静かに雪が降り続く夜の庭先で、二人の男が対峙していた。
「ようやく見つけたぞ!キラ!覚悟しろ!」
片方が言った。
「ふふふ、よくここまで来たな、オーイシ。褒めてやろう」
それに対し、もう片方が憎々しげに答えた。
やっといたよ、ラスボスのキラ。
しかし、何でこいつ炭小屋なんかにいるんだ。探しまわったよ、さんざん。屋敷の方々を。
しかも見つけたと思ったら、こいつ、白い寝間着姿の白髪の老人だし。一瞬、また雑魚キャラかと勘違いしちゃったじゃないか。
でも、こいつの周辺の雰囲気が全然違ってて、しかもすごい悪人顔。BGMもそれっぽいのに変わった。ラスボスらしい。さて、戦闘に入るのか!
って思ったら、両脇に新たな敵が現れやがった。
あれ、こいつら見たことあるぞ。
左側には十手を構えて、ゴヨー、ゴヨー言う、目明かし。こいつコインを投げてくるんだよな。
そして右側には合羽に三度笠、旅がらす姿の男。こっちは長い爪楊枝を吹いてくるんだっけか。
両方とも前に倒した中ボスじゃん。そうか、そういう作りか。ラスボス戦前に以前倒した中ボス達が復活してくるってやつだな。
しかも前よりもちょっと強くなってるんだよな、大抵。
こいつらと戦った時より、今はこっちのレベルは格段上だけど、三人がかりだ。あっという間にライフゲージが下がって来た。やばい。
やっぱり、ハードモードは最後もきついな。でも、イージーモードだと仲間が46人もいる設定らしいからなあ。何でそんなに味方の数を増やしたのか、超ヌルゲーになるに決まってるだろ。第一仲間全員覚えられるのかよ。
いやー、死んだ。ほんときついわ。
案の定、一人を倒すとまた次の中ボスが再登場してきた。
忍者の頭領、なんか子どもを乳母車に乗せている浪人と来て、全盲で仕込杖持ってるあんま、片目片腕の男。最後は何故か真ん中が老人の三人組。こいつらに印籠をかざされるとしびれて動けなくなるから始末に悪い。
何回も死んで、それでも全ての中ボスをやっと倒して、いよいよラスボスとの一騎打ちとなった。また音楽が変わる。あれ?ラスボスでかくなってね?
いつの間にか両手に刀持ってるし。
「よくぞ、配下の者をみな倒した。敵ながら見事な腕前。感心、感心。だが、我が二天一流の剣技。オーイシ、果たして貴様に受けきれるかな?」
鬼のような形相で両刀を構える。
それに負けず、オーイシは八相に構えて言った。
「こちらとて柳生新陰流免許皆伝の身、いざ、勝負!」
会話が終わり、戦闘シーンに変わった。
うわっ、つえー!
刀二本持ってるから、こっちの攻撃を一刀で完全に受け、直ぐ別の刀が攻撃してくる。
こちらが攻撃を防いでも、やっぱり別の方から二刀目が襲ってくる。距離を取らないとまずい。
さんざん逃げまわったが、相手のスピードもものすごく、すぐに庭の隅に追いつめられる。
駄目だ、死んだ。
何回か同じことを繰り返したが、さっぱり勝機が見えない。このままでは駄目だ。なんか攻略法があるはずだ。
俺は考えた。
そこでよくみると、キラへはその本体だけでなく手に持っている刀にも攻撃ができるように表示されてる。なるほど、そういう事か。
俺は方針を変え、防御力が一番低そうな脇差しのみを攻撃することにした。
逃げまわっては隙を見て脇差し攻撃。何回かそれを繰り返し、ついに脇差しを折ることに成功した。
やった!これで一刀同士。これで勝てるだろう。
と思ったら、相手の刀を受けた瞬間、こちらの刀が折れた。マジ?!
なすすべもなく、次の攻撃であっけなく死んだ。
考え方は悪くないはずだ、と思い、また同じ戦略を試みる。けれど相手の一方の刀を折って、次に戦うと何度やってもこちらの刀が折れる。クソ!どうしたらいいんだ。
俺はまたしばらく考えこんだ。
メニューを開き、なにかいい方法か道具がないか見てみる。すると戦闘コマンドに新しいものが追加されていた。そうか!これを使うのか!
俺は再びキラに挑んだ。
隙を伺い脇差しを攻撃、その刀を折る。
続けて攻撃すると、俺の刀は折れた。ここからだ!
すぐに相手と距離を取り、折れた刀を捨てる。キラは振りかぶり、まっすぐに突っ込んできて、オーイシの頭を割ろうとした。今だ!真剣白刃取り!
決まった!
キラの刀を両手を貼り合わせるようにしてオーイシが掴んだ。
「むむむっ」
刀は動かない。キラが声を発する。
キックのコマンドを選択して入力すると、キラの腹をオーイシが蹴り、キラは刀を離し吹っ飛んだ。
勝ったな。
仰向けに倒れたキラの身体は縮み、みすぼらしい老人の姿となる。
近付いてみたが、ピクリとも動かない。
戦闘終了の音楽が鳴り、ホッとしていると、雑魚キャラの侍が大量に現れて、オーイシを囲んだ。
まだ続くのか?
と、思っていると、
「ヒカエー、ヒカエー!」の声とともに、白馬に乗って、着飾ったいかにも偉そうな男が現れた。
「われはショーグンヨシムネなるぞ!」
男が自己紹介すると、侍たちが一斉に土下座した。こいつらと戦わなくて済みそうかな?
ショーグンはオーイシの方を向くと言った。
「さて、オーイシ、主君の仇、見事果たしたことは天晴である。よって……」
場面は変わり、オーイシは広い畳の部屋で白装束をまとい、今まさに切腹しようとしてた。
ハードモードでクリアした場合、その類まれなる名誉のお陰で、室内でしかも畳を三枚も重ねた上で切腹できるんだそうだ。
ちなみに、イージーモードクリアは庭先でゴザの上での切腹となるらしい。
オーイシ、末代まで語り継がれるであろう武門の誉れを獲得。ゲームクリア!
そんな文字が出て、時代劇風ゲーム「ウチイリ」は終わった。
はっきり言ってクソゲーだった。メーカーの猛省を期待したい。
尾張
この作品はブログ村トーナメント、時代劇風小説に参加しようとして書きました。が、締め切りを勘違いしていて、間に合いませんでした。
ショートショートではないようだ気がしますが、ここに晒します。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
