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続々・ガチョウと黄金の卵




「ガチョウと黄金の卵の話は知っているわよね?」
 私は彼に聞いた。

「もちろん知ってるさ。君が続けてひどい目にあったこともね」
 彼は私を心底同情した目で見た。

 私は特別な腸内細菌を持っている。他人に移植すると、かなりの病気が治る、そんな細菌だ。
 この菌は移植しても、数日で消えてしまうし、培養もできていない。なので、私から毎回採取するしかない。

 その現状に業を煮やした元彼が、私の体の秘密を探ろうとして、無理やり私の内臓の一部を採った。
 そのせいで、彼は今は塀の中。自業自得だ。

 で、前彼といえば、少しでも私の腸内細菌群の効力を高めようと画策して、私を監禁して、強制給餌を決行。臭い食品を死ぬほど食べさせられた。
 なんとか私の肝臓がフォアグラになる前に救出され、前彼も今は塀の中。当然だと思う。

 どうも私は男運がないようだ。
 それでも諦められず、三人目の今彼に、前の二人と同じように、ガチョウと黄金の卵の話を振ってみたわけなのだが……。

「その寓話を初めて聞いたのは、多分、小学校に入る前だったと思うんだけど、その時から疑問があったんだよね。なんで、ガチョウの飼い主は卵を孵して、黄金の卵を生むガチョウを増やさなかったのかなって」
 彼が言った。

 言われてみれば。
「そう言えば、そうよね。なんでそういう話にならなかったんだろう?」
 私は疑問を口にした。

「実はその答えも考えたんだけど、思ったのは、飼い主は黄金の卵を孵そうとはしたんだけれど、うまく行かなかったんじゃないか、てことなんだ」
 彼が答えた。

「卵が孵らなかった?」
 私は聞いた。
「かもしれない。黄金の卵は雛を孵すようにはできていなかったのかもね。もしくは、孵った雛は卵を生むようになっても、黄金の卵は生まないで、普通の卵しか産まなかったのかも」

「黄金の卵を生む能力が子供には伝わらなかった、と?」
「そう。そういうわけで、黄金の卵を生むガチョウはこの世に一羽しか存在できなかった」
「なるほどね~」
 私はうなずいた。

「でも」
 彼は私に顔を近づけて言った。
「君は違う。君の力はちゃんと子どもたちに伝わるはずだよ」
 にっこり笑っている。
 そして私に向かって言った。

「子供作ろう。できるだけたくさん」
「ええ~、そんな!そんな事いきなり言われても!」
 突然の言葉に私は驚いた。

 彼と付き合いだしてまだ三ヶ月。いくらなんでも早すぎ。
 私の戸惑いを無視して、彼は続けた。
「大丈夫、君は無事に赤ちゃんを生んで、授乳さえしてくれたらいい。あとの面倒な世話はぼくに任せていい。だから、なるべく間隔を開けずに、出産して欲しい」

 真剣な目だ。本気なの?
「ええ~、でも~」
 そんな軽々しく返事ができることではないよ。

「それで、生むのは絶対娘でなくちゃね。知ってる?腸内細菌は母親から子供に伝えられているんだ。男の子だとそこで途切れてしまう。それを避けるためにも、性判別済みの精子を使うべきだね」

 大真面目で力説している。
「ああ、その前に大切なことがあった。腸内細菌を子供に伝えるには、絶対下から産まなければならないんだ。帝王切開になるような事態は絶対に避けるべきだ。
 そうなると、子供は小さく生まれる方が安全だから、そんな遺伝子を強く持っている精液が望ましいな。まあ、初産の時だけ使えばいいだけで、その後はどんなに子供が大きくても大丈夫だろうけど」

「あの、それ本気?すると私はあなたの子供を生むわけじゃないの?」
「ん?別に僕の子供でも構わないけど?ただ、僕に赤ちゃんが小さく生まれる遺伝子があるかなあ?」

 駄目だ。
 話が根本的に合ってない。

 でも、どうだろう。前の二人よりはずいぶんマシだわよね。
 父親はどうあれ、たくさんの子供に恵まれるのは、それはそれで幸せかも。

 私は彼の案に乗ることにした。
 生まれてくる娘たちには、自分の経験をよく教えておこう。

終わり
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続・ガチョウと黄金の卵




「ガチョウと黄金の卵の話は知っているわよね?」
 私は彼に聞いた。

「もちろん知ってるさ。あの話の最後も、そして、君に起こったことも」
 彼は優しく微笑んだ。

 私は特異な腸内細菌をお腹に持っていた。私のそれを他の人に移植すると、結構な疾患が劇的に治るらしい。
 けれどそれらは他の人には定着せず、培養も難しいようだった。

 前の彼は、そのことに苦悩して、私の体の秘密を探るべく、承諾もなしに、無理やり、私のお腹を開いて、いくつかの臓器の一部を採っていった。

 そんな事があって、彼は塀の中。研究は別の人が引き継いだらしいけど、私の腸内細菌の培養に成功したとは聞いていない。
 私のあれは、今は黄金より高値で取引されているとか。

