじいさんは困惑気味でしたが、「いや待て!」と、突如ひらめいたらしく、叫びました。
「浜辺は浜辺でも、まだ、亀は助けてなかったんじゃないかな?」

 おじいさんの言葉におばあさんは呆れて返しました。
「それもとっくにやってしまったことでしょう。自分がそんなに老けてしまった原因、忘れてしまったんですか?」

「そうだったか?」
「そうですよ」
 おばあさんは軽くため息を付きました。

「じゃあ、今日は山へ行く日だったか!それじゃ、さっそく、昼飯のおむすびを作ってくれ。よく転がるように、まん丸にな」

 それを聞いて、おばあさんは今度は深くため息を付きました。
「本当、おじいさんはこの頃、物忘れがとてもひどくなってるんですねえ。それもとっくにやったじゃあありませんか。おかげで、こんな裕福な暮らしができてるんですよ」

「あれ?そうか。じゃあ、昼飯は持っていかずに、山へ行って竹を取ってくればいいのかな?」
 その言葉を聞き、おばあさんは悲しそうに言いました。
「ああ、あの子はねえ。もう、会えないでしょうねえ。月に行ってしまったんですから」

「竹取じゃないのか?じゃあ、山へ柴刈りに行けばいいのか?」
 おばあさんは首を横に振りました。
「それで私が川へ洗濯に行くのはもうやりました。あの子は今は鬼退治に向かってる最中ですよ」

「それじゃあ、山へ行く途中で鶴を助けて……」
「鶴も雀も、既に一度助けてます」
 おばあさんがピシャリと言いました。

「ん~、じゃ、畑か。畑へポチと一緒に……」
「ポチはとっくに死んでます」

「じゃあ、あれだ」
 おじいさんが手をたたくと、今度こそ分かったという風に言いました。
「たぬきだ!畑を荒らすたぬきを捕まえてくるんだ」

「ああ、それはまだやってませんねえ」
 おばあさんがうなずきました。

「よ~し、それじゃ、行ってくる。おばさんは夕飯の用意をして待っていてくれ。今夜はたぬき汁だ」
 おじいさんは意気揚々と、家を出ていきました。おばさんはその姿を優しく見送りました。
 その後に起こる悲劇も知らずに。

”カチカチ山編 開帳”

終わり

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告知



 突然目の前に天使が現れ、告げた。
「驚かないでください。私は大天使ガブリエル……」

「ガブリエル!?」
 私は驚愕した。
「ガブリエルって、聖母マリアの前に現れたあのガブリエル?」

「そうです」
 天使がうなずいた。
「私はマリアに受胎告知をした、その大天使ガブリエルの部下です」

 その一言で私は拍子抜けした。ああ、部下。
 しかし、部下といえど天使には違いない。私はすぐにひざまづき、精一杯へりくだって聞いた。
「それで、大天使ガブリエルの部下のあなた様が、いかようなご用事で、私の前にお現れになったのでしょうか?」

 天使は優しげな声で言った。
「わたくしも上司と同じ仕事についております。すなわち、あなたに受胎告知をしに来ました」

「はっ?」
 私はあまりのことにしばらく声が出なかった。

「えっ?受胎告知って、つまり、私が聖母になるってこと?」
 ようやく、そう天使に聞くと、天使は笑って頭を振った。

「いえいえ、そのような大層なものではありません。もし、あなたが神の御子をお宿しになったのだとしたら、当然、前回と同じく、私の上司、大天使ガブリエル様があなたのもとにいらっしゃるでしょうけれど、今回、あなたが宿されるのはごく普通の子供です」

「え~っ!普通の子供?じゃ、何でわざわざ?」
 私は聞いた。
「わざわざではありません。子供を生む人には必ず天使が告知しているんですよ。大半の方は覚えてらっしゃらないようですけど」

 そうだったのか!知らなかった!でも、待てよ?