「ガチョウの飼い主は間違っていた。お腹の中に黄金の塊は入っていなかった。欲の掻きすぎだね」
 彼が言った。

 そう、欲の掻きすぎよ。あの手術で無事生還できたからいいけど、私が死んだらどうするつもりだったのかな。人類の損失だと思うんだけど。

「だから、欲はちょっとにすればよかったんだよ」
 ん?
 彼が変なことを言った。

「ちょっとの欲って?」
 私は聞いた。

「とにかく、ガチョウは黄金の卵を生んでくれるんだから、その生まれる卵ができるだけ大きいものになるように工夫すればよかったのさ」


 当たり前の話だが、毎日の食事の量や種類によって、腸内細菌群は微妙に変わる。
 私のそれも例外ではなく、疾患に対して著効を示すのに必要な移植の量は、かなりの変動幅があった。

 というわけで、私は彼が指定する種々の食品を指定された分量食べ、私の腸内細菌が最高のパワーを発揮するメニューを見つけることに協力することにした。

 いろいろ試す中で、どうやら発酵食品がいい結果をもたらすことがわかってきた。
 納豆、お漬物、チーズ。
 中でも強力に私の腸内細菌の効力を高めたのは、あのシュールストレミングだった。

 知ってます?あの死ぬほど臭い食品。

 彼は私にあれを三度々々食べるように強制した。しかもそれだけ食え、と。あとの必要な栄養素はサプリで取れ、と。

 拒否したら、監禁され、いま、目の前にシュールストレミングが山となってある。

 これを食べなければ、強制給餌されるのだろうか?まさしくガチョウだ。フォアグラはできないと思いたい。


終わり

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ガチョウと黄金の卵




「ガチョウと黄金の卵の話は知ってるわよね?」
 私は聞いた。

「もちろん知ってるさ」
 彼は微笑んだ。

「それなら、愚かな飼い主が、毎日黄金の卵を生んでたガチョウを駄目にしてしまった、ってことも分かってるのよね」
 私はやや語尾を荒げ、言った。
「もちろん、それも分かってるよ」
 彼は軽くうなずいた。顔はまだ笑っている。

「じゃあ、どうして……」
 私は悲しげに彼を見つめた。彼の愚かな行動を止めたかったのだ。しかし、彼の決意は固いようだった。
 眼の前の手術道具を仔細に点検しながら、彼が理由を告げた。

「僕はけしてその愚かな飼い主のようにはならない。そういう確信があるからさ。話の中の飼い主はガチョウの体について、何も知らない素人だったろう?まあ、食べるために、ガチョウを解体したことぐらいはあっただろうけど、所詮その程度の経験しかなかった。だから、単純にガチョウの腹を開いて、そして殺してしまった」

「あなたは殺さないと?」
「当然さ」
 彼は力強く肯定した。
「血液、CT、MRIなど、事前に考えられる限りの検査を念入りにした。関連の文献も読んだ」

「それは分かってるけど……」
 私は言った。
「それでももう一度考え直してみない?まだ他の方法があると思うんだけど?」
 私は涙目で訴えた。

「いや、もうこれしか方法はないんだよ。直接お腹を開けて、臓器のサンプルを採取して、顕微鏡を使って徹底的に組織検査をしてみるしかね。
 何度も他の被験者に移植を試みたけれど、他の人には長期間、留まることはなかった。
 それなのに、治療には著効を示す。かなりの多数な疾患に……。

 君の腸内細菌は本当に驚異的だ。まさに黄金の卵だと言ってもいい。それを毎日、少しだけしか得られないなんて、人類の損失だろう?
 なんとしても、君の腸内の秘密を解き明かし、その優秀な腸内細菌群を大量培養する方法を確立するのが、僕に与えられた使命なんだ。
 腕がチクッとするだろうけど、すぐに麻酔がきいてくるからね」

 私は手術台の上で精一杯もがいたが、縛り付けられた体を解き放つことができなかった。
 やがて薄れゆく意識の中、私は自分がお話のガチョウにならないことをひたすら祈った。


終わり

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夢に周公を見ず




「これを飲めば、思った通りの夢が見れるのね?」
 私は期待に胸を膨らませて、渡された錠剤シートを見た。

「いや、絶対というわけじゃないから。あくまで見やすくなる、ってだけで」と、薬をくれた友人のメイは水を差した。
「自分が見たいと思う夢を見ることができるようになるには、まずは明晰夢を見る必要があるの。で、その薬を飲むと、必ず明晰夢が見られるようになるってわけ」と、言ってきた。

「明晰夢?」
 私は聞いた。
「ああ、これは夢なんだ、自分は今、夢を見てるんだなあ、ってわかる夢のことよ」
 相手が答えた。

「ああ、たまにそんなことあるかも」
 私は過去に見た夢の幾つかを思い出した。
 
「夢の中で、今、自分は夢を見ているって自覚できたら、そこから見たい夢に持っていくの。最初は上手く行かなくて目が覚めてしまうかもしれないけど、そこをうまくコントロールして、目が覚めない、けれど夢も見なくなるほど深く眠らないという状態を持続して、見たいもののことを考える。多分、一週間もしたらできると思うわ」

「ありがとう、やってみる」
 私はメイにお礼を言った。

「でも、薬まで飲もうとしていることは、バレないようにしなさいよ。旦那さんには言ってないんでしょう?夢でどうしても逢いたい人のこと」
 私はうなずいた。

「まあ、知り合った中学の頃から、ずっとあの俳優のファンだったもんね。だから気持ちは分かるけど。えーと、なんたらタケシって人だっけ?」
「イジュウイン タカシ!」
 相手の失礼な物言いに、私は強く訂正した。

「考えてみれば、あのイジュウインって、あんたの旦那さんに似てるよね。いや、旦那さんがイジュウインに似てるのか」
 そうだ。旦那と付き合おうと思ったきっかけは、顔がイジュウイン タカシに似ていたからだ。でも、やっぱり、彼じゃないと……。

「あなたの熱愛している俳優に自分が似ていることを、旦那さんは知ってるの?」
「いや、言ったことない。ショックを受けられたら嫌だし……」

 私が中学の頃から、イジュウイン タカシのファンだということは旦那には秘密だ。
 まして、イジュウイン タカシが好きなのではなく、彼がやった役のマジマ セイギに惹かれたのだということは、家族の一部しか知らない。

 更に本当は、マジマ セイギが気に入ったのではなくて、彼が変身した姿のライドレンジャーに心を奪われたということは誰にも言ってない。
 そして、彼のそばにいる女性キャラに激しく嫉妬したことも……。

 今宵、この薬を飲んで、ライドレンジャーに会おう。そして私は悪の女幹部として、ライドレンジャーをいたぶるのだ。
 私は、逸る胸を抑え、家路についた。


終わり

最後までお読み下さり、ありがとうございました。

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「彼女と一緒になろうと決めたってことは、あれ使ったんだな?」
 報告しに来た相手が母親と台所に行き、二人っきりになったのを見計らって、息子に父親が聞いた。

「うん」
 息子が言った。
「悪いとは思ったんだけど、どうしても不安で」

「分かる、父さんもそうだった」
 父親はうなづいた。
「自分に不相応な美人がパートナーになってくれると思うとな。何か裏があるんじゃないかと思って、どうしてもな」

「このことは絶対、内緒ににした方がいい」
 父親は少し悲しげに息子を見つめ、息子に強く言った。
「ああ、分かってるよ」
 息子が応じた。


「あれ、やっぱりありました」
 台所で、未来の義母に彼女が告げた。
 
 何のことか、すぐにピンときた母親は苦笑した。
「あら~、そう!本当に?まったく、親子して。本当、あんな息子でごめんなさいね。なんなら婚約、考え直してもいいのよ」

「いいえ、これで彼が私のことを信用してくれるなら、かえって良かったかと」
 彼女は穏やかに微笑んだ。
「そう?」
 彼女の言葉に、母親はホッとした。

「前もって、味など教えていただいていたので、薬が盛られたのはすぐわかりましたし、効果を消すものも譲られていましたので、実害はありませんでしたから。
 彼は過去の私の男性との付き合いを知りたがっていただけのようでしたから、素直に自白剤の効果に身を任せても良かったんですけど。他の答えにくいことを聞かれたら、やっぱり嫌だったので」

 彼女の言葉に母親は言った。
「それは当然ですよ。誰だって、たとえ好きな人にだって、いえ、好きな人だからこそ、秘密にしておきたいことは必ずあるものですものね」

 彼氏の母親が物分りの良いに安心し、彼女が聞いた。
「ところで、自白剤とその効果を消す薬をどうして持ってらっしゃたんですか?どちらも簡単に手に入るとは思えないんですけど」

「それは私と旦那様に、薬学の研究所に勤めてるすごい友人がいて、その方が作ってくれたの。結婚する前、旦那様には自白剤を。そして私にはその効果を消す薬をね」
 少し夢見るような表情で、母親が言った。

「その友人という方は男性ですか?」
 彼女が聞いた。
「ええ、とっても素敵な、いい方よ。そのうち、ぜひ、あなたにも紹介してあげたいわね。あなたもお礼を言いたいでしょう?」

 母親が意味深に笑い、彼女も同じように意味深に笑い返した。

終わり
 

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ジャック・リッチーの短篇集を読んで、その読みやすさに感銘を受けた火消茶腕です。

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