「あの~、何かの間違いじゃないですか?私、その、子供を授かるような覚えはまったくないんですけど」
 現在、私には夫も恋人もいない。正直言って、経験すらない。変だ。

「いいえ、間違いではありません。あなたが今日、受胎され、九ヶ月後に子供を生むのは決まっていることなのですよ。なぜなら、私は今から九ヶ月後の未来からここにやってきました。あなたが産んだ元気な子供の顔を確認した後で。それですので恐れることはありません。あなたとあなたの子供に神のお恵みがありますよう」

 そう言い残して天使は消えた。

 そして、案の定、私は目を覚ました。
 
 うん、夢だ。
 妙にリアルだった気もするけど、この世に天使などいない。ただの夢。

 しかし……。

 今日、友人といつものように飲む約束をしている。気のいいやつで、私も好きっちゃ好きだけど、男女の仲とは言い難い。

 どうする?今回は都合が悪くなったと断るか?
 でも、ただの夢だよね。大げさに考える必要あるか?

 ん~~っ!
 私はぐちゃぐちゃになった頭で、最後まで考えていた。

終わり

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羨望



「こんばんは」
 私は玄関の戸を開け、奥に向かってあいさつをした。
 その声を聞きつけて出てきた彼女は、案の定、私を見て、何の用?という顔をした。

「この度は、うちの人のせいで、そちらの旦那様が大変な目に会われた、と聞きまして」
 私は深々と頭を下げた。
「それでお詫びと言っては何ですけど、せめてもの償いとして、つまらないものですが、これをどうぞ」
 と言って、私は菓子包みを差し出した。

「あ~ら、わざわざ、まあ」
 彼女は私を見下ろしながら、包みに手を掛けた。
 しかし、「でも、これは受け取れませんわよ」と言って、包みを押しかえしてきた。

 私はそんなこと言わずに、と再び包みを相手に差し出すと、彼女は突然高笑いしだした。
「あなたの魂胆は分かってるんですよ。これを届けにわざわざ来た訳じゃないんでしょう?本当は、夫がどんなふうになったのか見に来たのよね、そうでしょう?」

 意地悪い笑顔を崩さず、彼女は続けた。
「否定したって駄目。ええ、ええ。あなたの気持ちは、私には痛いほどわかるのよ。あなたと私はお仲間ですものね。それじゃ、見せてあげるわ。あなた、あなた!ちょっとこっちに来て」

 彼女が奥に声をかけると、しばらくして、彼女の旦那さんが渋々とした調子でやってきた。
 見るとやっぱりある。立派なコブが。両方の頬に。

「前は一個だったから、どんなに立派でも、やっぱりなんとなく、不満があったんだけど、これでもう完璧。どう?うらやましい?」
 そう言って、彼女は旦那さんのコブを両方の手に一つずつ愛しそうに載せ、プルプルとし出した。

 両方の手で!
 なんて羨ましい!

 つい先日までは、一つだけだったけど、私もあんな風にできてたのに。
 うちの亭主は馬鹿だ!私がコブをどんなに好きだったか知ってたくせに!

 私は悔し涙を流しながら、彼女の家を後にした。
 
 こうなったら、亭主と彼女を亡き者にし、後釜を狙ってやる!覚悟しとけよ!


終わり

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降霊



「それで、お望みの人と、お話することができたでしょうか?」
 霊媒師を務める私は、降霊を終え、客である女に聞いた。

「はい」
 女は青ざめた顔で言った。
「やはり、彼は、私が交際を断ったのが原因で命を断ったと。事故ではなかった……」

 女はハンカチを目に当て、涙ぐんだ。
 しかし、その瞳の奥に浮かぶ優越感を私は見逃しはしなかった。
 
 やはり、あの受け答えで良かったか。
 
 この商売は、事前の調査と、相手の心理の文を読むのに長けていることが肝心だ。
 私は本当に死人の声が聞こえるのだが、未だにそのまま正直に言ったことはない。死んだ者の本当の気持を語ったところで、誰が得するというのだ。

 相手が聞きたいことを話す、それが商売のコツなのだ。

終わり

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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